特集●米中覇権戦争の行方
立憲民主党は参議院選挙を「敗北」という視点から総括できるか
[連載 第五回] キーパーソンに聞く 石橋 通宏さん
語る人 立憲民主党参議院議員・党幹事長代理 石橋 通宏
聞き手 本誌代表編集委員 住沢 博紀
幹事長代理の職務について
住沢石橋さんは、かつて旧全電通(現NTT労働組合)の職員で、旧ICFTU(国際自由労連=現ITUC)のシンガポール事務所で国際労働運動に携わり、2001年からはILOの専門家として、ヨーロッパとアジアのILO事務所で仕事をされた経験も含めて、通算で10年以上の海外勤務の経験をお持ちです。2010年の参議院選挙(比例全国区)で、情報労連・NTT労組の組織内候補として民主党から出馬され、現在は2期目となります。国会では数少ない、国際的な労使関係などの知識をもつ専門家として、労働法制などの分野でも活躍されています。現在、立憲民主党の幹事長代理という職責にあるわけですが、党組織の中ではどういう役割を担っているでしょうか。
石橋現在は、幹事長代理として福山幹事長をサポートする立場で、幹事長部局の役員会構成メンバーであり、党の常任幹事会の陪席メンバーです。加えて、党の厚生労働部会長を拝命しているので、政策決定の要である政調審議会の構成メンバーでもあります。就任以来のこの1年間の活動の比重から言えば、厚生労働部会長としての活動の方が大きかったかも知れません。本当は、もっと幹事長部局としての活動に時間をかけなければならなかったのですが、そこは自分自身の反省材料です。
住沢前回の小川敏夫さんのインタビューでは、現在の立憲民主党の執行部では、少数メンバーによる寡頭政の傾向があるといっておられました。枝野代表を中心に、長妻さん、辻元さん、そして参議院からは福山さん、蓮舫さんなどですが、その点についてはどのような認識をお持ちですか?
石橋私も小川敏夫議員も、昨年5月の連休明けに旧民進党から立憲民主党に合流したメンバーの一人です。それまでの立憲民主党は、まだ議員数も少なくて、2017年10月の結党メンバーが中心となって組織運営をしてきたんですね。その流れで、今も引き続き、執行役員会が中心となっている部分があるのは事実だと思います。
住沢前選対委員長であった近藤さんも結党メンバーだと思いますが、政治資金報告の問題で一度役職を退かれた後、こうしたコア・グループから離れたままでいるのは、なぜでしょうか。
石橋当時、ご本人の希望もあって、いったん、選対委員長からは退かれたのだと理解しています。しかし、すでに党の重要なポジションに戻っておられますので、これからまたしかるべき立場で活躍いただけるものと期待しています。
住沢幹事長代理として福山幹事長をサポートする立場だとおっしゃいましたが、実際、幹事長部局としての活動はどうですか。
石橋我が党の場合、先ほど申し上げたような経緯もあって、福山幹事長が大変多くの職責を担ってくれています。だからこそ、本来は、幹事長個人に過度の負担がかからないよう、もっと幹事長部局としての活動を強化しなければならなかったところです。その意味で、この一年の幹事長代理としての活動について反省はあります。
住沢福山幹事長はその点、どう考えておられるんでしょうね。
石橋これも先ほど触れた通り、立憲民主党は結党以来、衆議院では野党第一党の立場にありましたが、政党としては若く、小さな組織で、本部事務局の体制も弱く、そのため多くの課題について幹事長がスピーディに判断・決断することが求められてきたのだと思います。しかし今、衆議院でも参議院でも野党第1党となり、議員数も拡大しましたので、党としての組織体制や運営の仕組みを強化していかなければならないという認識は同じだと思います。
参議院選挙結果を敗北の視点で総括すること
住沢7月21日に参議院選挙が行われ、今日は7月26日ですので、もう党としてのある程度の分析や総括が行われているかもしれませんが、今回の選挙結果の評価は難しいのではと思います。年金2000万円不足の件は争点になりませんでしたし、立憲民主が躍進したという新聞論調もありません。また日経新聞も含めて、改憲勢力が3分2を割ったという見出しが多くみられましたが、差は4議席ですので決定打ではありません。
