特集●どこに向かうか2019

外国人労働者政策の転換期を迎えて

技能実習制度の過ちを繰り返さないために

公益社団法人 自由人権協会理事 旗手 明

2018年2月の経済財政諮問会議における総理大臣指示が起点となり、同年6月の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2018」の閣議決定を経て、11月には臨時国会に新たな「外国人材」(特定技能)を受け入れる入管法改定案が上程された。同法案には、人口減少社会・日本が、今後どうなっていくのかを占うものとして、多くの注目が集まった。しかし、残念ながら臨時国会での議論は深まらず、政府の対応も後追い的で、消化不良のまま法案だけは12月8日に参議院で可決・成立し、19年4月から施行されることとなっている。

他方、臨時国会中、またその後も繰り返し開催されている野党合同ヒヤリングが起爆剤となり、これまで一部にしか十分に知られてこなかった技能実習制度の実態が、広く社会全体で共有されることとなった。

1.日本社会の現状

少子高齢化や人口減少が指摘されてから久しい。2017年に国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口」によれば、15年における日本の総人口は127,095千人であるが、40年には110,919千人となり、65年には88,077千人と4千万人近くも減少する。即ち、65年までに年平均78.0万人の減少となる。

他方、国内の労働力不足は近年急速に深刻化しており、18年11月の有効求人倍率は1.63倍にも及び、44年ぶりという高さとなっている。これで有効求人倍率が1.0を超え始めた13年11月から5年間継続して1.0を超えており、1990年前後のいわゆるバブル経済期の4年数ヶ月をすでに超えた。人手不足を理由とする倒産も増えつつあり、もはや特定の業種や地域に限定された問題ではなく、日本社会全体の問題となっている。

2.外国人及び外国人労働者の現状

日本に在留する外国人の数は、リーマンショックや東日本大震災などの影響による減少・停滞の時期を過ぎ、ここ数年著しく増加している。2017年末には256.2万人を数え、過去最高に達し、戦後初めて総人口の2%を超えた。1990年の107.5万人と比べ2.4倍ほどとなり、年平均5.5万人の増加となっている。

(万人)     <在留外国人数の推移>

(法務省・在留外国人統計)(クリックにて拡大表示)

また、外国人労働者数はほぼ一貫して増加しているが、やはり近年の増加は著しい。18年10月末には146万人ほどとなり、前年比18.2万人(14.2%)も増加し、過去最高を更新している。なお、ここには特別永住者は含まれていない。

この内訳をみると、専門的・技術的分野の外国人労働者は27.7万人にとどまる一方、留学生の資格外活動(アルバイト)が29.8万人、技能実習生が30.8万人などとなっている。

<外国人労働者数の推移>

(厚生労働省・外国人雇用状況の届出状況)   (クリックにて拡大表示)

<在留資格別外国人労働者数>

   (クリックにて拡大表示)

3.外国人労働者政策をめぐる近年の動き

第2次安倍内閣がスタートしたのは2012年12月であったが、翌年9月に東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定されると、建設分野を中心ににわかに人手不足が懸念され、外国人労働者の導入に向けた動きが加速した。

14年4月に、関係閣僚会議で「建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置」が決定されたのに続き、同年6月には「日本再興戦略(改訂2014)」が閣議決定された。この再興戦略の中で「外国人材の活用」として挙げられたのは、①高度外国人材の活用、②技能実習制度の抜本的な見直し、③建設・造船分野における外国人材の活用、④国家戦略特区における家事支援人材の受入れ、⑤介護分野の国家資格を取得した外国人留学生の活躍支援、⑥製造業における海外子会社従業員の受入れなどである。この中に挙げられていなかったものでは、17年の国家戦略特区法の改正で実現することとなった農業支援外国人受入事業がある。

これらの政策は、その後すべて実現されたが、高度専門職は伸びているものの18年6月末現在で1万人弱にとどまる。また、建設・造船分野は各3~4千人を受け入れているが、当初見込みの万単位にはほど遠い。家事労働者はまだ三桁台半ばにとどまり、介護留学生も18年度の入学者数は前年度の倍近い1,142人と急増しているものの、在留資格「介護」の取得者は177人(同月末)にとどまっている。製造業では、計画認定がまだ10件ほどで見るべき成果は出ていない。こうした結果、「日本再興戦略(改訂2014)」の中で人手不足対策として実質的に機能してきたのは、28.6万人(同月末)に及ぶ技能実習だけと言えよう。

問題なのは、こうした導入策が包括的な外国人労働者政策の中で位置づけられることがなく、さみだれ的に実施されてきたことだ。このため介護分野では、EPA(経済連携協定)による受入れ、在留資格「介護」の創設、技能実習の介護職種への拡大、さらに今回の特定技能と、目的を異にする複数の受入れ方が併行し、その間に政策的整合性が考えられていない。

