論壇

ウクライナ侵攻後のエネルギー転換の考察

松下和夫著『1.5℃の気候危機ー脱炭素で豊かな経済、ネットゼロ社会へ』の提言をうけて

名古屋大学名誉教授 竹内 恒夫

松下和夫さん(地球環境戦略研究機関シニアフェロー)の新著(2022年11月)では、一昨年英国で開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)において事実上の世界目標となった1.5℃の意味するところとその課題、昨年6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で議長国ドイツが提唱し、気候変動対策の国際ルールづくりの新たな取り組みとして示された「気候クラブ」とは何か、世界の電気自動車(EV)化に立ち遅れる日本の自動車業界の動向などとともに、ロシアのウクライナ侵攻で懸念される環境・気候破壊や人道上の危機が論じられている。

本稿では、欧州・ドイツと日本におけるウクライナ侵攻後のエネルギー転換の諸課題について論じてみたい。

1.ロシアからの天然ガス/LNGの供給制限への対応

まず、ロシアからの天然ガス/LNGの供給制限への対応をみる。

日本についてみると、ロシアの石油と天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」に関しては、昨年8月上旬、「サハリン2」の事業を引き継ぐ新会社サハリンスカヤ・エネルギアが、これまで液化天然ガス(LNG)を購入しているJERA、東京ガスなどに対して、今後も価格や調達量などの条件は変えないと提示し、契約を結ぶよう求めてきており、8月末、日本の商社が新会社に出資することもロシア政府に承認された。日本のLNGの供給のおよそ9%を占めるロシアの天然ガスは、引き続き安定供給されることとなった。

しかし、日本においては、脱炭素に向け、中期的には、燃料の分野での石炭・重質油から都市ガス・LNGへの転換や太陽光発電などの出力変動を調整する電源としてのLNG発電の利用が進むのでLNG需要は増加する。また、2021年に日本を抜いて世界一のLNG輸入国になった中国のLNG需要は引き続き伸び、欧州は本格的にLNGにも依存するようになる。日本のLNG調達には万全を期す必要がある。

しかし、一方で、東京電力ホールディングスと中部電力の火力・燃料会社JERAは2021年にカタールとの大型のLNG長期契約を満了し、更新しなかった。また、JERAはアラブ首長国連邦と結んでいた長期契約を2019年4月から短期契約に切り替え、量も大幅に減らした。九州電力と東邦ガスも約半世紀にわたり続いたインドネシアとの売買契約を2020年末に失効させた。これらは、ウクライナ侵攻以前の措置とはいえ、現下のLNG安全保障の観点からすれば、まったくの愚策だったといえる。

経済産業省によると、世界の「LNG争奪戦」は以下のように激しさを増している。

・中国や韓国は、脱炭素化の取組と並行し、エネルギー安定供給のための国家戦略に基づき、国営企業を中心に、LNGの長期契約の締結を進めている。欧州でも足下の危機を受けて新たなLNG契約に向けて、政府が積極的に関与している。

・2026年頃まで、安定した価格(油価リンク)で供給を開始できる長期契約は売り切れに近い状況。

・2023年の欧州のガス需給は、上半期にロシア産パイプラインガスを輸入できた2022年より、更に悪化。2023年は、欧州のLNG輸入の制約要因になっていると考えられるLNG受入れ基地の能力が増強される予定であり、欧州のLNG輸入量は今年よりも増加する見通し。しかし、ロシアからのパイプラインガス供給が滞れば、LNG受入れを増やしてもなお、ガス不足量は今年より拡大し、節ガスの深掘りが必要な状況が見込まれる。

そこで、経済産業省は、「戦略的余剰LNG(SBL)」の確保を図ることとした。

石油のように長期間タンクに置いた備蓄が困難というLNGの性質を踏まえ、民間企業の調達力を活かす形で、有事に備えたLNG確保の仕組み(「戦略的余剰LNG:SBL(Strategic Buffer LNG)」)を用意し、供給途絶を防ぐわけである。

