特集 ● どこへ行く“労働者保護”

人権侵害の労働現場をなくせ

日本が問われている! 外国人労働者の“いのちと権利”を守ろう

JAM労働相談アドバイザー 小山 正樹

現代の理論デジタル第18号(2019年2月3日発行)「対等な労働契約関係には絶対になれない―外国人技能実習制度と労働運動の課題」で、次のように書いた。

「技能実習生からの相談を受けて実習生たちが働く現場を見ると愕然とする。閉鎖的な空間に閉じ込められて早朝から深夜まで低賃金で働かされる姿は、100年前の『女工哀史』の時代と変わらない実態ではないか。日本国内の労働現場に、このような違法な実態を許してきたこと自体、日本の労働運動にはその責任の一端があると考えるべきだ。労働組合は、正社員労働組合の枠を越えて、社会的な役割を果たしていかなければ存在価値がなくなる」「今後の課題は、第1に外国人労働者を労働組合に組織化すること。問題が起こった時の解決方法としては、労働組合による団体交渉が最も有効である。行政機関に頼るのではなく、労働組合自らが外国人労働者を組織することである。そのための検討を、ナショナルセンター、産業別労働組合が中心になって進めるべきである。第2に母国語による労働相談を受ける態勢を労働組合のネットワークで作り上げることだ。労働組合役員OBやボランティア通訳などの協力を得て、相談を受ける態勢作りの検討を進めてほしい。

現代の理論に書いたことを実現するため、当時の連合事務局長に会って提言した。連合が「外国人労働者支援センター(仮称)」つくってナショナルセンターとしての役割を果たしてほしいという内容だ。事務局長の説明は、従来の「非正規労働センター」を発展的解消し「フェアワーク推進センター」を設置するので外国人労働者支援についてもこのセンターで取り組むということだった。連合は、フェアワーク推進センターを設置したが、残念ながら外国人労働者問題に本格的に取り組むような方針も人的配置もなされなかった。

それが理由ではないが、筆者は東京から郷里の長野県上田市に住まいを移し、労働運動から少しずつ遠ざかることにした。

落雷労災事故による外国人労働者2人の死

2020年8月、長野県小諸市柏木の畑でサニーレタスの苗の植え付け作業をしていた2人の外国人労働者が落雷に遇い、病院に運ばれたがその後死亡したというニュースが地元のテレビ、新聞で報じられた。この心痛むニュースがとても気になった。どういう状況で仕事をしていたのか、雇用主と犠牲者の労働契約がどうなっているのか、雇用主の責任はどうなっているのか、労災補償給付手続きが行われて労働基準監督署は労働災害と認定したのか、再発防止対策は講じられているのか、地域の労働団体は犠牲者への支援をしているのか、を知りたかった。その一部が分かったのは、年を越し2021年1月、信濃毎日新聞が外国人との共生社会実現を目指す6か月連載キャンペーン「五色のメビウス」で、この落雷労災事故を大きく取り上げたからである。

信濃毎日新聞「五色のメビウス ともにはたらき ともにいきる」12
高原に稲光 2人の死
 畑は1500平方メートルほど。バンクさんらの複数の証言によると、自身を含めタイ出身の6人、スリランカ出身の2人の男女8人が午前5時半からサニーレタスの苗を植えていた。時給は900円。
 午後4時ごろ。雷鳴がとどろき、雨が降ってきた。バンクさんは「怖いな。早く終わりにしたい」と思った。
 畑の脇に止めた3台の車に乗り込み、みんなで休憩した。バンクさんはこの時、日本人男性雇用主から「お願い、お願い」と作業を続けるよう頼まれたのを覚えている。「大丈夫だ」と自らに言い聞かせ、再び地面を踏んだ。
 休憩後、雷鳴が増え、雨脚が強まった。荒天の予報を知らなかったバンクさんは他の農作業員と同様、かっぱを身に着けていなかった。夏なのに寒さで体が震えた。
 それでも「もうちょっとで苗植えは終わりだ」と地面に視線を落としつつ、作業を進めた。上空の稲光に目をやる余裕も勇気もなく、必死にペースを上げた。
  ・・・・・・
 落雷後、意識が戻ったバンクさんら6人は、少し離れたところで倒れたままの2人の異変に気付いた。スリランカ出身の男性ヘッティアーラッチゲ・イラン・ドゥッシュマンタ・ダ・シルワさん=当時(34)=と、その隣にいたタイ出身の女性ワランヤー・シンジェムさん=当時(29)。それぞれイラン、オムエムの愛称で呼ばれていた。
 6人は2人に駆け寄り、心臓マッサージを施した。携帯電話を持っていた1人が、現場から離れていた雇用主に連絡した。2人は救急車で隣の佐久市内の病院に運ばれた。
 翌日、ヘッティアーラッチゲさんが息を引き取った。9月9日、シンジェムさんも亡くなった。小諸署や遺族によると、2人の遺体にはやけどの痕や裂傷が残っていた。
 地面に複数の稲妻が落ちるのを目撃したという近所の男性は「あの時、外に人がいたことが信じられない」と振り返る。小諸労基署は「落雷事故は今も調べている」とする。
 2人が死亡したことへの責任をどう感じているのか、なぜ落雷の中で作業を続けさせたのか―。市内の事務所で12月29日、雇用主に記者が問うと「あなたには関係ない」と述べるにとどまった。
  ・・・・・・
 2人の外国人農作業員が犠牲となった落雷事故から約5カ月。記者は会員制交流サイト(SNS)も使いながら、遺族や畑の関係者、専門家ら総勢約60人の証言や見解を集めた。事故当時の状況や2人の足取りから見えてきたのは、外国人の命が軽んじられている実態だ。

