特集 ● 歴史はどう刻むか2・8総選挙

「トランプ関税」は違法など最高裁の2判決が「暴走」にブレーキ

注目される米中間選挙戦

国際問題ジャーナリスト 金子 敦郎

トランプ第2期政権が2年目に入って、米国ではトランプ大統領の強権支配がますます進んで第2次大戦・冷戦後世界のモデルとなってきたリベラル民主主義はほとんど窒息状態。国際関係でもトランプ氏によって国連などの国際機関を軸にした多国間協調主義が押しのけられて、米・ロシア・中国の3大国分割支配の構図が浮かび上がっている。しかし、トランプ氏は米国内では支持率が40%を割り込み、しかも支持のほとんどは共和党員に限られるという低迷が続いている。11月上旬の上下両院議会の改選と各州の知事・州政府首脳および州議会改選を同時に行う中間選挙では与党共和党苦戦と予想されていて、トランプ氏本人と熱烈な支持者がトランプ氏の「強権支配」を「個人崇拝」に持ち上げるなど強行突破を狙う動きが強まっている。こうしたなかでトランプ氏寄りとされてきた最高裁判所が下した2件の判決がトランプ氏に想定外の打撃を与えようとしている。

民主主義破壊は許さず

最高裁の2件の判決のひとつは中間選挙必勝を狙ったトランプ氏の試みが憲法違反と却下されたこと。米国では国政選挙を実施するのは各州政府の権限と憲法に定められてきた。トランプ氏はこの権限を連邦政府に委譲させた(つまり大統領である自分の思うような選挙にする)。最高裁はこれを憲法違反として認めなかった。この判断は常識的だが、トランプ氏には痛撃だ。

次はトランプ氏が第2期政権の看板として就任早々の昨年4月、諸外国からの輸入品に高額の「相互関税」を課したのは大統領権限を越える違法とした20日の判決である。最高裁は判事9人のうちの多数6人が保守派で、その半分の3人がトランプ政権1期目に指名を受けて任命されている。これまでトランプ氏の憲法および法律無視の大統領命令による米民主主義のルール無視を容認して、反トランプ勢力の不信を買ってきた。そのトランプ指名3人のうち2人と中間派に近いロバーツ判事(最高裁長官)が違法判断に回ったことによって、6対3の判決となった。 

激高したトランプ氏は「法の抜け穴」を探り、別の法律を使って新たな関税を発動するなど徹底抗戦に出ている。行きつく先はまだわからないが、いかにトランプ氏とはいえ、有効な対抗措置を持つとは思えない。

注目されるのは、判決主文を書いたロバーツ判事が重要な経済・政治にかかわる判断にあたって大統領は議会の同意を求められると指摘していることだ。これは民主主義の原則3権分立を無視して権力集中を進めてきたトランプ氏の独裁的強権行使そのものを、米民主主義を破壊するとしてこれ以上は容認できないと、最高裁が見直した宣言とみていいだろう。

「強権支配」から「個人崇拝」へ

最高裁判決はトランプ氏の「権力集中-強権・独裁」に警告を発したが、各種の世論調査の支持率はじり貧から抜け出せず、トランプ氏自ら世論調査は「でっち上げ」と怒りをぶつける状況でもある。ここから脱出したいという思いからだろう、トランプ氏およびその周辺からはトランプ氏の「個人崇拝」あるいは「カルト化」(宗教的な崇拝)を推進する動きがさらに強まっている。

トランプ氏は歴史を体現しているホワイトハウスを勝手に自分の好みの「トランプ・ホワイトハウス」への改築を進めたり、歴史と伝統を親しまれてきた公の博物館などから大嫌いな民主党大統領だったケネディ家の施設にまで、自分の名前を付け加えたり、自分の名に取り換えたりと、何のてらいもなく自己顕示欲丸出しの奇行を積み重ねてきた。最近ではワシントン周辺の鉄道中央駅、空港などに加えてミサイル、艦艇などの兵器まで呼称を「トランプ」に書き換えようと動き出している。

歴代大統領の銅像や名前を付した記念物、艦艇は少なくない。しかし、それらは引退後にその業績をたたえすえ長く敬意を表するために設けられたものだ。トランプ氏のケースは例外で、現役中なのに自分から求めたものがほとんど。そうなると周辺からのトランプ氏の点数稼ぎも加わる。これが人気上昇につながる効果があるのだろうか。逆効果かもしれない。

「盗まれた選挙」の証拠探し?