これは、経済安全保障推進法に基づいて、SBL確保・運用の目標等を経産省の取組方針として提示し、この方針に則って、事業者のSBL確保支援を実施するものである。SBL確保支援事業の概要は以下のとおり。

❶ 経産省が、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を安定供給確保支援独立行政法人に指定の上、基金を設置。

❷ 事業者が中期・長期契約等に基づき、「戦略的余剰LNG(SBL)」を確保。

❸ 通常時は、国内事業者や海外マーケットに販売。

❹ 需給ひっ迫等が生じ、経産省が必要と認める時には、経産省が指定した国内事業者へ販売。

❺ ❸・❹の販売に伴い、認定供給確保事業者に転売損等が生じた場合はJOGMECは基金から助成金を交付。

❻ ❸・❹の販売に伴い、認定供給確保事業者に利益が生じた場合は、事業者は基金へ利益を返還。

ブルームバーグNEFのデータによると、主に長期契約で構成される日本向けの年間契約数量はピークだった18年の8720万トンから25年には5020万トンまで減る見込みであり、新たな契約がなければ、30年には3080万トンまで縮小する。

「戦略的余剰LNG」の仕組みにより、こういったLNG契約量の減少に歯止めがかかることが期待される。ただ、日本は世界最大級のLNG消費国であり、一昨年の輸入量は約7432万トン。「戦略的余剰LNG」の仕組みの真価が問われる。

一方、欧州はと言うと、昨年の2月22日、ドイツ政府は、ロシアがウクライナ東部地域の独立を承認したことから、ロシアから欧州への天然ガスパイプライン「ノルト・ストリーム2」のプロジェクト承認を停止した。同7月21日、ロシアのエネルギー大手ガスプロムは、7月前半に定期点検のため閉鎖していた「ノルト・ストリーム1」を一定量再開した。7月26日、EUの緊急エネルギー相会議は、8月1日から2023年3月末までの間、ガス消費量を自主的に15%削減することで合意した。8月中旬には「ノルト・ストリーム1」の供給量は20%程度になり、ガス価格は前年同期比で7倍になった。

昨年7月14日、ドイツの3つの学術団体(Nationale Akademie der Wissenschaften Leopoldina、acatech – Deutsche Akademie der Technikwissenschaften、Union der deutschen Akademien der Wissenschaften)は「ウクライナ戦争は欧州におけるエネルギー価格と供給安定性にどのような影響があるか?」(Welche Auswirkungen hat der Ukrainekrieg auf die Energiepreise und Versorgungssicherheit in Europa?))を発表した。以下が、そのポイントである。

① ロシアからの天然ガス輸入が即座に途絶えた場合、冬の間、欧州の天然ガス需要量(2021年の需要量)の約25%が不足する。

② ロシアからの天然ガスが途絶えても、世界的にみて、LNGの利用は量的には十分可能ではあるが、現状では、北米などからのLNGを欧州に上陸させて気化するためのLNGターミナルが足りない。ロシアからのパイプラインによる天然ガス輸入が途絶えることによって、欧州で天然ガス供給量が短期的に減少するのは、この理由による。

③ 中期的に、欧州全体で天然ガスの消費が20%程度減少し、また、欧州にLNGターミナルが拡充されて米国などからの追加的なLNGを受け入れることができるようになれば、供給不足は解消される。

④ 2023年から2026年までに欧州9か国では24か所のLNGターミナルが新増設され、2026年末時点でのLNGターミナルの増加能力は4,602PJと見込まれる。

⑤ 欧州のLNGの調達先としては、米国(シェールガス)、カタールなどであり、米国からのLNGは2030年には5倍強から7倍強程度に増加すると予測される。2030年における欧州のLNG需要は3,353PJ~5,031PJ増加すると予測される。これは、④のLNGターミナルの増加能力4,602PJに概ね匹敵する。

