特集●資本主義のゆくえ

若者が生抜くー労働関連法教育の役割(下)

NPO活動の10年から振り返る喫緊の課題

NPOあったかサポート常務理事 笹尾 達朗

8.「抵抗できる力」は労働関連法教育で可能であろうか

9.問われるべきは若者が社会に繋がるための労働環境にある

10.労働力不足と国の進める「7・5・3現象」対策の効果

11.労働組合の「労働教育」事業と全国社会保険労務士会の役割

12.NPO法人あったかサポートの今後の役割と課題

(以下前号)1.あったかサポートとは/2.活動の中心となった「労働関連法教育事業」の推進/3.なぜ「労働関連法教育」という表現を使うのか/4.女性の社労士による「出前授業」の特色/5.定時制高校の統廃合と私学通信制の増加、問われる若者の受援力/6.「自己責任論」から自由になるための労働関連法教育へ/7.ジェンダー視点からの労働関連法教育の推進

8.「抵抗できる力」は労働関連法教育で可能であろうか

「適応と抵抗」は、教育社会学者の本田由紀先生のキーワードである。若者が職業に就くためには、その両方が必要だということだ。それに異論は一切ない。今のキャリア教育では、「適職」を求めて「適用力」を磨くことに熱心だが、「抵抗」できる力の形成には消極的だ。

労働者が職場で理不尽な処遇を受け、差別をされた時には、労働者に「抵抗」する力が必要だ。勿論、労働基準法などで定められ権利を主張する上においても、労働者には「知識」と「勇気」が必要だ。しかし、どこの職場であろうと、当該労働者にその職場における平均的な職業スキルと協調性がなければ、労働者一人では「抵抗」も「権利行使」も困難だ。そうでなければ、上司は言うまでもなく同僚からの理解も得られないだろう。特にこの国では、職務が限定されている訳ではなく、測定困難な「貢献度」が職制の査定に反映される仕組みになっている。職場では、総合担務が前提とされ、「同一労働同一賃金」の実現は難しい。

いま厚労省以外にも文科省が今のキャリア教育の中に、労働法制の基礎知識を高校や大学で提供する動きが見える。2015年には「若者雇用促進法」の「指針」で「労働法制に関する基礎知識の付与」が望ましい、としている。また弁護士や研究者の間には、2014年に「過労死等防止対策推進法」が制定され、啓発活動がしやすくなっていることから、「ワークルール教育」についての推進法の制定に力を入れている。それは、「労働法教育推進法」の立法化へと労働行政機関を動かし、労働基準監督官の労働行政的監督権限の活用を強める方向に向かうであろう。と同時にその場合の国が進める学習主体は、あくまでも経営者や管理監督者層であって、法令順守(コンプライアンス)の推進にある。現場で働き、そして権利を行使する立場の労働者は想定されにくいだろう。

使用者に対して弱い立場にある学生アルバイトや労働者に対し、使用者が権利を教え、その権利を行使することを促すことは現実的ではない。それは、時として使用者と対峙することになることからして、職場にそうした緊張感をもたらすことに対して、大方の認識は慎重にならざるを得ない。

実のところ筆者の経験からしても「権利を知ること」と、それを具体的に「権利を行使すること」とは異次元の問題である。職場では、大概の労働者が職場の人間関係に配慮して年次有給休暇の権利を取得することを差し控えるなどのことは、日常的な出来事としてある。職場の先輩が権利を行使していないのに後輩が行使をすることはほとんど不可能に近い。確かに権利は個人のものであっても、当該の職場集団にそれを行使する環境が備わっていなければ権利の行使は困難である。権利の行使とは、具体的な労働者個人の請求行為であり、労働者自らの主体的な意思である。そうした権利の行使に当該職場の労働者が参加することでなければ、権利は絵に描いた餅に等しい。もし、そうした労働者の営みに対して、使用者側からの妨害が生じた時こそ、それが「抵抗」である。そうした力は、与えられるものではなく、権利行使の主体たる労働者が日常的な営みの過程で培うものであろう。

