特集 ● 黄昏れる日本へ一石

岸田政権の安保政策を批判する

「台湾危機説」を振りまきながら国家改造を目論む

戦争に協力しない!させない!練馬アクション 池田 五律

1.国家安全保障会議を不問にしてきたツケ

2022年12月16日、岸田政権は、新しい国家安全保障戦略を閣議決定した。国家安全保障戦略は、2013年に初めて出された。2022年版は、更新版。それが、防衛費GDP2%化、「敵基地反撃力」と称するものの保有を打ち出したことで耳目を集め、「国会にも諮らずに決めるな」といった批判の声があがっている。だが、何よりも問題にしなければならないのは、2013年に設置された国家安全保障会議による国家安全保障政策の立案・決定を受けて、国会に諮ることなく、国家安全保障戦略が閣議決定されるという仕組みそのものなのだ。その仕組みは、岸田政権が新たに創ったわけではない。既に存在した仕組みに則って、閣議決定したのである。

2013年、特定秘密保護法反対運動は多少盛り上がりをみせた。だが、国家安全保障会議設置はあまり問題にされなかった。国家安全保障会議は、最低四人、首相、官房長官、外相、防衛相によって緊急事態時の基本方針を策定することと、平素からの国家安全保障戦略の立案を役割としている。実質的には、防衛、外務、警察官僚らで構成されている事務方、国家安全保障局に集う国家安全保障官僚が主導している。顧問には自衛隊高級幹部退職者も入っている。局長は、概ね、内閣特別顧問を兼任する官邸官僚でもある。

2013年版国家安全保障戦略には、集団的自衛権自衛権行使一部容認が盛り込まれた。これが2014年に閣議決定となり、2015年の安保法制整備に至る。だが「戦争法反対」の声が高まったが、その折も、国家安全保障局の存在は問題にされなかった。この国家安全保障官僚主導体制不問のツケが回ったのだ。

2.2013年からの琉球弧自衛隊増強と2018年からの敵基地攻撃力実質保有

2013年版国家安全保障戦略は、「中国の急速な台頭と様々な領域への積極的進出」を「国家安全保障上の課題」の一つに位置付けた。それに基づく2013年版防衛大綱では、「離島防衛」を念頭に置いた「統合機動防衛力」の整備が打ち出された。これを契機に、対中最前線と位置づけられた琉球弧の自衛隊増強が本格化した。与那国への監視部隊配備、石垣、宮古、奄美への地対艦ミサイル部隊配備、馬毛島基地建設などである。

2015年の日米防衛協力のための指針(ガイドライン)で同盟調整メカニズムが設立されて以降、抑止力・対処力の一層の強化が図られ、2013年版防衛大綱では間に合わなくなった。そこで2018年版防衛大綱では、「宇宙・サイバー・電磁波領域」も含む「領域横断的作戦」を遂行するための「多次元統合防衛力」の整備が打ち出された。実は、この段階で、「敵基地攻撃力」の保有を明記するか否かが論議になっていた。結局、明記は見送られた。だが、「スタンドオフミサイル」導入という名で、外国製の長射程ミサイルの購入や12式地対艦誘導弾の延伸化が進められた。「敵基地攻撃力」の実質保有は、この段階から始まっているのである。

2013年版国家安全保障戦略も見直しも必要になった。そもそも、国家安全保障戦略は概ね10年の期間を念頭に置いたものだ。国家安全保障官僚たちは、2018年くらいから、2022年版立案に着手してきたと思われる。日米間の調整はしているだろうが、「バイデン政権の国家安全保障戦略のコピペ」などと言うのは誤りだ。

3.中国に対する統合抑止と拡大抑止

2022年版国家安全保障戦略、それに基づく防衛大綱改め国家防衛戦略(概ね10年の期間を念頭)、上記二文書に基づく中期防衛力整備計画改め防衛力整備計画(概ね5年から10年の期間を念頭)、いわゆる「防衛三文書」の最大の新規性は、ロシア、朝鮮にも言及しているものの、中国を「最大の戦略的挑戦者」と明確に規定した「統合抑止」を打ち出したことである。「統合抑止」とは、自国の軍事力による抑止だけでなく、経済、サイバーをいった分野も含め、同盟国・有志国と連携して抑止するというものだ。