⑥ 天然ガスへの代替エネルギーとしては、短期的には、発電分野での石炭が重要になる。中期的には、再生可能エネルギーの拡充である。

⑦ LNGの導入を「ロック・イン」するのではなく、将来、「グリーン水素」が製造されることを念頭に置かなくてはならない。

⑧ エネルギー効率の向上、特に、化石燃料を使う非効率な暖房設備は、高い効率の電気ヒートポンプに替える必要がある。

⑨ エネルギー効率の向上に加えて、再生可能エネルギーの拡充を加速させることを優先的に取り組む必要がある。どちらの対策も化石燃料への依存を減らし、エネルギー価格を下がる。

⑩ 欧州のエネルギー価格も中長期的に高止まりする可能性がある。低所得世帯を支援するための措置(「エネルギー貧困」対策)と産業競争力の保護が必要である。

ドイツのショルツ首相も8月22日、市民との対話集会において、ドイツでは、来年初めには新しいLNGターミナルが建設され、その後、増設されるので2024年初めには天然ガスの安定供給の問題は解消されるだろうと語った。

2.ロシアのウクライナ侵攻をきっかけにした原子力を巡る日独の対応

2000年から脱原発の政策が採られてきているドイツでは、原発の運転が終了する2022年が到来したが、ロシアのウクライナ侵攻に伴うロシアからの天然ガスの供給量の大幅な削減に対処するため、最後の3基(合計430万kW、年間発電電力量約30TWh(ドイツの総発電電力量の約5%))の運転期間を延長すべきかどうかが議論になってきた。

日本では、昨年の8月24日、岸田総理は、第2回GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を開催し、ロシアによるウクライナ侵略による足元のエネルギー危機の克服とGX推進を両立させるため、特に、原子力発電所については、❶再稼働済み10機の稼働確保に加え、設置許可済みの7基の原発再稼働、❷原子炉の運転期間の規定「法定運転期間である40年+1回に限り20年を超えない期間を延長できる」のさらなる延長、❸次世代革新炉の開発・建設、について年末には具体的な結論を出したいとした。

1.ドイツの対応

まず、ドイツの動向である。

昨年8月11日、夏季休暇から戻ったショルツ首相は、記者会見で、エネルギー安全保障や残り3基の原発の運転期間について、以下の説明を行った。

まず、「ドイツが輸入する石炭の半分、石油の3割、天然ガスの55%はロシアからであり、早急に「ロシア依存」を脱却するとともに、脱化石燃料を達成しなければならない。このため、短期的にはLNGをはじめ、調達先の多様化を図る。そして、再エネへのシフトを加速させる。2021年の電源の42%は再エネであり、2030年には少なくとも80%にする。」とした。

次に、「残りの3機の原発の運転期間の延長は、ロシアからの天然ガス問題には非常に限定的な効果しかなく、また、経済的なコストが非常に大きい。熱をつくるためのガスが不足しているのだが、原発は電気をつくるものだ。したがって、残っている3基の原発の運転期間の延長は、現下の「ガス危機」への対応策としては推奨できないという結論になった。」と説明した。

この「熱をつくるためのガスが不足しているのだが、原発は電気をつくるものだ。」とは、どういうことかというと、ドイツの家庭や業務施設における暖房のエネルギー源は、ほとんどが天然ガスなどの化石燃料であり、日本のような電気のヒートポンプ(エアコン)は普及していないので、(原発からの)電気が暖房のための天然ガスに代替することはできないのである(注 ドイツにおける暖房用のエネルギーの構成比:天然ガス48%、石油26%、地域熱供給14%、その他7%、電気5%(連邦経済・気候省、2022年))。なお、上記の⑧では、「エネルギー効率の向上、特に、化石燃料を使う非効率な暖房設備は、高い効率の電気ヒートポンプに替える必要がある。」としている。

