特集●混迷する世界を読む

山城議長の長期拘束は異常な「人質司法」

沖縄への露骨な政治弾圧―共謀罪の先取り

沖縄弁護士会・弁護士 金高 望

異常な身体拘束

沖縄平和運動センターの議長で、辺野古・高江における新基地建設反対運動のリーダーである山城博治さんは、2016年10月17日、高江の山中で、有刺鉄線を切断した(損害額約2000円)という器物損壊罪で現行犯逮捕された。以後、2017年3月18日に保釈が許可されて釈放されるまで実に5か月間身体拘束された。そればかりか、山城さんは、その大半の期間において、配偶者ら家族を含む全面的な接見禁止下に置かれた。「人質司法」という言葉に代表され、時に「中世」と揶揄されるほど後進的な日本の刑事司法であるが、その中でも今回の身体拘束は異例のものであった。そこには、新基地建設反対運動のリーダーを拘束し、世間から隔絶させるという、当局の強い意思が露骨にあらわれていた。

身体拘束に関する具体的な事実経過は以下のとおりである。

沖縄県警は、2016年10月17日に器物損壊事件で山城さんを現行犯逮捕すると、同月19日に那覇地検へ送致した。那覇地検は翌20日、那覇簡裁に勾留請求をしたが、裁判官がこれを却下したため、那覇地検は直ちに那覇地裁に準抗告を申し立てた。同日、那覇地裁は、検察官からの準抗告を認めて、山城さんの器物損壊事件での勾留を決定した。

同じ10月20日、那覇簡裁裁判官が器物損壊事件の勾留請求を却下した後、那覇地裁が準抗告を認めて勾留を決定する前の時間帯に、沖縄県警は、山城さんを別件の公務執行妨害・傷害事件で通常逮捕した。これは、2016年8月25日に高江で沖縄防衛局職員に対して暴行を加え、傷害を負わせたというものであった。その後、沖縄県警は10月22日に公務執行妨害・傷害事件について検察庁送致、翌23日に那覇地検が那覇簡裁に勾留請求をして、裁判官により勾留決定がなされた。あわせて、公務執行妨害・傷害事件の勾留には、接見等禁止決定、すなわち一般人(弁護人ら以外の者)との面会禁止が付された。

少し分かりづらいかもしれないが、逮捕・勾留といった身体拘束手続は、「人単位」ではなく、「事件単位」で進行する。つまり、2016年10月20日以降は、「器物損壊事件」と「公務執行妨害・傷害事件」の2つの事件についての身体拘束が併存することとなった。

器物損壊事件での勾留については、裁判所が11月4日までしか延長を認めず、那覇地検は、同日、器物損壊事件については処分保留釈放の手続をとった。しかし、公務執行妨害・傷害事件での勾留は継続され、那覇地検は、11月11日、器物損壊事件と、公務執行妨害・傷害事件についてあわせて那覇地裁に公訴提起した。

さらに、沖縄県警は、2016年11月29日、山城さんを威力業務妨害事件で通常逮捕した。これは、2016年1月末ころ、山城さんが関係者らと辺野古のキャンプシュワブゲート前でブロックを積み上げるなどして、沖縄防衛局の工事を妨害したというものであり、実に約10か月も前の出来事を理由とする身体拘束であった。沖縄県警は、威力業務妨害事件について11月30日に検察庁送致し、那覇地検は12月1日、那覇簡裁に勾留を請求して裁判官はこれを認める決定をした。そして、那覇地検は、12月20日、威力業務妨害事件について、那覇地裁に公訴提起した。

この時点で、山城さんは、器物損壊、公務執行妨害・傷害、威力業務妨害の3事件で起訴され、公務執行妨害・傷害、威力業務妨害の2事件で勾留され、うち公務執行妨害・傷害事件について接見等禁止決定(一般人との面会等を禁止)を付された状態となった。弁護人らからの再三の申立にもかかわらず、山城さんの保釈が許可されないばかりか、全面的な接見等禁止決定が継続され、配偶者とも面会できない状況が続いた。

2017年3月6日に公判前整理手続が終了すると、那覇地裁裁判官は、翌7日に威力業務妨害事件については保釈を許可したが、公務執行妨害・傷害事件については引き続き保釈請求を却下し、接見等禁止については、3月10日、わずかに配偶者についてのみ面会を許可する決定を出した。