議席数では、立憲民主党は9から17議席に躍進し、一人区でも野党は32選挙区中10選挙区で勝利し善戦しました。しかし比例区では、自民17,711,862票、立憲民主党7,917,719票、国民民主3,481,053票です。私は、これを前回の2016年参院選ではなく、2017年10月の衆議院選挙と比較することが大事であると思います。自民が18,555,717票で100万近く減らしていますが、立憲民主党は11,084,890票でしたから、300万近く減っています。
投票率は、2017年衆議院選が58.63%、今回が24年ぶりに50%を割り込み、48.80%ですので、10%の減少を考慮しても自民党よりも大幅に票を減らしています。さらに問題なのは、国民民主が3,481,053票で、維新、共産党の後の第6党ということで、今後の存在自体が難しいとも思われます。
石橋党としての総括はまだこれからです。参院選後の最初の常任幹事会で、枝野代表からちゃんとした総括の場を持って丁寧にやっていこうという話がありましたし、すでに両院議員懇談会を開催して最初の全体総括を行っています。
私も常任幹事会の場で、今回、47都道府県のそれぞれで、党所属自治体議員や地方組織の皆さんが大変難しい環境の中で選挙戦を戦っていただき、野党協力についてもうまく機能したところとそうでないところもあったわけで、やはり地方組織の皆さんや立憲パートナーズの皆さんにも参加・参画していただく形でしっかりとした総括を行い、次の衆議院選挙を見据えた整理を行っていく必要があると発言しました。
正直なところ、立憲民主党は地方組織がまだまだ脆弱です。参議院選挙までにすべての都道府県で県連組織を立ち上げることをめざしていましたが、富山、石川、佐賀ではまだ県連が立ち上がっていません。広島や岩手では野党統一候補が勝利を得ることができ、立憲民主党の県連の皆さんにも本当に頑張っていただきましたが、党組織が正式に立ち上がったのは選挙直前の6月末だったという状況でした。
先ほど、立憲民主党は2017年衆議院選挙に比べて300万近く票を減らしたという指摘がありました。あの時とは状況が違うという意見もあるかも知れませんが、個人的には、私も率直にいって敗北と言っても過言ではない結果だったと思っています。今回、どの党も外向きには「勝利した」といっていますし、一方では「勝者なき選挙」だったという論評もあるようです。
実際、自民党は議席を減らし、3分の2の「改憲勢力」も、自民党単独過半数も維持できませんでしたが、勝利といっています。国民民主党も、一人区の無所属議員を含めれば改選議席より増やしたといっていますが、党の公認候補では議席を減らしています。現実問題として、2017年の衆議院選挙で、立憲民主党と希望の党で2100万票近くを獲得し、自民党を凌駕したわけですが、今回は立憲民主党と国民民主党の合計で、ほぼ半滅しているのが現実です。
32ある1人区でも、10勝できたことは野党の候補者調整の一定の成果だったと思いますが、3年前の11勝には及びませんでしたし、与党の安定多数を阻止できませんでした。それほど厳しい結果だったと率直に認めるべきだと、私は思います。枝野代表も、内部できちんとした総括が必要だといっていますので、厳しい結果であったことは自覚しておられるのだと思います。比例区でなぜこれほどまでに票を減らしたのか、選挙区でもなぜ有力な候補を勝たせることが出来なかったのか、それを真摯に考えて総括することこそが、次のステップにつながっていくのだと思います。
住沢一つ質問したいのは、こうした結果が唐突ではなく、1年半ほど前からの世論調査でもある程度、傾向として予測できたことだと思います。また4月の統一地方選挙結果も必ずしも望ましいものではありませんでした。こうした状況に対して、立憲民主党はどのように立ち向かおうとしたのですか。