さらに、残りの3基の原発の運転終了による電力供給への影響についてショルツ首相は「ロシアからのガス供給が途絶えた場合、ガス価格が非常に高騰した場合、フランスの原子力からの電力に接続できない場合の3つの仮定の下でのストレステストを行った結果、3基の原発の運転期間を延長しなくても、今度の冬の電力供給には支障がないことがわかった。現在、さらに厳しい仮定(さらなる価格の高騰、ガス供給のさらに深刻な障害、フランスの原発の大規模な障害)や南ドイツの特殊事情(南ドイツには残りの3基のうち2基が立地しているが、この地域には石炭火力や風力発電が少ない。)の下での第二弾のストレステストを行っている。結果が出たら、必要に応じて状況を再評価する。」とした。最後の3基は予定通り2022年末に送電線から遮断。うち、南ドイツの2基は2023年4月まで予備電源として利用できるようにする。

9月5日、ドイツ政府の経済・気候保護省のハベル大臣(緑の党)は、残りの3基は原子力法に規定されている通り、2022年末に送電線から遮断される。ただし、前述の第二弾のストレステストの結果、今夏は渇水だったので河川などの水位が下がり水力発電、石炭の舟運などに支障をきたしており、また、フランスの原発は半分程度しか稼働していない、などから、この冬には厳しい電力状況に陥るかもしれない南ドイツにおいては、残っている原発2基(Isar2、Neckarwestheim2)を2023年4月まで予備電源として利用できるようにしておくとした。

10月17日、ショルツ首相は国内に残る原発3基を最長で2023年4月15日まで稼働できるようにするための法的枠組みを早急に整備するよう、経済や環境や財務などの関係閣僚に書簡で指示した。最終的にはリントナー財務相の3基全てを稼働可能な状態で残すべきだという主張に対し、反原発を掲げる政党である緑の党出身のハーベック経済気候相が同意した。

2.日本の対応

次に、日本についてみる。筆者は、岸田首相が目指す上記の❶~❸について、昨年10月13日の「論座」の「エネルギー危機の日本 岸田総理の意味不明な原子力政策~ドイツの例から考える ロシアのウクライナ侵略に伴う国際的なエネルギー危機への対応で浮き彫りになったもの」において、以下のように指摘した。

❶の新規規制基準合格済みの7基は、女川2号機(安全対策工事中)、東海第2(避難計画づくり中)、柏崎刈羽6・7号機(事実上の運転禁止)、高浜1・2号機(安全対策工事中)、島根2号機(安全対策工事中)である。岸田総理がこれらを再稼働させたいのは、足元の電源不足に対応するためであろう。9月1日、電力送配電会社8社は、今冬の需給逼迫に対応するためJERAの知多第二火力1号機(LNG)など合計約264万kWの休眠火力を確保したと発表した。また、2022年には、原発と同じようにベースロードを担う石炭火力が3基も運転開始となる。関電に卸売する神戸製鋼3号機(65万kW)が2月、JERAの武豊石炭火力(107万kW)が8月に、それぞれ運転開始した。中国電力三隅2号機(100万kW)が11月、神戸製鋼4号機(65万kW)は年度内にそれぞれ運開予定。

さらに、JERAの横須賀石炭火力(65万kW×2機)が2023年、2024年に、それぞれ運転開始になる。前述の神戸製鋼の石炭火力の計画には、地元での反対運動があり、民事差し止め訴訟や行政訴訟も進行中である。悪名高き石炭火力発電所ではあるが、東京電力・中部電力(JERA)、関西電力、中国電力管内には、2004年までに、それぞれ237万kW、130万kW、100万kWの計463万kWが順次、運転開始となるので、これらで必要な予備率は確保できるのではないか。少なくとも、東海第2原発、柏崎刈羽6・7号機、高浜1・2号機、島根2号機の再稼働は不要である。