  ※2021年1月24日信濃毎日新聞の連載「五色のメビウス」12の記名記事を一部省略し許可を得掲載

  ※6カ月の連載をまとめた「五色のメビウス」信濃毎日新聞社編は明石書店から出版されている

スリランカとタイ出身の8人の労働者は、激しい雷雨による危険な状況のなかで、雇用主に農作業を続けることを強いられ、そのうち2人が落雷によって命を落とした。

雇用主はなぜ作業を中止して避難させなかったのだろうか。外国人だから雷雨の中でも無理強いをしたのではないのか。雇用主はどのように責任を取るつもりなのか。雇用主は遺族に謝罪も補償もしていない。記者が書いたとおり「外国人の命が軽んじられている実態」そのものである。

小諸労働基準監督署は、2021年2月15日、雇用主を労働基準法違反(労働条件明示義務違反)で書類送検した。亡くなった2人は、技能実習生ではなく非正規滞在であった。労基署は、農作業をしていた外国人と雇用主との雇用契約関係を明確に認定し、雇用主に対して極めて厳しく対応したと評価できる。なお、7月に検察は雇用主を略式起訴し、裁判所は罰金10万円の略式命令を出している。

その後、小諸労働基準監督署は夏が近づくと「屋外で仕事をする全ての皆さまへ 落雷災害に注意! 令和2年8月下旬、小諸・佐久地域では、屋外作業中の2名の労働者が亡くなっています。亡くなられたお二人の死を無駄にしないためにも、今年の夏は同じ災害が起きないよう注意してください」と書いたチラシを作成して配布している。

信濃毎日新聞の記事を読んで、死に至った労災事故の状況が分かった。小諸労基署が雇用主を労基法違反で書類送検したことで労働契約関係が明確になり、労災保険の遺族補償につながると確信できた。タイ出身のシンジェムさんの遺族と連絡をとることができたので、労災補償手続きの支援を約束した。

地域に犠牲者の労災認定を支援する団体はなく、連合に相談したところ協力するが個別案件には取り組めないとのことなので、3月4日に小諸労働基準監督署へ単身で出向き、労災課長に小諸落雷労災事故に関して労災保険の遺族年金支給請求の支援をすることを申し出た。ところが前日に遺族補償の申請書を受理しているとのことだった。小諸労基署は在日タイ大使館の協力を得て遺族に申請手続きを促していたと思われる。

亡くなったワランヤー・シンジェムさんの家族は、両親と妹、そして9歳の娘さん。労災保険の遺族(補償)年金の対象はこの娘さんとなる。小諸労基署から娘さん宛に2021年6月11日付の労災保険の遺族(補償)年金・遺族特別支給金の給付決定通知が届いたとの連絡が入った。日本語で書かれた小諸労基署からの通知を、お母さんは何が書いてあるか分からず写真に撮ってデータを送ってきた。遺族(補償)年金の年金年額は給付基礎日額の153日分という規定により153万円、遺族特別支給金(一時金)は300万円となる。娘さんへの遺族(補償)年金は、娘さんが18歳に達する日以後の最初の3月31日まで給付される。