「統合抑止」の柱の一つは、「拡大核抑止」(核の傘)と「拡大通常抑止」を組み合わせる「拡大抑止」である。ミサイル防衛も、相手からの弾道ミサイル攻撃による被害を減殺することで報復反撃力を高め、その威力によって相手に攻撃を思い止めさせるという点で、核抑止力と位置づけられる。それに関しては、反撃能力と迎撃能力を組み合わせる「統合防空ミサイル防衛力」が打ち出されている。

4.新版台湾武力回収対処作戦―先制攻撃・統合司令部・宇宙安保

だが、主な想定は、通常兵器による「限定戦争」である。具体的には、中国による「台湾武力回収」シナリオだ。それに対処する作戦計画も、2013年段階のものから大きく変更されてきている。

緒戦は劣勢を強いられ、被害を最小化するためにグアムなどに米軍は撤収し、ハワイや米本土から来援する。この間、自衛隊が攻撃に耐え抜き、米軍のアクセスを中国軍が阻止し(アンチ・アクセス:A2)、戦域での米軍の行動を阻もうとする(エリア・デナイアル:AD)のを阻害する。例えば、西太平洋に進出する中国艦船を琉球弧に配備した地対艦ミサイル部隊によって攻撃する。かつては、こういったことが想定されていた。

最近のシナリオは、以下のようなものだ。

敵による攻撃の兆候捕捉段階で、米軍・自衛隊が指揮統制システムを含む攻撃対象を先制攻撃し、即応的に地対艦ミサイルを携えた米海兵隊が遠征前方基地作戦で離島に展開し、自衛隊はそれと連携しつつ領域横断的作戦を遂行する。同時に、米豪海上部隊が中国の「一帯一路」の「一路」を断ちつつ北上する(海洋圧迫戦略)。

こうした運用をするには、陸海空自衛隊の統合運用、米軍との調整が前提となる。三自衛隊統合司令部を市ヶ谷に創設する構想が既に動き出している。ちなみに南西方面版統合司令部は、熊本の健軍駐屯地に設置される公算が高い。佐賀空港へのオスプレイ配備など、九州の自衛隊強化にも、注目しておく必要がある。

現代戦の帰趨を制する指揮統制通信コンピュータ情報監視偵察(C4IRS)を機能させる上で、偵察衛星、測位衛星など、宇宙領域は重要だ。小型衛星を協働させる衛星コンステレーションで超音速滑空弾を捕捉し、電子戦部隊によって機能麻痺に陥れる構想もある。こうしたことら、宇宙にも日米安保が適用されるに至った。

5.琉球弧の先制攻撃拠点化と国民保護

「台湾武力回収」対処作戦の変更を反映して、2022版国家防衛戦略は、2027年から32年にかけ「早期遠方侵略阻止防衛力」、平たく言えば長距離先制攻撃力を整備することを打ち出した。それに基づき、第二段の琉球弧自衛隊増強を進めようとしている。先制攻撃拠点化・要塞化である。例えば、スタンドオフミサイル部隊の配備。射程900㎞のミサイルなら、奄美からも上海が射程に入る。敵の先制攻撃あるいは反撃も想定される。そこで、強靭化、即ち司令部の地下化など要塞化が図られることになる。

2018年版防衛大綱から、自衛隊は、沢山の戦死傷者が出ることも想定した「戦闘医療態勢」の強化にも力を入れている。新たな「防衛三文書」を受け、那覇病院の機能強化などが日程に上ってきている。

当然、戦場と想定されている琉球弧の住民から不安の声があがっている。これを逆用して、「国民保護も任務とする」と称して、輸送艦を増強し、沖縄防衛集団の創設も持ち出した。さらに民間港湾、空港の軍事利用、民間船舶などの徴発、運輸労働者の徴用もねらっている。自衛隊の本務は、戦闘と治安出動。そもそも国民保護は、戦闘しやすいように住民を追い出し、陣地構築のために土地・家屋を利用するためのものだ。住民はシェルターに閉じ込め、避難民に「敵性分子」が紛れ込んでいないか洗い出す。このような国民保護態勢の平素からの構築、例えば避難訓練などを通した住民の組織化が、今後、加速されることになろう。

