特集●どこに向かうか2019

対等な労働契約関係には絶対になれない

外国人技能実習生制度と労働運動の課題

JAM参与・FWUBC顧問 小山 正樹

JAMはなぜミャンマー人技能実習生問題に取り組んできたのか

JAMは1999年9月に結成されて今年で20年を迎える。JAMは機械金属産業を中心とした35万人の労働者を組織している産業別労働組合である。35万人の組合員数は、連合内で5番目に当たる。JAM加盟単組の特徴は、日本のモノづくりを支えているサプライヤー(部品供給者)を数多く組織し、100人以下の組合が6割、4分の1が30人以下の組合で占められていることである。連合内で中小企業労働運動の中核を担い、社会のあらゆるステージにおいて社会的な不公平を認めず、公正な社会を追い求めてきた。

在日ビルマ市民労働組合(英文名:Federation of Workers' Union of the Burmese Citizen in Japan、略称:FWUBC、以下FWUBCと表記する)は、2002年4月に港区芝の「友愛会館」の会議室で結成大会を開催した。初代会長のティンウィン氏は、ビルマ民主化闘争の活動家で、日本で難民認定を受け在留資格を得て活動していた。

彼は、IMF(国際金属労連)東アジア事務所の事務局長からの紹介で、JAMに労働組合の結成に協力して欲しいと要請に来た。「日本にいるビルマ人の労働組合を作り、日本で労働運動について学び、ビルマ民主化後にはビルマでの労働運動に生かしたい」という強い意志がティンウィン氏にはあった。JAMは中央執行委員会で友好組織として支援することを決定。規約の作成、都労働委員会での認定、労働組合の運営方法、労働相談への対応など、FWUBCへの支援活動を続けてきた。JAMの毎年の定期大会では、FWUBCの代表を演壇に迎え、挨拶を受けている。

JAMとFWUBCの活動連携の重要な一つが労働相談である。当初は居酒屋、ラーメン屋などで働くミャンマー人からの解雇や未払賃金に関する相談が大半であった。それが5年くらい前から、技能実習生からの相談が中心になった。

ミャンマー人技能実習生からの2018年に受けた相談の実例

(1)株式会社キングスタイル(岐阜市)での人権侵害と違法行為

キングスタイルでは、社長とミャンマー人技能実習生5人が、プレハブの事務所と倉庫で作業をしていた。技能実習生は26~31歳の女性。3人が1年生、2人が2年生。住居は、事務所の2階で、自炊生活をしていた。

キングスタイルの労働実態は次の通り。

(1)最賃法違反と労基法違反
2018年1月と2月の賃金は、基本給が6万円で、残業代は1時間600円だった。日本での日本語研修の先生を通して給料が安すぎると訴えたところ、 1年生は基本給(月額)7万円、2年生は基本給(月額)8万円。残業代は、25時間まで1,000円、25時間超で1年生600円、2年生700円となったという。
しかし、労働条件についての書面も賃金の明細書もない。岐阜県の最低賃金は2017年10月から800円なので、最賃金額で法定労働時間を働いた月の賃金は、 800円×8時間×22日=14万800円であり、なぜ基本給が6万円とか7万円になるか不明であるが、明らかに最賃法に違反している。 そのうえで時給1,000円の時間外労働が600円とはもっての外である。
(2)過労死ラインをはるかに超える長時間労働
労働時間は実習生たちがノートに記した毎日の就業時間の記録で知ることができる。朝7時から仕事を始め、昼食休憩を30分、夕方に夕食休憩を30分とり、 真夜中0時まで働く日が多い。最悪は午前1時半だった。休日も月に1日だけという月もある。2018年各月の法定時間外労働+休日労働は、1月が75時間、 2月が191時間、3月が90時間、4月が218時間、5月が87時間。まさに、過労死ラインを大きく超えた超長時間労働という実態である。
(3)日常的な暴言による脅迫と監視、自由な行動の不当な拘束
作業が遅くなったとか、小さなミスにも、毎日のように社長は大声で実習生を指さしてどなりちらす。賃金が安いと訴えたことについても、 「お前らのせいで利益なくなった」と怒られた。他の人と話をするのも禁止。友達と話をしているのが見つかるとミャンマーへ帰国させると言われる。 ある実習生は、「社長の車の音を聞いただけで胸がドキドキする」と言っていた。
(4)技能実習とは無縁な仕事
キングスタイルの業務は、衣類の縫製ではなく、技能実習とは無縁な物流作業である。主な作業は、出来上がった衣料品(海外工場からの輸入品) を近くの物流倉庫からトラックで運んでくる手伝い。段ボール箱の積み降ろし作業だ。そして段ボールから衣料品を出して、値札を付けたり、一部はブランドタグを ミシンで縫い付ける作業。最後に送り先ごとに品名と数量を確認して段ボールへ梱包し、発送する作業。「縫製作業の技能実習だが、それ以外の作業も少しある」と ミャンマーに面接に来た社長が説明していたというが、縫製作業も技能実習もまったくない。