また、岸田首相は7月の第1回GX実行会議において、「今後10年間にわたり官民で150兆円規模の投資を進める工程表を年内にまとめ、再生可能エネルギー普及など脱炭素化により社会経済や産業構造の転換を加速させる。」とした。この中で、電力送配電事業者による電力需要のピークカットやピークシフトのシステムを構築していただきたい。いたずらにベースロードを担う原子力や石炭火力の発電容量を増やすより、ピークカットやピークシフトのシステムを構築することの方がサステナブルではないだろうか。また、大規模な洋上風力発電が複数構想されている東北沖の日本海から首都圏への送電は、事実上の運転禁止となっている柏崎・刈羽の7基を早期に廃炉にして、柏崎・刈羽原発用だった送電線を使うべきだ。

❷については、原子炉等規制法では、法定運転期間である40年に、一回に限り20年を超えない期間を延長できると規定されているが、これをさらに延長しようというものである。現在20年延長が認められている美浜3号機、高浜1号機・2号機がさらに20年延長すると、それぞれ2056年、2054年、2055年まで運転することになるが、(筆者の見積もりでは)2050年には再エネが電源の94%程度を占めるので、調整電源にもならない原発は不要なのである。ちなみに、1999年から2000年にかけてのドイツにおける脱原発の方法を巡る議論の中では、運転期間についは、当初、原発を保有する電力会社が40年、緑の党が30年とそれぞれ主張し、結局、32年に落ち着いたという経緯があったと記憶している。

❸については、次世代革新炉が足元のエネルギー危機の克服には貢献しようがないことは明白である。また、主力電源となった再エネの調整電源にならない原発は次世代革新炉であろうが「お呼びでない」のである。ただし、研究をすることを妨げるものではない。

3.原子力の活用

2022年12月22日のGX実行会議(第5回)において「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」が決定された。「原子力の活用」については以下の通り(下線:筆者)。

原子力は、出力が安定的であり自律性が高いという特徴を有しており、安定供給とカーボンニュートラル実現の両立に向け、脱炭素のベースロード電源としての重要な役割を担う。このため、2030 年度電源構成に占める原子力比率20~22%の確実な達成に向けて、安全最優先で再稼働を進める。

着実な再稼働を進めていくとともに、円滑な運営を行っていくため、地元の理解確保に向けて、国が前面に立った対応や事業者の運営体制の改革等を行う。具体的には、「安全神話からの脱却」を不断に問い直し、規制の充足にとどまらない自主的な安全性向上、地域の実情を踏まえた自治体等の支援や防災対策の不断の改善等による立地地域との共生、手段の多様化や目的の明確化等による国民各層とのコミュニケーションの深化・充実に取り組む。

将来にわたって持続的に原子力を活用するため、安全性の確保を大前提に、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む。地域の理解確保を大前提に、まずは廃止決定した炉の次世代革新炉への建て替えを対象として、六ヶ所再処理工場の竣工等のバックエンド問題の進展も踏まえつつ具体化を進めていく。

その他の開発・建設は、各地域における再稼働状況や理解確保等の進展等、今後の状況を踏まえて検討していく。あわせて、安全性向上等の取組に向けた必要な事業環境整備を進めるとともに、研究開発や人材育成、サプライチェーン維持・強化に対する支援を拡充する。また、同志国との国際連携を通じた研究開発推進、強靱なサプライチェーン構築、原子力安全・核セキュリティ確保にも取り組む。既存の原子力発電所を可能な限り活用するため、原子力規制委員会による厳格な安全審査が行われることを前提に、運転期間に関する新たな仕組みを整備する。現行制度と同様に、運転期間は 40 年、延長を認める期間は 20 年との制限を設けた上で、一定の停止期間に限り、追加的な延長を認めることとする。あわせて、六ヶ所再処理工場の竣工目標実現などの核燃料サイクル推進、廃炉の着実かつ効率的な実現に向けた知見の共有や資金確保等の仕組みの整備を進めるとともに、最終処分の実現に向けた国主導での国民理解の促進や自治体等への主体的な働きかけを抜本強化するため、文献調査受け入れ自治体等に対する国を挙げての支援体制の構築、実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)の体制強化、国と関係自治体との協議の場の設置、関心地域への国からの段階的な申入れ等の具体化を進める。