石橋個人的には、先ほど申し上げた、地方組織の立ち上げが遅れたことなどによって、地域での草の根の活動が十分に行えなかったことは大きいと思っています。4月の統一地方選挙にはできるだけの候補者を擁立して、一定の議員増を勝ち取ることが出来ましたが、残念ながら地域差が大きく、特に地方では十分な候補者擁立が出来ませんでした。やはり、地方組織の活動や市民参加の推進がまだまだ十分でなく、草の根の支持が拡大していかなかったことが課題だったのではないかと思っています。
枝野代表が、2017年10月の衆議院選挙に際して、たった一人で党を立ち上げ、多くの市民の手で押し上げてもらったわけで、だからこそ草の根からできた政党なんだ、というのが私たち立憲民主党の共通認識です。そうであれば、今回の結果というのは、まさにその私たちが依って立つべき草の根からの政治が十分に行き渡らなかった結果だと考えるべきで、衆議院選挙のときにいただいた有権者のご期待に、まだまだ応えられていないのだと考えるべきです。
加えて、この間の国会での戦い方についても、あらためて振り返って見ることが必要なのだと思います。予算委員会が3カ月も開かれなかったことに対して、私たちは手続きにのっとって開催を求め、最終盤には内閣不信任案も提出して闘いました。しかし、有権者にその戦い方がどのように評価されたのでしょうか。安倍政権を倒す本気度がより伝わるような、国民と熱気をより共有できるような戦い方ができたのではないか、議論すべきだと思います。
事実、党全体で、こうした政党としての活動について、真摯に議論する機会が少なかったように思います。特に地方議員の皆さんとの対話の機会はもっとあっていいはずです。一部の地方からは、立憲民主のポスターもあまり見ない、市民の草の根からといってもあまり参加の機会がない、何をしていいかもわからないという声も聞こえてきます。立憲パートナーズに加わってもほとんど連絡も来ないとなれば、私たちの思いも市民に届かないし、期待に応え切れていないということになります。この点は、先ほど触れた通り、党としての組織体制の強化が不可欠です。
住沢立憲民主党ができたおりに、二つのことに注目しました。一つ目は、市民の下からの草の根運動に依拠する政党であり、市民サポーターや地域の市民センターなどの活動と協働していくという執行部の方針。山口二郎さんも参議院選挙に向け、こうした市民連合という形で野党統一候補を擁立すると頑張っておられた。もう一つは、地域活動を作動させるために、統一地方選挙に力を入れ、自治体議員のネットワークを軸として地域組織を強化してゆくという組織方針。前者は民主党時代にもいわれたことですが、実態は有力国会議員連合・連合傘下の産別労組が支援する組織でした。
立憲民主はその成立過程が民主党とは異なるので注目していましたが、市民の支援組織はいくつかのホームページをみてもほとんど動いていませんでした。また統一地方選挙でも、個々の女性議員の当選が報道されても、全体として「躍進」には至らなかった、という理解でいいでしょうか。
石橋ご存知のように、民主党~民進党の継承政党は国民民主党ですから、多くの貴重な人材や資金は国民民主党に引き継がれています。そもそも立憲民主党は、枝野代表が1人でなにもないところから立ち上げた政党ですから、党本部もない、スタッフもいない、資金もない、地方組織もないという、本当にゼロのところから始めなければなりませんでした。
昨年5月に私たち参議院議員が立憲民主党に移ったときにも、それぞれの議員が個人の判断で民進党を離党し、立憲民主党に加わったという形をとったので、いわば裸同然で移ったわけです。選挙区選出議員の皆さんは、活動資金を工面することも含めて、相当に苦労したはずですし、国会での党運営も、議員の秘書の皆さんがさまざまな活動を分担してようやく運営しているという状態でした。