FWUBCとJAMは、これは重大な人権侵害と労基法・最賃法違反であり、実習生全員を現場から保護する必要があると判断し、2018年7月3日に実行した。前日に、連合岐阜への報告と協力要請、岐阜労働基準監督署へ5人の実習生名による労基法違反の申告を行い、当日、ミンスイFWUBC会長とJAM参与の小山、JAM東海のスタッフで作業現場に乗り込み、社長に対して、5人がFWUBCの組合員であることを告げるとともに、団体交渉を申し入れた。その場で人権侵害の謝罪、労働基準法違反、最低賃金法違反による未払い賃金の支払いを要求。事実関係などのやり取りの後、5人を人権侵害から守るために保護した。そして岐阜県庁で記者会見を行い、そこで5人はこれから日本に来る技能実習生に二度と同じような経験をしてほしくないと、顔を出して訴えた。

その後、実習生は監理団体の責任で新たな受入れ企業へ移動。いまは元気に働いている。しかし、キングスタイルからは労基法違反・最賃法違反による未払賃金が支払われていない。キングスタイルの代理人弁護士は、破産手続きに入る連絡をしてきたが、いまだに未払い賃金も払われず、破産手続きも行われていない。

(2)長時間残業、残業代1時間400円のM社の事例

M社では、社長宅の庭先の2階建てプレハブの作業所でミャンマー人技能実習生7人が働いていた。住居は、2階が作業場、1階が住居でそこで自炊をしている。お風呂は社長宅の風呂場を使うという。

M社の労働実態は次の通り。

使用者から書面による労働条件明示はなく、賃金支払いは現金で、賃金の明細もない。賃金の控除の内容・金額も分からない。事業主の正式な氏名も不明。
(1)過労死ラインをはるかに超えた長時間労働
平日と土曜日の労働時間は、朝7時始業で、通常の終業は夜22時(昼休み1時間・夕方休憩30分)。日曜日は、8時始業で終業は16時(昼休み1時間)。休日は月に1~2回の日曜日。法定時間外残業+休日労働が毎月150~180時間。過労死ラインをはるかに超えた長時間労働である。
(2)違法な低賃金
賃金は、「本給6万円、残業代1時間400円」だという。この労働時間で法定通り支払えば31万~35万円になるが、実際に支払われた賃金は12~13万円。法律で義務付けられた賃金の半分以下である。
(3)先輩の実習生が仕事を教える
仕事は、婦人服の縫製。裁断された布が持ち込まれ、それをミシンで縫う仕事。話をした3人の実習生は、ミャンマーの縫製工場で2~5年の仕事の経験あるという。M社で仕事を教えるのは先輩の技能実習生であり、「技能実習」の実態はない。
(4)強制帰国の脅し
ある実習生が監理団体のミャンマー人通訳を通して残業代が少ないことを訴えた。監理団体は、訴え出た実習生に対して、社長に謝罪することを強要。社長夫人がその実習生を強制帰国させると言っているとのことだった。