6.平素からの対処態勢構築と対中包囲網形成

有事対処作戦態勢だけでは、相手を「抑止」するには十分ではない。「何時でもやってやれるぞ」と、平素から「武力による威嚇」をすることが、相手に「脅威」を与え、相手の先制攻撃、例えば「台湾武力回収」への抑止になる。米軍・自衛隊の幹部は、そのように考え、平素から、遠征前方基地作戦と領域横断的作戦を連携させた「戦争のような演習」を繰り返す。平素から「一路」遮断の「脅威」を中国に感じさせる海洋圧迫戦戦略を進める。この海洋圧迫戦略の具体化の代表例が、オーカスで決まったオーストラリアの原子力潜水艦導入だ。オーストラリア軍を日本に受け入れるための円滑化協定(地位協定)も締結している。イギリスとも締結した。海自艦船も、ベンガル湾から西太平洋にかけ各国軍と共同訓練をしている。

対中多国間安保化が「統合抑止」の言う「同盟国・有志国との連携」の柱であることは間違いない。

岸田は、G7広島サミットに向け、「ウクライナで起きたことは東アジアでも起こり得る」と中国脅威論を煽り立て、仏独などNATO諸国もインド太平洋地域における対中包囲網に引きずり込もうとしている。一方、フランスは南太平洋に核実験場を持つなど、自ら「太平洋国家」と称し、積極的姿勢を示している。仏独によるインド太平洋地域での合同演習も画策されている。日米豪印のクアッドもある。元徴用工による戦後補償要求を封じ込めることのみかえりに尹韓国大統領をG7に招き、岸田は、日米韓軍事一体化を飛躍的に進める道を開いた。訪日したフィリピンのマルコス大統領とは日比合同演習の検討や、海上安全保障での協力強化で一致。インドネシアもベトナムもG7サミットに呼ぶ。「気候変動対策」を口実に、クック諸島やコモロ諸島も呼ぶ。同四国への軍事支援版ODA(政府安全保障能力強化支援(OSA))も設けた(2023年4月6日)

こうしたことは、分断と緊張激化をもたらし、偶発戦争の危険性を高めることになる。

7.グレーゾーン事態対処・情報戦・サイバー戦・日本版CIA・・・

想定しているのは、「軍事・非軍事/正規・非正規」の手段を混交させた「ハイブリッド戦」。それに伴い、重要影響事態、存立危機事態、武力攻撃事態、グレーゾーン事態が、切れ目なく同時に生起すると考えている。

「グレーゾーン事態」の一つは、「武装漁民による離島占拠」。それへの対処を口実に、海上保安庁と海上自衛隊、さらには米海軍、沿岸警備隊との連携が強化されようとしている。有事に海保を防衛大臣の指揮下に置く動きもある。この態勢は、フィリッピンなどと連携した平素からの対中海洋圧迫にもつながっている。

自衛隊は、反戦デモも、敵の情報操作や工作によって引き起こされるグレーゾーン事態の一つとみなし、治安出動対象としている。この認識を前提として、2022版国家安全保障戦略では、敵の情報操作に対抗する情報戦・認知戦が強調されている。政府・防衛省・自衛隊が流す情報を信じ込ませるということだ。

情報戦には、防諜と諜報の両面がある。その主舞台の一つは、サイバー空間だ。サイバー戦は、指揮統制システムの防護だけではない。「能動的」(先制的)に相手のシステムに侵入して情報を収集したり、機能を麻痺させたりもする。自衛隊は「能動的サイバー防護」と言っているが、将来的には「防護」に止まらないだろう。

ヒューミント(直接的な人との接触による諜報)も進めようとしている。これらによる監視は、国内の「敵性分子」にも向けられる。それらの先にあるのは、日本版CIA構想だ。

ちなみに、米英豪加ニュージーランドの秘密情報共有網ファイブ・アイズに、日独韓を入れる動きもある。諜報戦分野でも多国間安保化が進んでいることにも注意を払っておく必要がある。