昨年8月に岸田首相が提起した❶、❷、❸は、そのまま基本方針に明記されたのである(下線部)。

たけうち・つねお

1954年愛知県生まれ。名古屋大学名誉教授・特任教授、中部ESD拠点協議会運営委員長・中部サステナ政策塾顧問、愛知学長懇話会SDGs企画委員長。1977年~2006年環境庁・環境省(この間、ブッパータール気候環境エネルギー研究所客員研究員、通産省出向など)、2006年~2019年名古屋大学大学院環境学研究科教授。著書:環境構造改革―ドイツの経験から-(リサイクル文化社、2004年)、「環境と福祉」の統合(共著、有斐閣、2008年)、社会環境学の世界(共編著、日本評論社、2010年)、環境-持続可能な経済システム-(共著、勁草書房、2010年)、低炭素都市-これからのまちづくり-(共著、学芸出版社、2010年)、水の環境学(共著、名古屋大学出版会、2011年)、二つの温暖化-地球温暖化とヒートアイランド-(共著、成山道書店、2012年)、地域からはじまる低炭素・エネルギー政策の実践(共著、ぎょうせい、2014年)、「地域環境戦略としての充足型社会システムへの転換」(清水弘文堂書房、2018年)、「SDGsの原点『地球憲章』考える」(共編著、三省堂書店、2022年)ほか。

 

『1.5℃の気候危機—脱炭素で豊かな経済、ネットゼロ
社会へ』(松下和夫著/文化科学高等研究院出版局/2022年11月/1430円)

 

概要

大丈夫か! ガラパゴス化の日本気候政策?!

かつて世界市場の過半を占めた日本の太陽光パネルメーカーのシェアは大幅低下し、拡大する電気自動車の世界市場では上位10社に日本メーカーの姿はありません。電力供給に占める再生可能エネルギーの割合は20%あまりにとどまり、石炭火力への依存が続く。脱炭素・脱化石燃料に向けた必要な改革と投資は滞り、気候変動対策の野心的目標や、再生可能エネルギー拡大のための制度改革や送電網整備も遅れています。二酸化炭素排出に価格をつけるカーボンプライシング(炭素の価格付け) の導入も先送りされています。今や日本の気候・産業政策は世界の周回遅れで、ガラパゴス的状況です。本書は、世界各国の動きや地域からの取り組みを視野に入れて、脱炭素で豊かな経済への移行の課題を考察しています。この論考が、日本の気候政策のガラパゴス化からの脱却を考える一助となれば幸いです。(詳細はbookEHESCホームページをご参照ください。)

目次

1 はじめに 日本の気候変動政策への違和感、ガラパゴス化する日本の気候・商業政策

2 サステナビリティとSDGsを考える

  【コラム1】グリーン・リカバリー(緑の復興)とは

3 戦争と気候危機

  ロシアのウクライナ侵攻で懸念される環境・気候破壊

  【コラム2】地球を世界遺産に

4 資本主義をやめないと、気候危機は止まらないのか?

5 イギリスでのCOP26の結果が示すもの

  【コラム3】「EUタクソノミー」が意味するもの

6 ドイツのG7サミットから 日本政府は「気候クラブ」にどう関与するか

7 アンモニアと水素は脱炭素社会の切り札になるか?

  【コラム4】世界のEV(電気自動車)化に立ち遅れる日本の自動車業界

  【コラム5】浮体式洋上風力への期待

8 地球からの脱炭素化への取り組み

  【コラム6】金毘羅さんの気候変動対策

9 二〇五〇年ネットゼロ社会移行の課題

  主としてガバナンスの観点から

  【コラム7】「ストックホルムから五十年、リオから三十年」

10 コロナ後及びカーボンニュートラルに向けての新しいエネルギー政策

  「参議院資源エネルギー調査会 2021.4.21 参考人として意見陳述」より

11 おわりに 「わたし」の気候危機

(文化科学高等研究院出版局サイトより)

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