2018年11月28日、FWUBCとJAMのメンバーはM社を訪問し、事業主のAさんと立ち話で交渉を開始。そこに監理団体の担当者を呼び、そこで働く7人のミャンマー人技能実習生も入れて、労働時間の実態と、違法な未払賃金の存在を口頭で確認した。

そして、岐阜県庁で記者会見を行い、違法な実態を明らかにした。NHK岐阜のローカルニュースで取り上げられ、地元紙にもこの記事が掲載された。

その後、監理団体とFWUBCとの話し合いにより、3名の実習生は新しい受入れ企業へ移動することが決まった。同時に、未払賃金についても一定の額を支払うことで合意した。4人の実習生はM社に残ることを強く希望したので、新しい労働条件の下にM社で実習生として働き続けることになった。

M社の事業主は、NHK岐阜のインタビューで「最低賃金より少ない額を支払っていたという認識はあったが、経営が成り立たないという状況もありしかたなかった」と語っている。まともな賃金を払えない下請け単価で仕事を受けていたということである。適正な価格での受注が出来ていないのだ。驚いたことにこの報道がきっかけで、M社への発注元3社が工賃を値上げしたという。M社は、毎月の売上額が増える見込みとなり、経営を継続する見通しがついた。残ることを希望した4人の実習生は、M社で実習生として働き続けている。

外国人労働者技能実習制度は廃止すべきだ

2017年11月1日、技能実習法(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)が施行された。すでに1年数か月が経ている。二つの実例を記載したが、いずれも技能実習法施行後の2018年の労働相談である。朝から深夜までの長時間労働、最賃以下の賃金、残業代は400円というような露骨な労基法違反、そして「強制帰国」という脅し。よくある定番の実態である。

では、技能実習法は無意味だったのか?そんなことはない。技能実習の適正化や技能実習生の保護の法律ができた効果は出ている。一定の権限を持った「外国人技能実習機構」も設置され、「監理団体」も許可制となった。最近になって違法な労働条件を直さざるを得なくなった事業主が増えつつある。監理団体は許可の取り消しを恐れ、受け入れ企業の違法な実態を直させようとしている。技能実習機構も一定の役割を果たしている。

しかし、技能実習法は、余りにも酷い技能実習の実態を変えていくには質量ともに貧弱過ぎること、そして技能実習制度には根本的な欠陥があることから、技能実習制度は廃止すべきと考える。

技能実習制度には、「開発途上国への技能、技術の移転と人づくりに協力する」国際貢献だとするタテマエになっている。このタテマエが制約となり、受入れ企業に問題があっても実習生には移動の自由はなく、簡単には移動することができない。実習生は本国で多額の借金をして、ブローカーや送り出し機関に費用を支払って来日している。この借金の重しが、使用者と実習生が、対等な労働契約関係には絶対になれない構造を作り出しているのだ。

発注元企業の社会的責任を問う

ミャンマー人技能実習生が就労していた株式会社キングスタイル(岐阜市)では、衣料品販売大手の「株式会社しまむら」の商品の値札付け、分類梱包などの作業をしていた。キングスタイルが人権侵害・労基法違反など悪質な行為を行っていたため、在日ビルマ市民労働組合とJAMは、連合の協力も得て、「株式会社しまむら」に対して、発注元企業がその社会的責任として、直接の契約関係がないとしても、事実関係の調査と再発防止に向けた具体的な対策をとることを2018年11月に要請した。

株式会社しまむらより「発注企業の社会的責任として、サプライチェーン全体における法令遵守を求める必要があると考え、サプライヤーへの注意喚起をし、外国人技能実習に関する具体的調査・対策を今後進めていく」という趣旨の前向きな回答をいただいた。