非正規滞在の外国人労働者も、労働基準法、労災保険が適用されるは当たり前とはいえ、まだ9歳の娘さんへの年金給付の決定に安堵した。シンジェムさんのお母さんへは、雇用主に対して労災賠償請求の民事訴訟もできるので協力すると伝えたが、雇用主にこれ以上の制裁を科すことはしないと明快な答えが返ってきた。

小諸市に隣接する佐久市で、シンジェムさんと同じタイ出身の浅沼イクさんは、地域のボランティアとともにサラダボウルの会として外国人のための日本語教室などの活動をしている。シンジェムさんの遺族を支援する取り組みも行ってきた。イクさんやサラダボウルの会の皆さんと出会う機会があり、落雷労災事故から1年をむかえるにあたって犠牲者を追悼する会を企画することになった。コロナ禍で開催を延期して2021年11月20日に「小諸落雷労災事故の犠牲者を追悼する会」を開催した。

新聞の記事を見て参加してきた人、メールで連絡してきた人。参加者の話を聞き、2人の外国人労働者の死について多くの人たちがずっと気にかけていたことが分かった。「すべての人の命と人権は、同等に守られなければならない。行政、関係団体、事業主、働く者、地域社会が再発防止策を強化するよう訴える。そして、多様性を尊重しあう共生社会をめざして、地域のなかから活動を積み上げていこう」と決議した。事故から2年が経過した2022年10月30日にも継続して第2回目の追悼する会を実施した。

残っっている課題は、もう一人の犠牲者であるスリランカ人のヘッティアーラッチゲ・イラン・ドゥッシュマンタ・ダ・シルワさんの労災補償給付の手続きができていないこと。スリランカにいる遺族との連絡をとる作業を今も続けている。

外国人技能実習制度という名の隷属的労働制度

現代の理論デジタル第18号に技能実習生からの労働相談の事例を書いた。4年を経ても現場の実態は変わっていない。

第1に残業代時給400円などの違法な低賃金、第2に過労死ラインを超える長時間労働、第3に強制帰国という脅し、第4に暴力、パワハラ、セクハラ、人権無視。すべての職場でこのような実態にあるわけではない。比較的健全な監理団体や事業主の方と話をすると、悪いところばかり取り上げずに良い条件で楽しく働いている事業所のことも見てくださいと言われる。確かに健全な事業主のもとで働きやすい良い環境の現場もある。

しかし、外国人技能実習制度だからこそ陥る関係、それは雇用主と実習生の関係が対等な労働契約関係に絶対になれない、隷属的な関係であることだ。だから外国人技能実習制度は廃止すべきだという結論になる。

技能実習制度には、開発途上国への技能、技術の移転と人づくりに協力する国際貢献という目的がある。そのために外国人技能実習機構に認定された技能実習計画に基づいて、外国人技能実習生は実習実施者(雇用主)の下で一定期間に定められた職種・作業の技能実習を受けるという制度である。

なぜ隷属的な関係になってしまうのか。

①技能実習生は本国のブローカー送り出し機関に多額の手数料等を払うために、ブローカーや親や親戚などから年収の数倍にもなる借金をして、日本で技能実習生として働いて得た賃金から返済する。借金返済のほかに実家への仕送りも欠かさない。これまで相談を受けた技能実習生で借金がないという人はほとんどいない。

②あらかじめ雇用契約を結んだ実習実施者(雇用主)のところで技能実習という名目で働くのだが、事前に説明された条件と違うとか、仕事の内容が合わないなどの問題があって職場を替わりたいと思っても、技能実習生には他の職場へ転職する自由はない。

③技能実習生が監理団体あるいは実習実施者(雇用主)に労働条件などの不満を伝えると、「いやなら国へ帰れ」と脅される。悪質な場合は強引に空港へ連れていき強制的に帰国させる場合もある。

④技能実習生にとっては、帰国させられたら借金だけが残ることになる。だから、労基法違反、暴力、パワハラ、セクハラ、人権無視があっても、技能実習生は「我慢するしかない」と考えてしまう。

この①②③④によって、技能実習生は実習実施者(雇用主)に隷属させられてしまう。これが外国人技能実習制度の構造的な問題である。

技能実習生の妊娠・孤立出産・死産・・・死体遺棄罪で有罪判決

外国人技能実習法が施行される前日の2017年10月31日に「守ろう!外国人技能実習生のいのちと権利」集会を参議院議員会館の会議室で開催した。主催する集会実行委員会は、日本労働組合総連合会(連合)、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)、在日ビルマ市民労働組合(FWUBC)、ものづくり産業労働組合JAM、外国人技能実習生問題弁護士連絡会、日本労働弁護団、外国人技能実習生権利ネットワークで構成している。その後、「守ろう!外国人労働者のいのちと権利」と名称を変えて、ほぼ毎年同じ時期に集会を開催。できるだけ現場の報告を中心に技能実習制度の実態を明らかにしてきた。