9.問われるべきは若者が社会に繋がるための労働環境にある

有効求人倍率が高まり、労働力の「買い手市場」から「売り手市場」に変化し、若者の雇用環境は改善しているのか、と問われれば、大概の大人は、「雇用の質」を問わずに良くなっていると答えるだろうか。しかし当の若者は、そんなことよりも仕事に対して自分の時間と人生を賭けるというような働き方を望んではいないように思える。その反面、この国の企業社会の現状に対しては、やはり認識不足のようにも思える。

そこで、若者の就労意識を概観してみよう。例えば、人材情報サイトを運営するマイナビの「2017年新卒大学生の就職意識調査」によると、「就職観」では「楽しく働きたい」が約30%、「企業志向」では「大手企業+自分のやりたい仕事」が約48%、「企業選択のポイント」が「やりがいのある仕事ができる会社(職種)」が約38%、行きたくない会社としては「暗い雰囲気」36%、「ノルマがきつい会社」が約30%と続く、「海外勤務志向」になると、「海外勤務はしたくない」が53%と高い。

この数字は、新卒予定の大学生を対象にしたものだが、彼ら彼女らの大半は既にアルバイトの経験もあり、ブラックバイトを経験した若者もいるだろう。社会の荒波や企業社会の厳しさを全く経験していないという学生はそんなにいないだろうと思うのだが、「安定した会社で楽しく働きたい」という希望がかなり強い。

彼らの多くは、「キャリア教育」の「洗礼」を受け、「適性検査」や「自己分析」に始まって、挙句の果てはフローチャート式に「なりたい自分」や「自分に合った仕事」を目指し、「適職」を探し当てるために「就職活動」に邁進することになる。その反面、大学関係者の話を聞く限りでは、「できたら働きたくない、楽しくいきたい」という学生、モラトリアムな若者層が2~3割はあるという。そうした学生の多くは、企業社会の中での働きづらさ、生きづらさを何となく感じ取って、当面働くことを忌避しているのだろう。

今や学生アルバイトの経験者は多数派である。彼ら彼女らは、自らを迎え入れるこの国の企業社会の現実をどこまで知っているだろうか。大学や大学のキャリアセンターは、彼らにリアルな現実を率直に伝えることは、結果として就活を忌避する学生を量産しかねない、という危惧を抱かざるを得ない立場にある。しかしながら、この国の現実は若者の希望に反して大企業であっても「東芝」「シャープ」「三菱自動車」のように人員整理が始まり、決して「安定」した地位が保障されているとは言えない。勿論、その事を話してみたところで、自分の身に降りかかることとは想像はしない。

しかし、若者が就くことになる職場の労働環境については、全国の労働局に寄せられる労働相談は近年増加し、わけても「いじめ・嫌がらせ」やそれに起因する「精神障害」の労災申請も増加傾向にある。また「雇用環境・均等部(室)」に寄せられる男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム労働法を所管する雇用環境均等部(室)に寄せられる相談件数は高止まり傾向にある。グローバル化で若者の海外勤務は増加傾向にあり、目を政治・軍事・治安に向けるといずこの国も国内の治安は不安定化し、テロが横行している。

若者たちが「楽しく働きたい」と期待するほどに、彼ら彼女らを当初はやさしく迎え入れてくれるグローバル化した日本の企業社会の現実は、相当に厳しい。今や若者の離職の原因は、「賃金が低い」ということだはなく、多くは「人間関係」や「自分の思っていた仕事ではなかった」が多数を占めている。そうしたリアルな現実から目を背けることは、決して若者のためにはならないだろう。

10.労働力不足と国の進める「7・5・3現象」対策の効果

いま、政府は「一億総活躍社会」の実現をめざし、「若者の早期離職」対策を喫緊の課題としている。当面する課題は、「7・5・3現象」の解消である。この言葉の意味することを大半の親は知らないし、若者の就労支援に何らかの形で関わる大人に中にも知らない者が多数存在する。卒業後3年以内に、中卒(現実には高校中退)の7割、高卒の5割、大卒の3割が離職する、その割合を意味したものだ。この現象は今に始まったことではなく、1990年代のバブル経済崩壊後から時は既に20年以上を経ているのである。