トランプ氏が中間選挙の実施権限を連邦政府に委譲したのは憲法違反と、最高裁に阻まれたケースも大きな痛手になっている。トランプ氏は権限移譲の理由として、腐敗した州(民主党が知事、州議会、州政府など支配している州のこと)には選挙を任せられないと主張、その例として2020年大統領選挙は自分が当選したが、バイデン民主党候補陣営の不正な投票・開票(コンピューター操作)によって大統領ポストを盗まれたとの主張を持ち出している。

トランプ陣営は開票後にすぐ、最高裁を含め全米各地の裁判所に「不正選挙」と訴えている。60件余りに及ぶこの訴訟は最高裁の一件を含めて全て証拠なしと却下され、トランプ政権の司法長官も不正はなかったと 捜査結果を公表しているので、法的には決着済みである。接戦州などでは共和党を動員して独自調査も行ったが、いまだに不正の証拠は全く示していない(入手できないからだろう)。

トランプ氏や周辺はそれでも不正があったと信じているのか、うそを承知の上で主張しているのか、言い出したことだからやめるわけにはいかないということなのか。それはわからない。しかし、トランプ氏は米国の歴史に残る大改革を成し遂げた偉大な大統領として名を残したい。このままでは、「無能大統領」と嘲笑し続けてきたバイデン氏に再選を阻まれたという敗者名が歴史に残される。それを消したいという執念なのだろうか。

トランプ氏は最近、司法当局および情報機関担当部門に指示して、2020年選挙で大接戦の末にバイデン候補に多数を奪われた南部ジョージア州フルトン郡の投開票記録の提出を求めている。そのほかの接戦となった州に対しても同様の投開票記録の提供を求めているが、いずれも拒否された。中間選挙を自分が好きなように実施することができれば、勝利のために、そして「盗まれた選挙」の証拠つくりの操作ができると考えたのだろう。

中間選挙―何が何でも勝つ

新しい大統領が2年目に直面する中間選挙は、「ご祝儀」期間は過ぎてまだ十分な実績もないーということからか、野党が議席を伸ばすのが通例になっている。2期目のこの1年余り、トランプ氏の「米国改造」の長期的評価はまだできないが、内政では主要省庁の再編・縮小・人員整理、大幅再編、経済では世界中を慌てさせ、国内でも関税戦争の関税分負担、食料品および外食費の高騰などインフレ、国際的な孤立や軍事力行使など自ら創り出した「敵」との戦いがもたらした混迷と波乱の連続などが国民を疲れさせ、中間選挙での苦戦予想につながっているとみていいだろう。

しかし、歴史に残る「大・大統領」を目指すトランプ氏は、中間選挙で傷を負うことは許されない。それは守りだけでは難しい。となると攻撃するしかない。それが選挙実施の権限を自分が握って、何があっても勝とうという戦略になった。これが最高裁に阻まれて、トランプ氏が今、自ら先頭に立っているのが有権者の選挙投票資格の厳格化と、民主党の投票率を高めているといわれる郵便投票の廃止。

米国では選挙に際して有権者は事前に投票登録をして、投票権をもらうことになっている。これにたいして出生証明、市民権、運転免許など写真付き証明書の提示を求める法改正を下院共和党が成立させた。上院では民主党が審議妨害(フィリバスター)を駆使して抵抗を続けている。この投票資格厳格化が実施されると民主党票が相当数投票不能になるとみられている。

トランプ氏はこの中間選で「絶対に負けない作戦」の責任者に、直接の担当部門であるボンディ司法長官あるいはパテルFBI長官などは信頼できないと、国家情報長官ハバード氏を据えたと報道されている。ハバード長官は情報の専門家でもないが、トランプ氏に対する忠誠心が厚く信頼されて長官ポストをもらったといわれる。この人事はトランプ氏がそれだけ追い込まれていることと、中間選挙は「何が何でも勝つ」ためにはあらゆる手段をとることを示唆している(ニューヨーク・タイムズ紙など米報道から)。