先ほど触れた通り、統一地方選挙では多くの地方議員の皆さんが立憲民主党に参加して戦ってくれましたし、多くの新人候補も立ってくれました。資金も地方組織もない中、本当に「孤軍奮闘」で頑張って、多数が勝ち上がってくれたことは本当にありがたいことでした。しかし、候補者を十分に擁立できなかったことを含め、統一地方選挙で地域組織の形成と地方議員のネットワークづくりを大きく前進させようという目標にはまだまだ届かなかったと思います。私もあらためて、民主党時代から培ってきたリソース、政治資源というのは大きいものだったのだと痛感させられました。そしてそのまま、7月の参議院選挙に突入せざるを得なかったわけです。
住沢小川敏夫参議院議員に春にインタビユーした折りには、統一地方選、参議院選によって、議員数からも先ず党としての基盤をつくり、そこから次の段階が始まるといっておりましたが、今回の二つの選挙結果は、そうした基盤づくりには不十分であったということでしょうか。
石橋多くの皆さんの努力のおかげで、一定の党勢拡大は図ることができたけれども、期待された結果を得ることは残念ながら叶わなかったということだと思いますし、重ねて、その総括を真摯に行って、次につなげることが必要だと思っています。
立憲民主と国民民主に分かれた連合との関係
住沢今労働組合の問題が出てきましたので、連合との関係のありかたに質問を移します。立憲民主は自治労、日教組、JP労組、情報労連、私鉄総連と5人が全員当選、これに対して、国民民主は、ゼンセン、自動車、電力総連と3人が当選し、電機連合とJAM(+基幹労連)の候補は落選しました。JAMは旧総評系と同盟系の産別が合併しており、また電機連合は両者をつなぐ、あるいは媒介する役割を担ってきました。したがってこの二つの産別組織の候補者が落選したということが象徴的で、やはり立憲民主と国民民主は一緒にやってほしいという声が、労組だけではなく、いろいろなところから出てくると思います。この点で石橋さん個人の見解はいかがですか。
石橋私は、昨年の5月に立憲民主党に移るその時まで、旧民進党参議院の中で一貫して、分裂すべきではないという立場をとって発言していました。2017年衆議院選挙で立憲民主党が躍進した時、私の支援者の中にもすぐにでも合流すべきだと進言してくれる人もいましたし、逆に当時の参議院議員の中には、すぐに解党して希望の党に合流するか、新党を立ち上げるべきだという人もいました。
しかし私はいずれにも反対で、せめて参議院民進党だけでも存続させ、3つの会派に分かれてしまった衆議院の仲間たちの再結集の触媒になるべきだと主張しました。参議院も分かれて完全に別々の政党になってしまえば、お互いに党勢拡大をめざして戦うことになります。別々の政党として選挙に臨めば、お互いが敵になるのです。そうなれば一緒になることはますます難しくなってしまうと考えたからです。
しかし結局、昨年の3月から4月あたりに、当時の執行部から民進党を解党して新党を立ち上げる、という方針が打ち出されました。1年後に迫った統一自治体選挙や参議院選挙を見据えると、民進党のままでは戦えないという党内の意見に押されたからでしょう。
連合内でも、さまざまな議論があったのではないかと思いますが、最終的には、連合の組織内議員にはまとまって新党へ移って欲しいというお考えだったのではないかと思います。私は最後まで、せめて通常国会の間は民進党で戦いを続けるべきだと考え、ギリギリまでその道を模索しましたが、結局、残ってそのまま国民民主党へいくか離党して立憲民主党に加わるかの判断を迫られることになり、立憲民主党に合流する判断をしたわけです。
その際、今回、比例区で候補者を擁立した産別でもそれぞれにおいて組織的な議論があったのではないかと思いますし、難しい決断をされた産別もあったのではないでしょうか。連合としても、今回の選挙結果を受けて総括をされるのだと思いますので、それを待ちたいと思いますが、いずれにせよ、私は今でも、かつて民主党~民進党で同じ道を歩んできた仲間が、再び同じ目標に向かって一緒に道を歩んでいける流れを創っていくべきだと考えています。分断が長引けば長引くほど、手を携えるのは難しくなることを心配するのです。