それにも関わらず、ようやく政府がこの課題に対策を講じようとした背景には、少子化をはじめ労働力不足が結果として、労働者の賃金を上昇させ、企業の競争力を削ぐことになりかねないという危機意識を反映したものである。中でも2015年9月に制定された「青少年の雇用の促進等に関する法律」と「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」の二つの法律は、家庭に閉じこもる若者や女性を引きずりだし、この国の「経済及び社会の発展に寄与」し、「社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力ある社会を実現」(いずれも法律の目的条文)することにその目的がある。政府は、若者や女性の活躍を意識して様々な政策を打ち出しているが、例えば「3年以内既卒者等採用定着奨励金」などは、黒字化している雇用保険の財源を活用した各種助成金であり、何らかのハンディキャップを持った労働者を採用した事業主に支給する性格のものである。

また若者サポートステーションの所管を各都道府県の労働局に移管したのも、「社会的引きこもり」と言われる若者などただちに一般就労に就けない諸条件を有する若者のために就労という出口を準備してきた従来の「居場所」的機能から、企業の人材確保に向けたワークフェアー的な就労支援事業に軸足を移動したものといえよう。サポステに集まる若者の多くは、経済的、人間関係的な様々な困難を持っているために、そのような軸足の移動だけで若者の就労が容易に進むとは思えない。これから若者サポステに対する政府や労働行政の評価が、就労率の向上という圧力として強まれば、それはサポステ自体のジレンマになりかねない。更に今後、厚労省による就労後の職場への定着率の評価へと発展しかねないが、それは就労を支援する側というよりも受入れる各企業などの事業体に様々な課題を投げかけることになる。それは、現状の方針で果たして可能なのだろうか、疑問はぬぐえない。

11.労働組合の「労働教育」事業と全国社会保険労務士会の役割

この種の労働教育事業に関しては、戦後の労働組合が研究者を招くなどして「草の根の学習会」を組織し、積み重ねた時代があった。しかし、そうした労働組合がいまだ社会人ではない高校や大学などに出かけて労働教育に携わることは、一部の例外を除けば今日まで皆無であったと言えよう。そればかりか今日では、常態化した時間外労働やグローバルな海外勤務を含む広域配置転換などのために、労働組合の学習基盤は喪失している。独自の労働教育事業という今後の展望という意味からも、今日の労働組合の危機が読み取れる。

それに対し近年では、民間団体である弁護士会や司法書士会が専門知識を活かし若者を対象にした労働教育事業に携わっている。勿論、当NPO法人としてもここ10年間の間に当法人に参加する女性の社会保険労務士を中心にチームを編成し、府立高校など学校側のニーズ沿って次第に回数を伸ばし、経験を重ね労働関連法教育の歴史を築いてきた。

一方で私自身も属する社会保険労務士会は、他の専門資格業種に比べて当初、この種の取り組みには消極的であったように思える。中小企業主の労働社会保険料の納付や人事労務管理のアドバイスを生業とすることで自らの生計を支えているため、中には「寝た子を起こすな」として、労働教育的事業に対して消極的な態度を示す社労士が今でも存在している。しかし、非典型(非正規)労働が各企業に広がり、多様な雇用形態の労働者が同一の職場に存在する時代には、今や現役の企業内労働組合の役員が自ら社労士資格を取得し、労組活動に活かすことが求められている。

いまや社会保険労務士会としては、企業内労働組合は「獅子身中の虫を飼う」というよりも、労働者側の立場で臨む社労士を取り込む方が有利な時代になってきたと言えよう。そのため社労士会が国や地方行政機関と連携し、労働法制の基礎知識の普及に努め、事業経営の安定に努めることを自らの事業とすることの方が、社労士会としては有益なものとして理解されるようになってきている。