8.経済安保・増税軍拡・新しい資本主義・国家改造・・・

経済安保も強調されている。その柱の一つは、重要物資の確保による継戦能力の維持と、平素からのそのサプライチェーンの確保である。代表的なものとしては、半導体のサプライチェーンからの中国排除(台湾包摂)だ。もう一つは、重要技術の開発と漏えい防止。この具体的な現われは、防衛産業強化法案(国有化、育成、武器輸出拡大、情報漏えい防止)だ。こうした動きは、経済安保推進法強化、特定秘密保護法強化へと連動していく。研究機関の国家統制強化という点では、学術会議改組問題ともつながっている。また、外国人留学生・研究者への監視強化という点では、入管法改悪の動きとも関連している。平素からの対処態勢の構築は、かねてから言われてきたものだ。だが、その領域が拡大していることに注意すべきである。

いずれにしても、「統合抑止」のためには、多額の防衛費が必要になる。2023年度予算に計上された防衛費は、前年度を1兆4213億円も上回る6兆6001億円(米軍再編等を含めると6兆8219億円)。これは、今後5年で43兆円の初年度の額に過ぎない。兵器のつけ買いのローン支払いを含めると、実際は5年総計で60兆円規模になる。財源は増税で捻出。軍民共用インフラ整備を口実とした建設国債名目の戦時国債発行にも要注意だ。

一方、防衛産業は育成。司令部地下化などの要塞化、シェルター建設などで、軍事土建資本主義に巨額の利益をバラマキ。インフラ整備に、自衛隊、海保の要望も反映させる。これが岸田の「新しい資本主義」の正体だ。

産業政策、インフラ整備計画など、平素から多様な領域に関連する国家安全保障政策を推進するために、2022版国家安全保障戦略は、「省庁横断的総合防衛体制」の構築を打ち出した。国会改造計画だ。

地方自治体も国家安全保障政策の下に組み込む必要が出てくる。国民保護態勢の強化、隊員募集のリクルート活動などは、その典型だ。「危機管理の専門家」と称して、自治体の危機管理部門に退職自衛官を送り込むといったことが、今まで以上に進められるであろう。2022版国家安全保障戦略には、「地域コミュニティとの連携」などが明記されている。自衛隊による地域浸透工作にも注意を払う必要がある。

9.台湾危機説を振りまく情報戦

以上の「防衛三文書」の提示した国家安全保障政策を、岸田政権は、「台湾危機説」によって正当化している。だが、中国は台湾が独立宣言しなければ「武力回収」をしない。国民党はもちろん、民進党も、独立宣言はしない。バイデン政権でさえ、その国家安全保障戦略で「米中平和共存」の可能性はある、としている。あたかも「台湾危機」が「必至」であるかのような認識は、岸田政権によって振りまかれた情報操作であり、いわば国内向け情報戦・認知戦の結果なのだ。「戦争必至説」を真に受けて対策を要求すると、国民保護態勢の構築、シェルター建設、危機管理体制強化、果ては緊急事態条項追加改憲まで呼び込んでしまうことになりかねない。伝統的「危機アジリ」から脱却しなければならない。

なお「専守防衛逸脱」という観点からの批判だけでは、「脅威」を前提にした上での論議に陥るおそれがある。しかも、「専守防衛」は、いくらでも拡大解釈できる。2022版国家安全保障戦略も、「専守防衛」を否定していない。公明党に配慮して「敵基地反撃力」と変えたが、「攻撃力」のままでも、岸田政権は「専守防衛」の範囲内と言っただろう。「予防戦争でないから、先制攻撃は、『専守防衛』の範囲内」という解釈に立脚しているからだ。そもそも「専守防衛」は、権力側が自衛隊の存在を正当化するために生み出したものだ。それを認めることが、長い目で反戦平和運動にとって意義のあることなのか、熟考することが必要だ。

10.ウクライナを矢面に立てた対ロ弱体化戦争連合国会議=G7広島サミット

「ウクライナ戦争」は、戦後反戦平和運動が掲げていた「非武装」も、「中立」も、吹っ飛ばしてしまった。

しかしウクライナ戦争は、国連安保に反するロシアの「違法な侵略戦争」とそれに抗する「ウクライナの自衛戦争」であるだけでなく、「ウクライナを矢面に立てた米NATOの対ロ弱体化戦争」という性格を有する。岸田政権は、この「対ロ弱体化戦争」に、経済制裁という形で「参戦」している。ウクライナに「殺傷能力のない装備」も供与している。55年体制期なら「実質的武器援助」と指弾されただろう。中国の停戦仲介の動きに対抗するかのように、対ロ制裁への参加を「グローバルサウス」に働きかけている。