住沢そうであれば、立憲民主と国民民主の政党レベルで再編の議論を進めるのか、統一会派などに限定するのか、さらには連合内での議論がどの程度、影響するのかなど、石橋さんはどのようにお考えですか。私はこの問題は、立憲民主党からの位置づけが本筋だと思うのですが。どちらにしても数合わせの再編では国民の納得も承認も得られないので、大義名分なり大きな戦略や構想を提示する必要があると思いますが、この点でいかがですか。
石橋立憲民主党は、これまで「永田町の論理には与さない」「政党間の数合わせはやらない」という方針で党運営にも国会対策にもあたってきましたし、その方針をもって春の統一地方選挙、7月の参議院選挙にも臨みました。結党の経緯から言っても、その方針には一定の理解と支持が得られたのではないかと思います。
しかし、先ほど来、申し上げてきたように、統一選も参院選も、当初期待されたレベルでの結果を出すことが出来ませんでした。だからこそ、真摯にその理由を分析し、総括する必要があると思うわけですし、その結果を踏まえれば、やはり国会の中でも外でも、ただでさえ力が小さくなっている野党がバラバラに戦っていては安倍総理を利するだけだ、だから力を合わせて戦うべきだ、という大義につながるのではないかと考えています。
私自身、統一地方選挙の時も、参議院選挙の時も、全国各地へ応援に回ったわけですが、やはり、バラバラでは戦えない、なぜ仲間が別々に分かれているのかなど、意見をいただきました。特に地方では、そのように考えている皆さんが連合の中でも多いのではないでしょうか。立憲民主党としても、地方の方々の声、そして何より野党に期待をかけて下さっている支援者の皆さんの声に真摯に耳を傾けることが必要だと思います。
住沢政党の大義名分や正当性が問われる場合、政策の理念や内容よりは、決定に至るプロセスに正当性があるかどうかがしばしば問題とされます。そうであればヨーロッパの政党で一般的であるように、下からの、民主主義のルールにしたがって議論を深め、地域組織のレベルから全国組織までの各種大会決議の積み重ねによって、党の重要な方針を決定するなり、方針転換を決議するなりすれば、それこそ大義名分となるのではないですか。
石橋おっしゃる通りで、それこそ立憲民主党が結党の時からめざした政党のありかた、つまり草の根からの民主主義ですよね。その基盤がまだまだできていないことが、何度もいうように課題なわけで、今回の二つの選挙の総括を通して、まだ地方組織は脆弱ではあるけれども、ボトムアップ型の政策や議論の重要性をあらためて党全体で確認して、もっと地方自治体議員の皆さんに党運営や政策立案、そして党活動の実践に参加・参画してもらって、体制強化を図っていけば、国民民主党も含めた野党連携・協力のあり方も次のステージが見えてくるはずです。そしてそれが、次の衆議院選挙に直接つながっています。
立憲民主に欠ける、山本太郎的な魅力
住沢そうすると、執行部が今回の参議院選挙を敗北として真摯にとらえ、地方からの意見を聞くということが第一歩となるわけですね。ところで立憲民主党の再度の躍進を考える場合、228万票を獲得した山本太郎の「れいわ新選組」が参考になるかと思います。選挙後の様々な新聞・雑誌での政治学者やメディアの人々の論調には、左右を問わず一つの共通点があります。極端な安倍政権信奉者や御用メディアは別にして、やはり安倍一強では日本は危ないし、政権に対抗できる野党が欲しいと。
しかし野党第1党の立憲民主党は、枝野代表自体にそうした個人的な魅力は乏しく、ここは「左翼ポピュリスト」としてそのキャラクターを評価された山本太郎と組めばいいのではないか、という論調です。これは政党連携とか再編とかの話ではなく、シンボル的な意味で、やはり政治には人々を魅了するリーダーとしてのキャラクターが必要とされ、枝野代表にはそれが十分ではなく、山本太郎のようなプラスαの資質が必要なのではないかということです。
私も枝野さんが2時間近く、論理整合性のある大演説を行う能力を持っていることは高く評価します。ただ立憲民主党の立ちあげの瞬間を除いて、彼の話は国民の多くの人の心に十分届いてはいないと思います。
