編集委員会から
編集後記(第20号・2019年夏号)
―――希望なき格差と貧困・混迷を切開く知性の復権を
◆本号特集のタイトルは、多くの人の重大関心事である「米中覇権戦争の行方」とした。論者として水野和夫さんはうってつけ。資本主義や世界経済を歴史的・長期的視野でみる慧眼はすごい。水野さんは、「アメリカの経済力からしてももはや一国で世界帝国を張るのは無理」「アメリカ軸と中国軸、この二大ブロックの体制が、双方の決着がつくまでの2000年代半ばまで続くことになると思う」と語る。またこの間本誌に「米中の貿易摩擦」などを寄稿頂いている平川均さんは、世界の困り者トランプが仕掛ける米中の貿易・経済摩擦、戦争を丁寧にフォローし、やはり「新たな冷戦への道を突き進んでいるのか」と分析・指摘。その狭間で日本の生きる道はどこにあるのか、と小林良暢さん。
それにしても1972年2月の電撃的な米・ニクソンの訪中。9月の田中角栄訪中による国交回復。以降、米国を先頭に西欧諸国による土砂降り的中国への工場進出。中国の安価な労働力(労働者)を食い物にして、膨大な利益をもたらす。わずか30年の出来事だ。結果、米国の製造業は廃れ、先の大統領選挙で話題となった錆びたベルト地帯の出現だ。一方で、アメリカの富は数%の富裕層に集中し、格差社会の極限的拡大が進行。自国・自分第一を掲げ、世界の人々の苦しみなどお構い無し、眼中にあるのは大統領再選のみ。そのトランプの強固な40%の支持層、アメリカの民度も問われている。毎号執筆をお願いしている金子敦郎さんは、トランプの支持層は広がらず再選に暗雲。そのため一層、白人中心のヘイト意識を煽り移民制限策の強硬を危惧する。
◆参院選その結果と展望。“勝者無き選挙”とも言われるがアベが生き残ったのは、やはり深刻である。野党第一党の立憲民主の賞味期限が切れかかっているのか。野党共闘は出遅れたが、一人区で低投票率下、殆んど接戦を競り勝ち10勝したのは今後の教訓として大きい。今後参院選の総括、また早ければ年末かともいわれる総選挙への対処が大きな焦点になる。本誌の「キーマンに聞く」企画で、立憲の石橋通宏幹事長代理(参院)に「立憲民主党は参院選を敗北との視点から総括できるか」と問い、立憲には山本太郎的な魅力が弱いのではと、本誌の住沢代表。石橋さんは、参院選、自民党に対抗する総合的政策、野党共闘のあり方・展望。またアベ自民によって仕掛けられるであろう憲法論議にどう対処するか、大いに語ってもらった。憲法問題は、選挙中の世論調査で押しなべて、日本政治での優先度は数%程度。それでもアベは信託を受けたと強弁。権力を握る強みから、またそれ以外に強調できる政策がないから憲法を叫ぶとの指摘もある。アベノミクスも色落ち、語る人すらいない。外交のアベを喧伝してきたが、膨大な税金を使って外遊の回数を増やしただけではと酷評されている。北方領土も拉致問題も全く進展なしでは当然だろう。あ、トランプのポチとしては他国の指導者より群を抜いている。
◆選挙中のアベの態度は顰蹙(ひんしゅく)をかった。例の演説場所を知らせない、動員された自民党支持者と警官に守られたステルス行動。得意の問題のすり替えとレベルの低い野党批判。例の“悪夢の民主党政権と民主党の枝野さん”の連呼。選挙違反を指摘されても繰り返す。まあ一国の総理のやることではないが、それが実体のお粗末総理。また日韓の大問題に発展している韓国叩きも、参院選挙目当てがあったのではないか。排外主義をあおり、日本人(民衆)に根強くある韓国・朝鮮への潜在的差別意識を煽る選挙目当て。麻生なら、”先の衆院選は北朝鮮のおかげ、今回は韓国のお陰”とほざきたいのではないか。
それにしてもアベ支持の実体は、共同通信の世論調査では、自民党支持層でも、「ほかに適当な人がいない」の消極的支持が40%とダントツのトップ(他社も同傾向)。これがアベ支持の実体。そのアベさんの知性と教養の無さは知る人ぞ知る。ちょっと気の毒だが漢字が読めない。17年1月の参院本会議の答弁で“云々(うんぬん)”を“でんでん”、また18年9月の国連総会で“背後(はいご)”を“せご”と読み間違う。さらに極め尽きは、自ら演出した令和騒動の渦中で、4月30日の退位礼生殿の儀式で歴史に残る大失態を演じた。天皇に対し国民代表として、「天皇、皇后両陛下には末永くお健やかであらせられますことを願っていません」と、やってしまったのだ。これは「已む」(やむ)の字を読めず「やみません」を「いません」と読んでしまったのだ。戦前なら間違いなく「不敬罪」。その安倍晋三さんが今年11月には明治以来の歴代総理の在任期間トップとなる。いやはやである。
◆日本に大きな影響を与えた西欧の自由と民主主義の理念や政治。そのヨーロッパでは、統一通貨ユーロを持ち地域統合体として機能してきたEUであるが、イギリスの離脱問題に象徴される揺らぎも見られる。また移民問題で右翼ポピュリズムや排外主義の台頭も気がかりな点。本誌では「21世紀の西欧デモクラシーの命運」と題して連載企画を本号より開始。乞うご期待です。第一回目は、今井貴子×サーラ・スヴェン×住沢博紀さんが「イギリス労働党とドイツ社民党」をとりあげ論じます。寄稿願っている福澤啓臣さんがドイツ緑の党の躍進や若者の奮起をベルリンから報告です。また本誌の橘川俊忠さんは、参院選に端的にみられる昨今の世相を、問題はどこにあるのかと問い、民主主義の危機的な現実と捉え、「混迷を切り開く知性の復権こそが急務」と問題提起です。諸分野の劣化が語られ、日本は底が抜けたのとの指摘も。そして一層深刻化する格差と希望なき貧困層の増大。老若を問わず人として生きていけない時代なのか。読者とともに考えて行きたい。
本号発信日の8月15日は敗戦記念日。1937年の日中戦争への盧溝橋事件時、政府・メディアは 暴支庸懲 (横暴な中国を懲らしめる)と喧伝。民衆が熱烈支持したのは歴史的真実。朝日の「天声人語」は▶あの国が悪い。だから懲らしめる。政府やメディアが敵対心をあおり、その敵対心が戦争の燃料になる。日中戦争、そして太平洋戦争で経験したことである。そんな振るまいは完全に過去のものになったと、胸を張って言えるだろうか(8月15日朝刊)◀と問う。今の日本、いつか来た道と思えてならない。
本号で2004年10月に第3次・季刊『現代の理論』として出発して50号を迎えます(2014年5月よりデジタル版として20号)。日頃のご支援に編集委員会一同心より感謝申し上げます。今後とも微力ながらの決意です。(矢代俊三)
季刊『現代の理論』[vol.20]2019夏号
(デジタル20号―通刊50号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)
2019年8月15日発行
編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会
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