2021年12月7日に開催した集会での事例報告で、熊本の石黒大貴弁護士から痛ましい事例と支援の訴えがあった。

その事件は、ベトナム人技能実習生のリンさんが、孤立出産に陥り、死産した双子の赤ちゃんの遺体をタオルにくるみ段ボール箱に入れて一晩自室の棚の上に置いて過ごしたという死産当日の行為が死体遺棄にあたるとして2020年12月10日に起訴され、翌年7月20日に懲役8か月・執行猶予3年の有罪判決を受けた事件である。弁護団は「①リンさんは、死産直後の体力的、精神的にも疲弊した状態であったこと、②体力が回復した後に、きちんとした埋葬をしようと思い安置をしていたこと、③日本で埋葬するにはどうすればよいか分からなかったとし、1日で葬祭義務を履行するのは不可能」として、リンさんの行為がそもそも死体遺棄罪にあたらないとして控訴した。

控訴審で福岡高裁は、赤ちゃんが寒くないようにひとまわり大きい箱に入れ、テープ留めをした行為が「死体を隠す」行為、すなわち隠匿にあたるとして、新たに懲役3か月・執行猶予2年の有罪判決をくだした。

弁護団は最高裁に上告し、広く一般から募集した127の意見書も最高裁に提出した。

最高裁の草野耕一裁判長は、2023年2月24日に弁論を開くことを決定。弁論は、判決を変更する際などに必要となる手続きで、二審判決が見直される可能性がある。

ネットでの「意見書ご協力のお願いのなかで、事件について次のように書かれている。

この事実を読むのもつらくなる。

2020年11月、熊本のベトナム人技能実習生、レー・ティー・トゥイ・リンさんは双子の男児を死産しました。
 技能実習先の寮の一軒家の自室でのことでした。
 医者にも同僚にも言えないまま、たった一人で迎える孤立出産でした。
 インターネットでは、妊娠した技能実習生は帰国させられるという噂が広まっています。
 リンさんは日本での乏しい所得から故郷の家族への仕送りを続けており、絶対に帰国させられるわけにはいかなかったのです。
 苦痛に満ちた数時間が去り、双子が生まれおちたとき、部屋も布団も血まみれでした。
 リンさんの目の前には産声すらあげないわが子が横たわっていました。
 リンさんは肉体的にも精神的にもボロボロの状態でしたが、布団の枕元にある段ボール箱に手を伸ばし、タオルで双子の赤ちゃんを包んで、箱の中に入れました。
 2人につけた名前、生年月日、「ごめんね、天国で安らかに眠ってください」、そして仏教の祈りの言葉を手紙に記し、赤ちゃんの上に載せました。  南国の熊本とはいえ、11月はすでに肌寒い季節です。
 リンさんは赤ちゃんが寒くないように、赤ちゃんの入った段ボール箱よりもひと周りだけ大きい段ボール箱に重ねて入れて、工作で使用するセロハンテープで封をしました。
 この箱を布団のすぐそばにある3段キャビネットの一番上に乗せて、リンさんは産後初日の一晩を過ごしました。
 翌日、技能実習生の監理団体がリンさんの異常を察知しました。
 リンさんは病院に連れていかれ、その日の夕方、泣きながら死産したことを告白しました。

  ※孤立出産.jp意見書ご協力のお願いより

技能実習制度は、技能実習生が一人の人間として妊娠し子を産む権利をも蹂躙する制度なのかと怒りをおぼえる。この悲しい出来事も技能実習制度の構造的な問題から起因している。事前に「妊娠したら帰国する」という誓約書を書かされることや、実際に妊娠して帰国させられた技能実習生の実例も数多くある。「妊娠したら技能実習生は帰国させられる」とリンさんが思ってしまうことは無理からぬことである。

法律上は、妊娠、出産等を理由とした解雇や不利益取り扱いは禁止されている。妊娠を理由として帰国することをあらかじめ約束させることも許されない。入管庁、厚生労働省、技能実習機構は、監理団体、実習実施者向けに「妊娠を理由に技能実習を一方的に終了することはできません」と説明している。