「れいわ新選組」は、脱原発、安倍政権下の特定秘密保護法などの「悪法」の見直しなど、立憲民主党と共通点を持つ一方で、消費税の廃止、奨学金チャラ、最低賃金1500円、さらには新規国債の増発などの欧米の左派が提唱するMMT(現代貨幣理論)による反緊縮財政など、立憲民主党が現実性のある政策として容認できないものも含んでいます。石橋さんは、「れいわ新選組」と山本太郎の「衝撃」をどのように感じていますか。また立憲民主党としてはどうですか。
石橋党としての具体的な対応はまだこれから協議する段階ですが、参議院でも安倍政治と対峙する野党勢力が力を合わせて戦っていく必要があるわけですし、「れいわ新選組」はまさに安倍政権に批判的な多くの有権者の支持を得られたわけですから、当然、連携・協力は視野に入れて相談していくことになるのではないでしょうか。
個人的には、この6年間、参議院議員としての山本太郎さんとは議員連盟の活動などで一緒に仕事をした機会もあり、政策的な問題意識には共有する部分が多いですし、あの行動力やプレゼン能力はやっぱり凄いと思います。ただ今後のことは、すでにメディアに対して消費税を5%に引き下げることが最低条件だ、という話をされたとの報道もあり、具体的にどういう形での連携・協力になるのかはすべてこれからの話だと思っています。
住沢「れいわ新選組」に関連して、次の二つの課題について質問したいと思います。
一つは安倍政権の憲法改正の動きです。維新の会を改憲派に含めると、3分の2の多数を獲得するためには4議席必要です。政治の世界では、その時代の最大の課題設定(アジェンダ設定)をしたものが、リーダシップを握れます。小泉首相の郵政民営化がそうであり、民主党政権の無駄遣いをなくそうとか、事業仕分けなど、あるいはかつての橋下維新の会の大阪都構想などがその例です。
残念ながら人々が必要としている本当の政治・政策課題よりは、こうした仕掛けのほうがしばしば成功しています。そして安倍政権は憲法改正しか存在意義がないのですから、国民民主や野党議員に対して首を突っ込んでくると思います。
憲法改正は国民の望む政治課題ではないと、もっとも効果的に発言できるのは与党・公明党です。しかし先日、橋下徹があるテレビ番組で、公明党はよくも悪くも民主主義の党で、その時代の世論の流れについてくるから、改憲派は心配しなくてもいいという旨の発言をしていました。しかし公明党は無理でも、創価学会の地域組織などに対して、山本太郎がやったようなパワーのあるスタイルで、野党の側からここにくさびを打ち込むことは不可能でしょうか。
もう一つは、奨学金チャラの話です。大学進学率が先進諸国では70%に達する時代では、学費負債は、退職世代にとっての年金問題と同様、若者世代の大きな関心事です。サンダースなど欧米の左派が若者世代に支持される理由の一つに給付型奨学金の充実があります。「れいわ新選組」も若者世代に食い込みました。20代~30代の有権者は自民党支持者のほうが多く、若者世代が保守化しているといわれる中で、これは注目すべき成果です。
私は、立憲民主が「奨学金徳政令」に加担せよと言っているのではなく、若者に将来への夢を与える、突出した経済・産業転換政策が必要ではないかといっているのです。議論すべきは、若者がSNSで拡散したくなるような、魅力ある、インパクトある経済政策の提起、アベノミクスが空文句で終わっている第3の矢の問題です。
水野和夫さんは、日本の石油・ガスなどの燃料輸入が約20兆円、これをトヨタなどの自動車輸出でかろうじて貿易収支が均衡を保っているが、それも長くは続かない。したがって再生エネルギーへの集中投資により、この化石燃料輸入をゼロにできれば、日本も何とか破綻しなくても済むといっています。1000兆円を超える財政赤字を持つ日本では、国際収支の均衡と悪性インフレの阻止がすべての前提条件です。
立憲民主も脱原発や再生エネルギーへの転換を基本政策としていますが、もっと具体的で抜本的な、例えば、10年間の公共投資で20兆円化石燃料輸入をゼロにするような、再生エネルギーへの転換政策とか、若者にも衰退日本を覆すような「夢のある経済政策」の提起が必要なのではないでしょうか。