中間選挙、「国会乱入」第2幕も

中間選挙には大統領選挙はないが、トランプ与党の共和党が多数を保持している上下両院のひとつでも民主党に多数を奪われると、トランプ氏および共和党が目指す法案は成立が阻まれ、トランプ政権2期目の残りの2年間はほとんどマヒに陥る。

2020年大統領選挙で敗北したトランプ氏は証拠抜きに「不正選挙」と主張、憲法で選挙結果を最終的に認証する上下両院合同会議に圧力をかけて「トランプ当選」の決議にすり替えようと武装グループも含む支持勢力に国会デモを呼びかけた。結果的には両院合同会議が選挙結果通りに「バイデン当選」を決議、トランプ氏の選挙結果転覆の陰謀は失敗した。この事件では一部の国家転覆未遂を含め国会乱入デモの1600人が逮捕、訴追された。

中間選挙で上院か下院、あるいは両院でトランプ共和党が敗れたら、どんな事態が起こるだろうか。米メディアの報道を見ている限り、トランプ氏は中間選挙で敗北しても受け入れず、あらゆる手段を講じて選挙結果をひっくり返そうとするとの見方が一般的だ。記者団がそのためにトランプ氏は何をするのか、「無許可移民」の逮捕・国外追放」を担当し、その苛烈な実力行使で市民を恐怖に陥れている移民・関税捜査局(ICE)部隊を出動させることもあるのかと質問、ホワイトハウスのスポークスマンは答えなかったという。

「無許可移民」が多数居住しているのは、首長(知事・市長)、州議会を民主党が抑えている州や大都市が多い。トランプ氏はこれらの地域は犯罪が多いという口実をつくって、ICEとともに州兵(戦時には予備軍となる)を派遣して市民の抗議行動を押さえつけた。州兵は通常時には州知事の指揮下にあるが、緊急時に大統領が指揮権を持つことが許される。これらの州や大都市は、中間選挙でも勝敗につながる重要州になる可能性が高い。トランプ氏が「無許可移民狩り」に州兵まで動員したのは、中間選挙で起こり得る事態を想定した予行演習だったとの見方ができる。

(注;ICEはトランプ氏が第1期政権からひそかに組織造りを始めたとされる「無許可移民狩り」部隊。海外の対テロ作戦に従事した元米兵も多数加わっていて、覆面・重装備の苛烈な摘発・逮捕・追放作戦で一般市民の間にも恐怖感が広がるなか、ミネソタ州ではいわれなき銃撃で2人の市民が殺害されている)

民主党も州兵動員へ

トランプ氏が民主党の抗議行動に対する「治安出動」に州兵を使う背景には、黒人青年が白人警察官の過剰な逮捕行動で殺害されて全米に広がった「黒人の命も重要」を掲げるデモに対して、当時1期目のトランプ大統領が米軍部隊に出動を命じたところ、軍首脳部が米軍は憲法に忠節を誓っているが、大統領の政治的要請に従うことはできないと応じてもらえなかった体験がある。

トランプ氏は2期目就任の直後、米軍首脳部の将軍と提督300人を解職、自分を支持するとみられるグループを抜擢して入れ替えた。そのうえでさらに州兵を随時、自分の目的に沿って使う実績をつくってきたとみられる。

中間選挙がどんな展開になるのか、予測はできない。しかし、民主党も手をこまねいているとは思えない。最高裁判決によって中間選挙の実施権限は各州の権限のままになった。民主党知事の州では中間選挙を正常に実施するための治安維持という大義のもとに、トランプ氏の先手を取って州兵の出動を命令する優先的な権限を知事が持っているからだ。

「精神分裂症」と共和党支持有力コラムニスト

リベラル民主主義時代のモデルだった米国で、その土台である自由選挙がまともに実施できるかどうかという現実。トランプ氏はその一方で、デンマーク自治領グリーンランドを米国が領有する、反対しても高関税を発動し、軍事力を使ってでも実現する―こう一方的に言い出して、世界を慌てさせていた。これは西欧諸国の強硬な非難を浴びて撤退に追い込まれた。しかし第2次大戦後80年余の歴史を持つNATO(北大西洋条約機構)の同盟諸国との間に、修復困難と思われるほど深い溝を残してしまった。