12月5日、JAMは、株式会社しまむらとの話し合いの経緯を公表するとともに、株式会社しまむらの考え方及び実施事項が、発注元企業の模範的対応として、各業界全体に広がることを期待する旨を明らかにした。国会では改正入管法の審議の最中であり、この件については、テレビや新聞なども大きく取り上げた。

発注元から安い単価で賃加工の受注をとる中小零細企業。そのしわ寄せをより弱い立場の労働者に押し付ける。その労働者こそ、サプライチェーンの最底辺で働く外国人技能実習生である。このサプライチェーンの構造を変えていかなければならない。

<ビジネスと人権に関する指導原則>

2011年に国連人権理事会において「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択され、その実施が国際的な課題となっている。人権を尊重する企業の責任が問われ、サプライチェーン全体で人権侵害や違法労働に対する防止策が求められるのである。G20各国でビジネスと人権に関する国別行動計画の策定が行われており、日本でも遅まきながら国別行動計画の策定に向けた作業が行われている。その作業の一段階として2018年12月に「ビジネスと人権に関するベースラインスタディ(現状把握調査)報告書」が出されている。(外務省のホームページ参照)

「ビジネスと人権に関する指導原則」を活かし、サプライチェーンの頂点の発注元から人権を守り法令遵守する取り組みを求めていくことが重要である。そして、法違反をしなければ賃金も払えないような下請単価を事前にチェックし、適正価格による取引を実現していかなければならない。

外国人労働者との共生時代における労働運動の課題

すでに128万人の外国人労働者が働いている。改正入管法がこの4月から施行され、新たな外国人労働者が入ってくる。

技能実習生からの相談を受けて実習生たちが働く現場を見ると愕然とする。閉鎖的な空間に閉じ込められて早朝から深夜まで低賃金で働かされる姿は、100年前の「女工哀史」の時代と変わらない実態ではないか。日本国内の労働現場に、このような違法な実態を許してきたこと自体、日本の労働運動にはその責任の一端があると考えるべきだ。労働組合は、正社員労働組合の枠を越えて、社会的な役割を果たしていかなければ存在価値がなくなる。

これまでに外国人労働者、外国人技能実習生問題に取り組んできた労働組合は、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)と全労協全統一、各地の地域ユニオンなどである。連合の組織では、連合徳島と四国の各地方連合、連合大阪、自治労全国一般・岐阜一般、連合加盟の地域ユニオン、そしてJAMである。

技能実習法が施行される前日の2017年10月31日に「守ろう!外国人技能実習生のいのちと権利」集会を参議院議員会館の会議室で開催した。主催は、集会実行委員会であるが、実行委員会は、 日本労働組合総連合会(連合)、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)、在日ビルマ市民労働組合(FWUBC)、ものづくり産業労働組合JAM、外国人技能実習生問題弁護士連絡会、日本労働弁護団、外国人技能実習生権利ネットワークで構成している。

2018年10月31日は、同じ実行委員会の主催で「守ろう!外国人労働者のいのちと権利」を開催。この集会実行委員会の意義は、外国人労働者問題に長年にわたって取り組んできた移住連と連合が一緒に集会をやること、そしてこの運動の政治的社会的な影響の拡大を図り、幅広い連携を作り上げることにある。

労働運動にとっての今後の課題は、第1に外国人労働者を労働組合に組織化すること。問題が起こった時の解決方法としては、労働組合による団体交渉が最も有効である。行政機関に頼るのではなく、労働組合自らが外国人労働者を組織することである。そのための検討を、ナショナルセンター、産業別労働組合が中心になって進めるべきである。

第2に母国語による労働相談を受ける態勢を労働組合のネットワークで作り上げることだ。労働組合役員OBやボランティア通訳などの協力を得て、相談を受ける態勢作りの検討を進めてほしい。

こやま・まさき

1951年生まれ。総評全国オルグ、全国金属機械労働組合常任書記、同書記次長、同書記長、JAM副書記長を経て、現在JAM参与、FWUBC顧問。

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