4.技能実習の実態

(1)急増著しい技能実習生

2010年7月に施行された旧技能実習制度の下で、来日する実習生は急増を続けてきた。11年の新規入国者は66,252人だったが、17年は127,688人(92.7%増)と10万人を大きく超えた(18年速報値:150,161人、前年比17.6%増)。同時に、在留する実習生数も増加を続け、11年末の141,994人から17年末には274,233人(93.1%増)と2倍近くにもなり、就労資格580,351人の47.3%と半数近くを占めている。

新規入国者数は先行指標と言えるが、ここ数年で送出し国構成にも大きな変化が生じている。すなわち、11年には中国が49,538人と新規入国の74.8%を占めていたが、17年には34,079人(26.7%)まで減少した。他方、ベトナムは11年には6,632人で10.0%に過ぎなかったが、17年には58,699人(46.0%)まで増加している。

<新規入国技能実習生数>2017年

こうした背景には、中国での労働者賃金の上昇がある。すなわち、中国統計年鑑によれば、2016年時点の都市部の平均賃金は年6.76万元(約114万円)であり、2000年時点と比較して7倍ほどの上昇を示している。ベトナムについても、いずれこうした状況となることが想定される。

(2)労働法違反が頻発

厚生労働省労働基準局は、毎年「外国人技能実習生の実習実施機関に対する監督指導、送検の状況」を発表して、実習実施機関における労働基準関係法令違反の状況を明らかにしている。特にここ数年、監督指導の件数を急増させてきており、同局の制度是正に向けた積極的な姿勢がうかがわれる。

監督を実施した実習実施機関数は、従来の年間2千件台から最近では6千件近くまで急増している。その結果、違反事業場数も、2013年の1,844件から17年には4,226件と2倍を超えて増加している。

違反内容をみると、「労働時間」が最も多く(26.2%)、続いて「安全基準」が19.7%、「割増賃金の支払」が15.8%などとなっている。

5.技能実習制度の運用状況

2017年11月に施行された技能実習法により監理団体は許可制となったが、18年12月25日現在の許可件数は、優良と判断され技能実習3号(5年間)まで扱える「一般監理事業」が1,066団体、技能実習2号(3年間)までしか扱えない「特定監理事業」が1,359団体となっている。すでに計2,400団体を超えており、従来の監理団体数(15年末:1,889団体)を大きく上回って許可されたことになる。同月27日に、初めて監理団体に対する許可の取消しが1件なされたが、その理由は、実地検査における虚偽記録の提出であった。なお、18年4月~9月における監理団体への延実地検査数は、1,160件となっている。

また、技能実習計画の認定件数は、18年11月30日現在で1号が160,415件、2号が187,837件、3号が9,846件となっており、累計で358,098件にのぼっている。他方、同計画の認定取消し数は、19年1月25日現在で151件となり、対象となった実習実施者は8社となっている。なお、改善命令は1件のみである。実習実施者に対する延実地検査数は、18年4月~9月で2,600件となっているが、実習実施者は4.8万機関(15年末:35,370機関)とも言われており、このままでは3年に1回の検査という目標は到底達成が困難な状況である。

新制度において制度管理の実務は、認可法人である外国人技能実習機構に委ねられた。機構全体の定数は346人であるが、このうち省庁からの出向者が234人とほぼ3分の2を占め、厚生労働省が120人、法務省が113人、外務省が1人となっている。本部のほか全国13ヶ所に地方事務所(本所8ヶ所、支所5ヶ所)を配置している。予算は、17年度・18年度は年間約35億円となっているが、19年度に向けては約66億円の予算と240人の増員を要求している。

送出し機関に対する規制は、二国間取決め「協力覚書」によるとしているが、あくまで両国の行政機関同士の「同意」とされており、法的な拘束力はない。18年10月までにベトナムをはじめ10ヶ国と締結しているが、主な送出し国の中では、中国、インドネシア、タイなどとの締結ができていない。

6.改定入管法の内容

(1)骨太の方針2018について

改定入管法のグランドデザインは、18年6月の「骨太の方針」として示された。「一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する」とされたが、その主な内容は以下のとおりである。

