編集委員会から

編集後記(第19号・2019年春号)

―――安倍関与で傷つく令和、沖縄では令和の琉球処分

■令和の喧騒の中、改元の日を迎えた。この喧騒は一体なんなのか改めて天皇制とは何かを考える契機になればと思う。朝日新聞は遠慮がちにではあるが、一面トップや二面で「元号案 首相指示で追加」「濃い政治色」「保守派に配慮」と報じ、今回の令和への改元が安倍の主導によってなされたことを明らかにした。さらにその制定過程を上智大の高見勝利名誉教授が「皇太子への事前説明は、元号の制定を天皇から切り離した元号法の運用を誤るものだ」と指摘したと報じた。また同教授は「憲法4条は政治の側が天皇の権威を利用することも禁じている。特定の政権支持層を意識した首相の行為は、皇太子に意見を求めたかどうかに関係なく『新天皇の政治利用』にあたり、違憲の疑いがある」と批判していると、結論的に報じ、朝日的にギリギリ踏み込んで論じた。

●令和決定のプロセスやそれ以降の安倍の談話やテレビ局を渡り歩いてのパフォーマンスを聞けば聞くほど見れば見るほど、あの“巧言令色”に嫌になった人が多いとか。安倍にしてみれば右翼・保守勢力にも気を使い、何より令和の元号を決めた当事者として歴史に名を残したいと必死だったのだろう。しかし逆だ。安倍が主導することによって令和という元号はケチがついたというか、あの安倍が決めた元号として末永く歴史に汚点を残すだろう。曰く、国書、万葉集からの出典と、意味をこめる。これも安倍主導とか。“国書からがいいね”と安倍が言ったとか。しかし安倍の発想のレベルは、従来中国の「漢籍」から取られてきたことへの反中国意識の政治的反発でしかないことは多くの人の理解するところだ。談話では、自己の空疎な政治的思いを散りばめてもらった、官僚の作文書面を舌を噛みそうになりながら必死に読む姿を晒す、哀れな姿。失礼ながら、そもそも“知性も教養も”ほとんど無い安倍、漢籍など読んだことも食べたこともないだろう。万葉集もしかりではないか。そんな男が決めた令和は、その成立過程がバレればバレるほど、歴史的に揶揄される不幸をもって生まれた。これはオチだが、それを一番残念に思っているのは実は、天皇、皇太子ではないか。小生のいささか下品な評はさておき、本号で、長く天皇制を論じてきた本誌の千本秀樹さんは、「いよいよ強化される国民統合の手段―象徴天皇制」、大畑龍次さんは、「天皇制で今こそ活発な共和制論議を」、またコラム「ある視角」で永澄憲史さんは「“巧言令色、鮮矣仁”を安倍首相に贈る」と。

★令和の浮かれた本土の喧騒から眼を沖縄に転じれば事態は深刻である。本号特集のテーマを「日本を問う沖縄の民意」とした。昨年9月の知事選、今年2月の県民投票、そしてこの4月21日に実施された衆院沖縄3区補選―この選挙は自公維が正面から辺野古新基地容認を掲げて戦った。しかし結果は辺野古新基地建設反対の屋良朝博さんの大勝。“沖縄に寄り添う”などと口では語る安倍や悪代官=菅は、広範な軟弱地盤が指摘され、できるかも不明の海に巨額費用を投じ、翌日も埋め立ての土砂投入を強行している。極め付きは県民投票の圧倒的な辺野古反対の民意を受けても、岩屋防衛大臣は国会答弁で「沖縄には沖縄の、国は国の民主主義がある」と堂々と居直りの答弁。安倍も菅も同様。ふざけるにもほどがある。沖縄の人たちはどれほど声をあげ民意を示しても本土の政治に届かないのか、否本土の人間に届かないのか。今、沖縄では、もはや沖縄は昔のようにヤマトから独立するしかないのではないかの論議。以前は“居酒屋での独立論”と語られていたが、今はもっと広がっているとの声も聞く、当然だろう。

★今号で軍事ジャーナリストの前田哲男さんが、「南西諸島の軍事要塞化、専守防衛超え対中国軍事対決へ」と、再び沖縄が戦争の最前線への道を歩んでいると、日米の両政府の極めて危険な計画の全貌を総合的に分析。そこに浮かび上がるのは、再び沖縄が戦場の最先端となり、本土の犠牲となる姿だ。それらの地を歩きルポする栗原佳子さんのレポート。そして国政野党第一党立憲民主党の有田芳生さん(沖縄県連代表)は、遅れている沖縄政策への決意を率直に語る。また本土の人間には理解しづらい沖縄の人々の想いをこの衆院補選分析を通じて現地記者知念清張さんが渾身の報告。安倍政権の沖縄への暴政はどう考えても現代の琉球処分だ。沖縄の人々の心の底からの叫びは、本土の政治家のみならず、本土―ヤマトの我われ一人ひとりへの問いでもある。

▼それにしてもトランプ、この男のお陰で世界のどれだけ多くの人が迷惑を蒙っているか計り知れない。その徹底した“自分ファースト”はもう完全に常軌を逸している。全てが来年秋の大統領選。先日のモラー報告で、ロシア疑惑、司法妨害の法的訴追を逃れられた。“俺はシロだ”と有頂天。日本の報道でも大統領再選有力の報道まで出た。しかし本誌で毎号ウオッチ頂いている金子敦郎さんは、「トランプに痛撃、再選さらに困難に」と。モラー報告書がマスコミの一連のトランプの疑惑報道を裏付けるものになっており、それが選挙の命運を決める約5%の中間層の取り込みに打撃と。また増大するZ世代と呼ばれる20歳前後の若者層はリベラル志向が強く行動力があると分析。そのトランプと無二の親友、否忠実なポチが我が総理、この評価は世界で定着しているようだ。社会保障を切り下げ、身の丈を知らない武器の暴買いで媚を売る。

■今号巻頭論文で橘川俊忠さんは、「不安と不満が充満する時代に政治は何ができるか」と問う。現代社会が、ロシアの大統領選挙介入に見られるように、ITを駆使しての情報操作や人間の行動をも支配せんとする時代が到来しつつあると危惧する。そして、嘘と居直りを繰り返す安倍政権が、理性的な批判には一切耳を貸さず、多数をたのんで法案を押し通す姿は、強大な大統領権限を振り回すトランプと共通する。充満する不安と不満を操作する政治が、行き着く先はどこか。それは、全体主義と戦争への道であることは、歴史の示すところである、と警鐘を鳴らす。求められるのは、経済成長至上主義、科学・技術信仰からの脱却だと。そして我われがどう考え、どう対処すべきかを問題提起。重いが深刻かつ喫緊の課題。 (矢代)

季刊『現代の理論』[vol.19]2019春号
   (デジタル19号―通刊49号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)

2019年5月3日発行

編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

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