特に2008年のリーマンショック以降、今日の労働行政はいうに及ばず文科省においてさえ、労働法制に対する周知・啓発活動に関与するようになっている。これまでは、ハローワークの職員が高校などに出向くことはあったかもしれないが、2014年の「過労死等防止促進法」の制定もあって、労働基準に関わる労働行政の職員が高校などで「労働法制に関する基礎知識の付与」について「出前授業」を行う時代になった。また「青少年の雇用促進等に関する法律」の「指針」は、事業主に対して「労働法制に関する基礎知識の付与」が事業主にとって「職場環境の改善やトラブル防止等に資する」ものであり、新入社員研修などで実施することが望ましい、というまでになっている。そうすると今後は、国や地方公共団体が各都道府県の社会保険労務士会に対し、上記のような事業を委託し、それを契機に労使の関係改善や事業環境改善を目的にし、委託事業の拡大が進む可能性を秘めている。

ただし、社労士会としては大きな弱点を持っている。皮肉にももう一方の「獅子身中の虫を飼う」ことになってしまっているのである。それが、「ブラック士業」としてマスコミに取り上げられ騒ぎになった愛知県の社労士による「社員をうつ病に罹患させる方法」と題したブログである。この件では、当該社労士が厚労省から一時資格停止処分を受け、それが違法だとして厚労省相手に争っている。その他にも社労士会の団体職員が上司のパワーハラスメントをめぐって訴訟になり、和解したものの団体側が和解条項を守らなかったとして、さらに損害賠償事件にまで発展している。その他にも社労士による「助成金詐欺」で逮捕されるなど様々な不祥事が生じている。そのため全国社労士会の会長名で「職業倫理」上の課題が「月刊社労士」に掲載されるまでになっている。

そうした意味では、高校生などを対象にした社労士による「労働法制に関する基礎知識」を普及させる取り組みは、「ブラック社労士」という汚名を返上する絶好のチャンスであり、今後も社労士会の事業拡大に向けた社会貢献事業として担われるであろうが、社労士の業務が国家資格としての信頼を回復し、かつ近年増加する社労士の事業基盤を形成するにはまだまだ課題は多いと言えよう。

12.NPO法人あったかサポートの今後の役割と課題

今年の6月に厚労省が、各経営者団体に対し、高校生や大学生のアルバイトに関し、労働関係法令の遵守や労働条件の確保について異例の要請を行った。それは近年学生アルバイトの雇用の内容がシフトの編成など基幹化されることで、アルバイトと学業の両立に危機感をもったからである。かつて高校生のアルバイトは各都道府県の教育委員会によって規制されていたものの高校生の貧困を無視できず、それを学校は黙認し、それを国が公認したことになる。この10年間の当NPO法人の社会保険労務士による労働関連法教育の経験と実績が、当の若者や社会に対して、どこまで有効であったのか、検証のしようがないが、当法人が大学生や高校生の労働条件や労働環境の問題を先行して「出前授業」の話題とし取り上げてきたことの意味は大きい。

しかし、常に時代は変化している。それだけに、これまで制度のないところに新しいことを始める、そこにNPOの存在価値がある。それがなければNPOは存立のしようがない。NPO団体をはじめとした非営利の民間団体が社会的課題を提起し、それを国や地方自治体が制度として取り上げる、それが一般的なのである。だとすると、これからの当法人にとって現下の課題とは何か、これまでの労働関連法教育事業の経験と蓄積を活かし、制度としては定着していないもののニーズのある課題を以下いくつか探って行きたい。

一つは、労働と社会保障に関わる一体的支援にある。この間の当法人の関心は、労働問題へのリーガルサポートに限らない労働相談事業、その経験を活かした労働者への労働関連法教育事業とその先にある就労支援事業にあった。労働者が万が一の傷病等で失職するような事態に至ったとき、とりわけ家族が存在しないなど生活保障の拠り所として機能しない場合の事態は深刻である。そのような相談を受けた場合には、当該相談者の雇用関係を含めた社会関係などを含む社会的背景を客観的に把握することにある。

例えば妊娠・出産・育児などを契機に離職をする女性が多いが、厚労省はマタニティハラスメントの加害者に対し懲戒処分を就業規則の中で規定する指針を出すことを決めた。当人が望むならば、このような職場における労働者保護の規制と労働・社会保険の有効活用、保育園の利用をアドバイスすることで継続就労も可能であること、または再び職場に復帰することや雇用労働に関わらず何らかの形で社会に参加できる可能性を一緒に考えることもできる。