① 受入れ業種を指定し、政府基本方針及び業種別受入れ方針を決定する

② 技能水準は試験等により確認する

③ ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力が必要

④ 技能実習(3年)を修了した者については、②③の試験等を免除する

⑤ 期間は通算5年、家族帯同は基本的に認めない

⑥ 悪質な紹介業者等の介在を防止するための方策を講じる

⑦ 外国人材への支援は、受入れ企業または登録支援機関が行う

⑧ 受入れ環境整備は法務省が総合調整機能を持ち司令塔的役割を果たす

⑨ 法務省、厚生労働省、地方自治体等が連携の上、在留管理体制を強化する

(2)改定入管法の概要

骨太の方針を具体化した改定入管法は、新たな在留資格として「特定技能」を創設することとし、特定技能1号と同2号を設けた。このうち、特定技能2号は、従来の専門的・技術的分野の在留資格と同等と位置づけられ、在留期間の更新や家族の帯同が認められる。他方、特定技能1号は、専門的・技術的分野と技能実習との中間に位置づけられ、特別な取扱いとなった。

すなわち、特定技能1号には、技能水準と日本語能力水準が求められ、試験等で確認される。その上、在留期間は通算で上限5年までとされ、家族の帯同は基本的に認められない。また、受入れ機関または登録支援機関が、職業生活、日常生活また社会生活上の支援を実施することとされている。

特定技能1号は14業種に認められたが、あくまで「移民政策ではない」とするためか、定住に結びつく特定技能2号は、建設と造船の2業種のみに絞られた。

なお、改定入管法の見直し時期は、当初案の施行後3年から修正され、施行後2年という短期となった。

特定技能に関しては、改定入管法そのものには骨格しか明らかにされず、具体的な制度設計は同法に基づく政府基本方針や分野別運用方針に示され、それらを受けて政令や法務省令、入管法施行規則、関係行政機関の長による告示などで定められ複雑な構造となっている。

7.改定入管法の課題~技能実習制度を踏まえて

(1)悪質な仲介業者の排除は実現できるか?

特定技能では、仲介業者を規制するべく二国間取決めを締結することとし、また保証金の徴収や違約金契約等を禁止している。

これらはすでに技能実習法でも講じられているが、実習生が来日する前に支払う手数料や事前研修費用などは、高額にとどまっている。もっとも多く実習生を送り出しているベトナムを例にとれば、100万円ほどにのぼり平均年収の4~5年分にも及ぶ。

このため実習生は、債務奴隷とも言うべき状況におかれている。万一、途中帰国せざるを得なくなれば多額の借金が残り、母国での生活が困難となるため、労働条件が約束と違ったり、最低賃金を下回るような場合でも、我慢して働くことを強いられる。

特定技能でも、日本語及び技能試験のための費用や様々な手数料として多額の債務を負うことになる可能性は高い。

有効な解決方法の一つは、国際的な労働移動のプロセスから民間事業者を排除することである。現に韓国の雇用許可制度では、募集・採用等を政府間でのみ行うこととして、一定の成果をあげている。外国人労働者の人権を保障するためには、受入れプロセスから民間事業者を排除し、政府組織間で取り扱うこととすべきである。

(2)低賃金労働は改善できるか?

改定入管法で報酬決定等での差別的取扱いを禁止し、法務省令で日本人と同等以上の報酬とすることとしているが、技能実習において指摘されている低賃金労働とはならないであろうか。

この点、技能実習法でも「日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上」とされているが、実際には各地の最低賃金レベルに張り付いている。つまり、「同等以上の報酬」という抽象的な定めだけでは、低賃金労働を回避することは難しい。客観的かつ具体的な数値基準を定めない限り、有効な対策とはならない。

(3)転職の自由は実現できるか?

政府基本方針では、「同一業務区分内」及び「技能水準の共通性が確認されている業務区分間」での転職を認めている。この点は、原則として転職の自由が認められない技能実習生よりは、使用者に対する従属度が軽減されることとなり、人権保障の観点から望ましい。

今のところ、政府は、日本人や他の外国人労働者と同様に、一般的な求職者と同様の対応を想定しているようだ。しかし、転職の自由を形骸化させないためには、公共職業安定機関が特定技能に特化した求人情報の収集及び多言語による情報提供などを実施するとともに、平日昼間にハローワークなどに出向くことが困難なことに配慮してインターネットによるアクセスを可能にするなど、特定技能外国人に対する職業紹介機能を強化すべきである。

(4)強制帰国を阻止することはできるか?

技能実習では、実習生が労働条件や居住環境などについて権利を主張したり、不満を述べた場合に、その意に反して強制的に帰国させるということが起こっている。こうした人権侵害行為を実行するのは、監理団体や送出し機関である。技能実習法の審議が続いている中、16年9月から実習生の途中帰国時に「意思確認票」でのチェックが始まった。しかし、18年8月までの2年間に36件しか申し出がなく、また強制帰国と認定されたケースはゼロである。年間1万人を超える途中出国者に対して、有効な対策となっていない。

改定入管法では、強制帰国に関する問題意識は感じられない。しかし、技能実習の送出し機関が特定技能の送出し機関になる可能性は高く、また、技能実習の監理団体が特定技能の登録支援機関となる可能性も高い。従って、特定技能においても同様の問題が起こることが想定され、本格的な対策が求められる。

(5)技能実習制度との整合性はあるのか?