妊娠し孤立出産に追い込まれてしまった人を「犯罪者」にしてしまう日本社会。人権を守るという意識が低いのだろうか。最高裁がまっとうな判断をくだすことを期待する。

「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の議論に注視を

外国人技能実習法が2017年11月1日に施行されて5年が経過した。法の附則に「政府は、この法律の施行後5年を目途として、この法律の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずる」とある。また、出入国管理及び難民認定法の一部改定により2019年4月から実施された「特定技能制度」も施行後2年の見直し規定がある。

前前任の古川禎久法務大臣は、2022年2月から特定技能制度・技能実習制度に係る法務大臣勉強会を設置して幅広く関係者からのヒアリングを行い、7月29日の大臣記者会見で次のように語っている。

「技能実習制度については、人づくりによる国際貢献という技能実習制度の目的と、人手不足を補う労働力として扱っているという実態がかい離していること、実習生側、実習実施者側双方において事前情報が不足しているため、例えば、『聞いていたよりも賃金が低い』『聞いていたよりも能力が低い』等のミスマッチが生じている事例があること、実習生の日本語能力が不十分であるために職業上の指導やトラブル発生時の意思疎通に困難が生じている例があること、不当に高額な借金を背負って来日するために、不当な扱いを受けても相談・交渉等ができない実習生がいること、原則、転籍ができないとされているため、実習先で不当な扱いを受けても相談・交渉等ができない実習生がいること、構造的な問題もあり、監理団体による監理体制や相談・支援体制が十分機能していない事例があること、外国人技能実習機構の管理・支援体制に十分でない面があること等の問題点の御指摘があり、私としても、これらはもっともな御意見であると受け止めています。」(※法務省ホームページより。下線は筆者)

これは従来になく制度見直しに向けた前向きな発言であり、強制労働、奴隷的労働と批判されてきた技能実習制度に、廃止も含めた検討が進められることが期待される。ところが、8月の内閣改造で法務大臣は、古川氏から葉梨康弘氏へ、葉梨大臣は3ヶ月で更迭され現在は齋藤健法務大臣となっており、どうなることか。

政府は、「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」の下、両制度の施行状況を検証し、課題を洗い出した上、外国人材を適正に受け入れる方策を検討し、関係閣僚会議に対して意見を述べることを目的として、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」を設置。2022年12月14日に第1回会議が開催されれた。論点として、「制度目的(人材育成を通じた国際貢献)と実態(国内での人材確保や人材育成)を踏まえた技能実習制度の在り方(制度の存続や再編の可否を含む。)」などが示されている。

公表されている有識者会議の構成メンバーは次のとおり。

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議名簿
[座長] 田中 明彦  独立行政法人国際協力機構理事長
[座長代理] 高橋 進   株式会社日本総合研究所チェアマン・エメリタス
[構成員] 市川 正司  弁護士
      大下 英和  日本商工会議所産業政策第二部長
      黒谷 伸 一 般社団法人全国農業会議所経営・人材対策部長
      是川 夕   国立社会保障・人口問題研究所国際関係部長
      佐久間 一浩 全国中小企業団体中央会事務局次長
      末松 則子  鈴鹿市長
      鈴木 直道  北海道知事
      武石 恵美子 法政大学キャリアデザイン学部教授
      冨田 さとこ 日本司法支援センター本部国際室長/弁護士
      冨高 裕子  日本労働組合総連合会総合政策推進局総合政策推進局長
      樋口 建史  元警視総監
      堀内 保潔  一般社団法人日本経済団体連合会産業政策本部長
      山川 隆一  東京大学大学院法学政治学研究科教授

技能実習制度が目的と実態がかい離していることは、政府側も認めざるを得ない公然の事実である。4~5月ごろには中間報告書、秋には最終報告書がまとめられ「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」へ提出されることになっている。

制度の大きな転換点になるかもしれない。有識者会議の議論に注視してほしい。

技能実習制度を廃止し、人権が尊重される新たな受け入れ制度をつくっていくべきである。その方向へ転換させなければならない。そして、外国人労働者とともに働きともに暮らす共生社会に向けて、地域からの実践を積み重ねていくことが最も必要なことではないだろうか。

こやま・まさき

1951年生まれ。総評全国オルグ、全国金属機械労働組合常任書記、同書記次長、同書記長、JAM副書記長を経て、現在JAM労働相談アドバイザー、FWUBC(在日ビルマ市民労働組合)顧問。

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