安倍改憲論への対抗としての国民のための重要政策の提示
石橋最初の質問、公明党についてですが、私は個人的には相当に難しいだろうと思っています。公明党は、これまで平和の党、護憲の党といってきた、いや今もそう仰っているのでしょうが、ではこの6年半、安倍政権の下で、どういう行動を取ってこられたのでしょうか。残念ながら、特定秘密保護法も、集団的自衛権を容認してしまった安保法制も、共謀罪も、すべて安倍政権の悪法案に賛成し、議会ルールを無視した強行採決にも加担してきたのではないでしょうか。とすると、もはや安倍政権と一蓮托生の道にはまり込んでいるとしか思えません。
公明党執行部は無理でも、創価学会の地域組織や婦人部などはどうか、というご指摘もありましたが、これまでの選挙でもそうした声を上げた創価学会員は少なからずおられたのだと思います。4年前の安保法制の時もそうでした。しかし、結果として、一部が全体に影響を与えることはなかったわけです。こうしたことを振り返ると、公明党が憲法改正問題で自民党と袂を分かって、われわれと何らかの連携ができるかと問われれば、個人的にはなかなか想定できません。もちろん、あらゆる手段を講じて憲法改悪、とりわけ9条の改悪を阻止するという立場から言えば、あらゆる選択肢を追求していくべきだとは思いますが。
住沢ということは安倍政権は、参議院で改憲勢力3分の2を確保するため、不足している4人の獲得を目指して突き進むと想定していいわけですね。
石橋そうするだろうと思います。すでに、今回参議院で議席を得たNHKから国民を守る党(N国)は、渡辺喜美氏を巻き込んで2人会派・みんなの党を結成し、党首が条件付きで改憲に賛成するような発言をしています。
また、真偽は分かりませんが、報道ベースでは、国民民主党内から維新や自民との連携を主張する声もあったようだと聞いています。つまり、現在、改憲勢力とはカウントされていない野党サイドにも色々な声があり、改憲の議論であれば始めても良い、積極的に議論すべきだという人もいることは確かなので、官邸は当然、色々な仕掛けをしてくるのではないでしょうか。
だからいま私たちに必要なことは、さきほど住沢さんもいわれました、憲法改正は今、国民が要望している政策課題ではないということを、はっきりと国民に訴えることだと思います。そのためには、政治が今、緊急に議論し解決しなければならない課題は何なのか、という具体的政策課題を、国民に納得していただく形で提起することが必要です。
このことは、2つ目のご質問の、成長戦略としての再生エネルギーへの転換政策にもかかわります。立憲民主党は、原発ゼロの実現をめざし、原発ゼロ法案を国会に提出しています。当然、その実現を担保するために、再生可能エネルギーを大胆に推進して、日本が世界でも最先端の再生可能エネルギー技術やソリューションを提供することや、分散型エネルギーに立脚した地方経済の活性化も含め、新成長戦略を提案しています。
先ほど国際収支均衡の話が出ましたが、私たちは国際的にも、国内的にも、エネルギー収支の均衡を図っていこう、お金がもっと地域内で循環する新しい経済を創っていこうという提案をしているのです。今回の参議院議員選挙でも、これが私たちのビジョンの主要な柱でした。
原発ゼロを実現するためには、現在ある原発立地地域への交付金などを、再生エネルギーへの投資に転換することで雇用機会や地域振興を維持してゆくことを提案しています。例えば、もともと福島の復興・再生計画の中には、福島を世界最先端の再生可能エネルギー基地として育てていく構想が含まれていたはずですので、こうした政策を確固たる政治の意志と長期方針をもって推進していくことで、民間の投資も呼び込むことができます。ただ、今いわれたような何十兆もの投資計画は、今、政権の座にいない私たちには実行できません。