トランプ氏のこの「狂気」はトランプ批判を避けていた共和党穏健保守主義を代表する著名評論家Ⅾ・ブルックス氏をトランプ批判に踏み切らせた。ブルックス氏は「トランプ氏の精神分裂症」(いわゆる高齢化による認知症を指していると思われる)という主見出しに「世界の出来事が一人の男の傷ついた精神によって引き回されている」との脇見出しを添えた長文の論考を寄稿した。以下にその要点を引用させてもらった(2026・1・24/25付国際版から)。

自己陶酔型大統領

▽われわれは今、以下の4つの「分解現象」に直面している。①第2次世界大戦後の国際秩序、②「不法移民」国外追放にあたる移民・税関捜査局(ICE)捜査官の過剰な実力行使による米国内の平穏、③トランプ氏の介入による米連邦準備制度理事会(FRB)の独立性、④トランプ大統領の精神分裂。このうち最優先の課題は④のトランプ氏の精神分裂。

▽自分が知る歴代大統領の中で、自己陶酔型の大統領は任期が進んで高齢化するにつれて自制力が弱まり、高慢になり、名誉を欲しがり、感情を失ってちょっとしたことに過剰反応するようになる。

▽トランプ氏の場合もベネズエラ、イラン、ナイジェリア、ソマリアと軍事力行使の間隔がどんどん短くなり、爆撃の回数は622回、死者の数も増えてきた。国内のミネアポリスの(ICE実力行使によって市民2人殺害)もその一つ。

専制政治がたどる道

ブルックス氏の寄稿は2段、200行を超えていて、初めの3分の1でありのままにトランプ氏を厳しく批判。残り3分の2ではギリシャ、ローマの歴史を例にとって専制政治は自らの権力におぼれて孤立し、腐敗の道をたどると警告するとともに「米建国の祖」と呼ばれる独立戦争のリーダーたちが築いた「米国の理念」、さらに第2次世界大戦から冷戦を経て現在に至る米国の歩みをたどっている。

トランプ氏およびトランプ支持層に対する警告と歴史教育とともに、米世論に広く訴えなければならないという、党派を超えた現状への危機感がうかがえる。

西欧極右諸党から絶縁状

トランプ氏は思わぬ痛手も負った。フランス、英国、オランダ、ドイツ、イタリアなどの西欧諸国では極右政党がじわじわと議会浸透してきた。しかし、政権をにぎったのはイタリアだけ。超大国の政権に就いたトランプ氏らは西欧諸国の極右政党に対して指導者の立場をとっていた。

しかし、ドイツの選択(AID・ドイツは)、リフォームUK(英国)、国民連合(フランス)など西欧諸国の極右政党は、トランプ氏のベネズエラに対する国際法無視の軍事攻撃・侵攻および力ずくのグリンーンランド領有要求に対しては反対してきた。トランプ氏がグリーンランド領有は断念したものの、西欧極右政党はそれぞれトランプ氏がやってきたことは自分たちの保守・右翼主義とは全く関係ないとの声明を明かにした(ニューヨーク・タイムズ国際版2026・1・28付)。

トランプ氏に対する国際的な批判の高まりで、極右とされる自分たちが同じに扱われることを避けるための絶縁声明と言えるだろう。トランプ政権はトランプ主義グループが共和党保守派をとり込んで乗っ取ったトランプ共和党政権で、西欧の極右政党と同じ扱いはできないが、広い意味で見れば、この絶縁声明は国際的な右傾化が進んでいる西欧でも、トランプ政権の孤立が進んでいることを鮮明にしている。(2月23日記)

かねこ・あつお

東京大学文学部卒。共同通信サイゴン支局長、ワシントン支局長、国際局長、常務理事歴任。大阪国際大学教授・学長を務める。専攻は米国外交、国際関係論、メディア論。著書に『国際報道最前線』(リベルタ出版)、『世界を不幸にする原爆カード』(明石書店)、『核と反核の70年―恐怖と幻影のゲームの終焉』(リベルタ出版、2015.8)など。現在、カンボジア教育支援基金会長。

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