臨時国会時の政府側の説明では、特定技能外国人の半分近くは技能実習からの移行者で占められると想定されている。また、上陸基準省令では、「技能実習2号を良好に修了している者」については、特定技能1号に必要とされる試験が免除される。

しかし、技能実習においては、介護分野を除いて日本語要件は課されず、技能についても特定技能が要求する水準であるかどうかは確認されていない。政府が、どのような客観的な根拠をもって試験を免除することとしたのか、疑問がある。

また、法務省は、技能実習2号修了者に一定の期間帰国することなく、継続して特定技能1号として働くことを認めるとしている。これでは長期にわたり母国に帰らないことにもなり、技能移転という制度目的に反する。

特定技能と技能実習の関係において、制度の整合性が全くとれていないと指摘せざるを得ない。

(6)家族の帯同は人権である

新たな枠組みでは、特定技能1号(通算5年間)における家族の帯同は基本的に認められない。他方、特定技能2号では在留期間の更新が可能とされ、家族の帯同も認められる。特定技能1号には、技能実習修了者からの移行も多いと想定され、その場合、最長で10年間、家族と離れて暮らすことになる。

技能実習においては、3年間にわたり家族の帯同が認められなかったため、家族の崩壊に結びつくことがあった。家族の帯同は人権であることを改めて銘記すべきである(自由権規約第23条、社会権規約第10条、子どもの権利条約第10条参照)。

従って、特定技能1号においても、在留資格の枠組みとは切り離して、家族の帯同を認める要件を設定し、できるだけ短期間で家族の帯同が認められるようにすべきである。

(7)日本語能力の獲得について

日本語能力は、労働の場において必要であるばかりでなく、日常生活を送る上でも欠かせない。また、人権の観点からは、救済システムに容易にアクセスできるためにも重要である。

従って、特定技能外国人の受入れにあたっても、来日の前後にわたり日本語能力修得の機会をできるだけ保障すべきであり、国の責任において日本語教育体制を抜本的に改善し整備する必要がある。

また、重要なのは、その費用負担を、できるだけ外国人に負わせないことである。新たな受入れは国家的なプロジェクトであり、外国人が日本語能力を獲得することによって、受入れ企業や日本社会も利益を受けることになる。従って、日本政府や受入れ企業、また場合によっては送出し国政府を含めた費用負担を考えるべきである。

8.まとめに代えて

改定入管法により新たな在留資格「特定技能」が創設されたことは、従来の技能実習や留学生のアルバイトなどに依存する体制から切り替え、正面から外国人労働者の受入れと向き合おうとすることと評価できよう。

しかし、特定技能の半数前後が技能実習からの移行者であることは、言わば特定技能が技能実習を土台としていることにほかならない。2017年11月の技能実習法の施行以降も、人権侵害等は全く解決されておらず、技能実習の問題が特定技能にも引き継がれ、悪くすると拡大することになる。特定技能の制度設計は脆弱であり、技能実習が抱えてきた多くの問題がクリアされておらず、技能実習の過ちを繰り返す蓋然性が高い。

翻って日本社会をみると、雇用や居住など様々な場面において外国人や民族的マイノリティへの差別が依然として続いている。そのため、外国人労働者の受入れ拡大にあたっては、国際的な人権基準に見合った人権のインフラ整備も欠かせない。

外国人や民族的マイノリティの人権を守るための基本法及び人種差別撤廃法の制定、パリ原則に合致する国内人権機関の設置などは、日本が早急に実現すべき課題である。

また、人権保障に配慮した受入れ政策の基盤となる外国人労働者雇用法や、外国人の日本社会への適応及び日本人と外国人の共生を目指す双方向の社会統合政策を進めるための基本法を制定すべきである。

さらに、中長期的な外国人労働者政策及び社会統合政策を確立するとともに、各政策を包括的に把握・統括し必要な場合には政策を提言するため、外国人を含む日本社会の構成を反映したメンバーによる恒常的な組織の設置が求められる。

はたて・あきら

1980年代後半より外国人労働者問題に関わり、ここ20年ほど研修・技能実習問題にも取り組んでいる。技能実習法案の審議では、参議院法務委員会において参考人として意見を述べた。関連著作(共著)としては『外国人研修生 時給300円の労働者』(明石書店)、「なぜ今、移民問題か」(別冊『環』20号)など。

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