先ほどの奨学金チャラの話や、消費税廃止など、そりゃもちろん、それを聴いた国民の中には喜んで応援する人はいるでしょうね。ただ、私たちは党内でそういう方向での議論はしていません。奨学金については、給付型に転換していくことはかねてから提案していますし、あるいはすでに返済中の皆さんに対して元本優先返済への転換や返済猶予措置の強化などの措置を講じることなどの対策を議論してきました。しかし、これまでの返済義務をチャラにするという「奨学金徳政令」などの話は、これまで返済を続けた人たちもおり、公平性の上から問題が生じる可能性があります。
また消費税に関しては、まずは10月の10%への引き上げを凍結し、その上で、金融所得課税の強化や法人税への累進性の導入など、公平な税制への転換を優先するべきだと訴えているわけです。消費税制のあり方についても、欧米と比べると、その制度設計にはいろいろな問題があり、見直しが必要です。まずは、そういった見直しを実行し、あらためて社会保障をどう拡充し、安心を確保していくのかという議論も含めた、社会保障と税の一体改革の方向性を固めた上で、消費税のあるべき姿を検討すべきなのではないでしょうか。
それなしに、消費税ゼロなどとは言えないと思います。いずれにせよ、国民の安心を守る上で、重要な議論であり政策ですので、政権選択選挙となる次期衆議院選挙に向けて、立憲民主党としてもしっかりした案を提示していきたいと思います。
住沢野党という制限された立場からの、しかもポピュリズムに陥らない責任ある野党としての立場からの、安倍政権に対抗する成長戦略の提示が、その具体的な財政的裏付けも含めて、簡単な話ではないことがわかりました。しかし歴史が示すところでは、大きな変革期には、そうした権限も財政的な裏付けもない反対派勢力が、時の主流派に打ち勝って新しい流れを作っていくことも教えています。
政治には将来に向けての構想をしめし、独善的にならない形で、人々に共通する希望を現実に移す回路を提示してゆく役割もあります。この点で、立憲民主党のポジションが中途半端に終わっている気もします。2017年の結党の折りに、必ずしも成算があってのことではないと思いますが、国民の願いとは合致していました。今、国民民主党は玉木代表も含めて揺れ動いているようですが、一刻も早く、国民の願いと合致し、それを前面に掲げる政治を実現していただきたいと思っています。
いしばし・みちひろ
1965年 島根県生まれ。
1992年~2000年 NTT労働組合中央本部勤務
2001年~2009年 国際労働機関(ILO)勤務
2009年~2010年 情報労連/NTT労組特別中央執行委員
2010年 第22回参議院議員選挙で初当選。2016年再選。現在2期目
すみざわ・ひろき
1948年生まれ。日本女子大学名誉教授。本誌代表編集委員。専攻は社会民主主義論、地域政党論、生活公共論。
特集・米中覇権戦争の行方
- 米中覇権戦争から世界の二大ブロック分割へ法政大学教授/水野 和夫
- 立憲民主党は参議院選挙を「敗北」という視点から総括できるか立憲民主党参議院議員/石橋 通宏
- 緊迫する米中貿易戦争の現局面を読む中国・浙江越秀外国語学院特任教授/平川 均
- 米中「AI・5G」覇権の狭間でグローバル総研所長/小林 良暢
- 21世紀の西欧デモクラシーの命運成蹊大学法学部教授/今井 貴子上智大学国際教養学部教授/サーラ・スヴェン
- トランプの「偉大な国」とは「白人の国」国際問題ジャーナリスト/金子 敦郎
- G20サミットと環境問題:姿勢問われる日本京都大学名誉教授/松下 和夫
- グレタさん効果と緑の党の大躍進ベルリン在住/福澤 啓臣
- グローバリゼーションと労働運動(下)東京大学名誉教授/田端 博邦
- 社会的弱者を排除しない公教育の形成へ京都教育大学大学院非常勤講師/亀口 公一
- 混迷を切り開く知性の再建に向けて神奈川大学名誉教授・本誌前編集委員長/橘川 俊忠
- 『国体の本義』を読みなおす筑波大学名誉教授・本誌代表編集委員/千本 秀樹
- 歴史に向き合わず、対立を煽る「目眩まし政治・メディア」の危うさ―市民社会の理性が必要だ青山学院大学法学部教授/申 惠丰