ロシアのウクライナ侵攻から1年に当たる2月24日、「G7首脳テレビ会談声明」は、ロシアに「即時、完全、無条件撤退」を要求し、「プーチン大統領と他の責任を有する者の責任を追及する」と表明した。国連安保の土俵でしかウクライナ戦争をとらえず、自衛戦争支持・支援を当然視し、プーチンを刑事裁判所で裁くことを求めるのは、反戦なのか。G7と同じではないか。考究することが迫られている。

湾岸戦争の際には、国連安保による「制裁」の名の「正義の戦争」にも反対した。カンボジアPKOに対して、「武力で平和は創れない」と反対した。ソマリアPKOでは、PKO部隊が紛争当事者化した。国際刑事裁判所が、大国の内政干渉の道具になるという限界もかねてより指摘されている。そうしたことから、国際立憲主義も、一時よりはもてはやされなくなった。世界政府論が支持国と反対国の分断と対立を生むことを、田畑茂二郎は1950年の岩波新書『世界政府の思想』で、とっくの昔に、明らかにしている。国連神話から脱却し、主権国家の連合体である国連含め、主権国家システムを前提にしたのではない反戦平和論を再生させる必要がある。忘れられている感がある良心的徴兵拒否、無防備地域宣言など、様々な蓄積を掘り起こさねばならない。

それはともかく、G7はプーチン逮捕までウクライナ戦争を長期継続する構えだ。その結末がプーチンら戦犯裁判に至るものになるなら、ロシアから常任理事国の地位を奪い日本が成り代わる国連改革につながる。岸田政権は、そのような取らぬ狸の皮算用をしているようだ。岸田政権へのウクライナ戦争政策、直近で言えば、「ウクライナを矢面に立てた対ロ弱体化戦争連合国会議」となるG7広島サミットに反対していく必要がある。

11.ウクライナ戦争下の国家安全保障官僚主導の国家改造を許すな!

以上の対中ロ政策を見ると、日清戦争から日露戦争期に見られた「英米を後ろ盾に中華帝国を解体し、ロシアと対決」した時代を彷彿とさせられる。現代版は、「ロシアを解体し、中華帝国と対決」するだ。その根底には、「英米と戦ったのは誤りだが、侵略と植民地支配は反省の必要なし」という歴史観がある。

アメリカの言いなり論や、外務省に言われてイヤイヤ防衛省・自衛隊は動いているといった見方が根強い。だが、この「日米英同盟・対中ロ対決」路線は、国家安全保障官僚どもが主体的に選択したものだ。「どうして不合理なことを防衛官僚や高級自衛隊幹部は進めるのか」という質問を受けることもある。どうして彼らを合理的な善玉だと想定するのかが、不思議だ。

アジア太平洋戦争で明らかなように、非合理的な選択行動をするのが軍人なのだ。現代版の軍事官僚・国家安全保障官僚も同じだ。「2027年台湾危機説」を振りまきながら、概ね10年を念頭に置いた国家安全保障戦略で対処態勢を整えると言うことからして、矛盾だらけ。非合理な嘘を平気で言う。権限、利権の拡大しか考えていない。彼らの次の最大目標は、「省庁横断的総合防衛体制」の構築などの国家改造だ。「ウクライナ戦争下の国家改造」・・・。「防衛三文書」は、そのための屁理屈だ。国家安全保障会議を問題化し損なった轍を踏まぬよう、国家改造計画と対決することが必要だ。

いけだ・いつのり

1960年生。雑誌編集者を経て、河合塾にて小論文指導にあたる。同時に「派兵チェック」、「戦争に協力しない!させない!練馬アクション」などの市民運動に関わる。著書に『海外派兵! - 自衛隊の変貌と危険なゆくえ』(創史社 2001年)、『慶應小論文で鍛えるロジカルシンキング』(翔泳社 2014年)。

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