いずれの事由にせよ離職することは、生活の危機に直結する時代であり、労働と社会保障に関わる一体的な対策が講じられなければならない。そのためにはソーシャルワーカーとしてのセンスが問われるであろうが、そうした課題に応えることができる人材の養成は、縦割り行政の下では困難である。民主党政権下でパーソナルサポート事業として実験的に試みられたが、社会的課題としてはいまだ残されている。

二つ目には、メンタル疾患やガン患者の職場復帰や治療と仕事との両立支援の課題である。これらの疾病の罹患は治癒可能であり、ガンについては生存率が次第に高まってもいる。ところが病名を告げられることで、早々に仕事の継続を断念してしまう労働者はまだ多い。一方で人材の枯渇や労働力不足に危機感を募らせる大企業や国や行政機関は、その対策の必要性を感じながら「就労支援マニュアル」を指針で示してはいるものの政策的な支援策には至っていない。また民間団体の取り組みが始まってはいるものの国を動かすほどの力は蓄えられてはいない。

これからは医師や看護師などの医療関係者、キャリアコンサルタントなどの就労支援の関係者、労働・社会保険に精通する社会保険労務士などによるネットワークの形成、チーム編成が課題である。とりわけ、これからは労働基準法をはじめとした労働者保護法、労災保険・雇用保険などを活用した生活保障機能、年金・医療・介護などの社会保険を横断的に活用することで、生活保障と職場復帰、更に社会参加の可能性を見出すための法律知識を様々に提供することの役割が高まってくるであろう。

三つめには、当法人に参加する社会保険労務士が、上記のような課題について関わることで社会関係を広め、社会保険労務士としての社会的使命を果たすことである。ご存知のように、この国では、ほぼ97%近くが中小零細企業である。大企業や国地方公共団体とは異なって、日々の経営に苦心している経営者は多い。社労士は、そのような経営者の良きアドバイサーでなければならない。この国の経済・社会の安定のためには、民主主義が定着しなければならない。職場には就業規則があるように、企業秩序を維持するためのルールが不可欠だ。その中でも労働法令の遵守は職場の民主主義には不可欠なテーマである。しかし、残念なことにカネのために「ブラック社労士」として全国に悪名を馳せている者も中には存在する。

多くの社労士は中小企業経営の厳しさを身近に知りながら一方で法令の円滑な実施に寄与することの、板挟みにあって呻吟しているのである。個別労働紛争が増加し、近年高止まり傾向にあるが、これからの社労士は否応なく労働者と事業主に間に挟まれて自らの仕事を行うことになる。雇用する労働者の中には、安定した生活や人間関係に恵まれない者や持病を抱えた者などなど何らかのハンディキャップを持った労働者が増えてくるであろう。これまでのように事業主の話を聞くだけでは問題が解決しないケースが増えてくるであろう。労使双方の事情を理解し、法令に即しながらもお互い歩み寄ることができるための調整役を買って出ることも避けられないであろう。それはいたずらに団体交渉の席上に出ることを目的とするのではなく、それ以前の対処能力が求められているということである。

社労士法の第1条には、次のような規定がある。「・・・事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的とする。」かような社労士業の存在価値は、経営者の利益のみならず、労働者とその家族の福祉の向上のために労働及び社会保険に関する自らの経験と知識を役立てることができる社会的使命、ミッションをおびた存在でなければならない。従って、当法人に参加する社会保険労務士は、上記のような課題に理解を示し、社会貢献活動のおける先陣を切ることで、今後もNPO法人の存在価値を高めて頂けるものと信じている。

ささお・たつろう

1951年生まれ。龍谷大学法学部卒。京都中央郵便局にはいり、全逓労組支部の役員として活動。85年にボランティア団体「労災福祉センター」の設立・運営に参加。2001年社会保険労務士登録。05年労働と社会保障の専門家集団「NPO法人あったかサポート」を設立し常務理事に就任。おすすめ図書に『働くときに知っておきたい労働関連法の基礎知識』(2000円)がある。

ホームページ http://attaka-support.org/  E-mail attaka-support@r6.dion.ne.jp

特集・資本主義のゆくえ

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