3月17日に第1回公判期日が開催されると、同日、那覇地裁が公務執行妨害・傷害事件についても保釈を許可、那覇地検が福岡高裁那覇支部に対して抗告したが、翌18日、高裁が抗告を棄却し、この日の夜、山城さんはようやく釈放された。3月17日から18日にかけては、那覇地検が、保釈の不許可を求めるのみならず、接見等禁止決定の継続を求めて徹底抗戦したことが印象的であった。

接見等禁止決定と、検察官による不当介入

 「人質司法」の言葉にあらわれているように、否認事件では身体拘束が長期化し、保釈も許可されないというのは、日本の刑事司法の病理である。その中でも、今回は、比較的軽微な事案ばかりであるにもかかわらず、保釈も許可されないまま身体拘束が長期化したことは異常である。特筆すべきは、全面的な接見等禁止決定が長期にわたって維持され、配偶者すら面会を許されない期間が5か月近くも続いたことであろう。

接見等禁止決定は、被疑者・被告人を勾留するだけでは罪証隠滅のおそれが払拭できないという極めて特殊な場合に、弁護人以外の者との面会を禁止する制度である。留置施設における一般面会には立会人もつくのであり、面会を禁止しなければ罪証隠滅のおそれがあるケースなど通常想定できない。しかもこれが捜査終了後の起訴後となれば尚更である。さらには、配偶者ら家族の面会も許さないというのは尋常ではない。

さらにこの間、弁護人がマスコミからの取材に協力し、記者からの質問を山城さんに伝え、山城さんからの回答を記者に伝えて、これが県内新聞に掲載されたことについて、検察官が弁護人に対して繰り返し「質問書」なる文書を送付して見解をただすという異常な出来事があった。先に述べたとおり、接見等禁止制度の趣旨は罪証隠滅等のおそれを払拭することにあり、被疑者・被告人を世間から隔離することを目的とするものではない。

弁護人が接見等禁止制度の趣旨を潜脱して罪証隠滅工作に加担したというのであれば非難を免れないが、記事の内容は、山城さんのオスプレイ墜落事故に対する見解、運動を続ける仲間への謝辞など、事件とは直接関係のないものである。検察官の介入は、山城さんの表現の自由を侵害するものであり、弁護人の接見交通権や弁護活動に対する介入であり、そして報道機関の報道の自由に対する介入でもある。弁護人らは、検察官からの不当な介入に回答する必要はないと判断し、その旨検察官に伝えた。

このような経過からは、当局が、山城さんをおそれ、そして山城さんを沖縄県民や現場の市民から隔離しようという思惑を有していたことがみてとれる。そして、裁判所はそのような当局の意向に加担し、漫然と身体拘束を継続したものと評価せざるを得ない。

共謀罪の先取り的捜査

ところで、山城さんはじめ一連の事件で共犯とされた人たちや、関係者に対しては、大規模な捜査が展開され、警察によって、多数の携帯電話、パソコン、ハードディスク等の記録媒体、通帳類等が押収された。捜査当局は、そこからおびただしい量の通信記録やデータを抽出し、これを犯行の組織性や共謀の事実を立証するものとして証拠請求している。かつての電話と異なり、今の携帯電話(スマホ等)にはおびただしい通信記録が保存されている。捜査機関はこれを根こそぎ抽出し、関係者間の通信履歴をまとめて、これを「組織性」「共謀」の証拠だといっているのである。今国会で議論されている共謀罪が成立したならば、きっと同じような手法で組織性や共謀を立証するのであろう。山城さんらに対しては、「共謀罪」の先取り的捜査が行われたのではないだろうか。

「共謀」の恐怖はこれだけにとどまらない。山城さんに対する起訴状や、検察官の証明予定事実記載書は、「共謀」のオンパレードである。例えば、公務執行妨害・傷害事件の起訴状には、「被告人両名(山城さんともう1名)は、氏名不詳者らと共謀の上」(括弧内は筆者の注釈。以下同様。)とある。また、威力業務妨害罪についての証明予定事実記載書には、以下のような記載がある。

常駐メンバー(注:キャンプシュワブゲート前のテントにいつもいるメンバーのこと)その他抗議活動参加者についても、常駐メンバーについては、日々の抗議活動やミーティング等での経験や情報の共有により、同月(注:1月)28日の抗議活動に参加した抗議活動参加者については、午後1時台に行われた集会で被告人山城から説明を受けたことや引き続きブロック積み上げを共同で実行したことなどにより、遅くとも同日28日の犯行開始時点には・・・共謀が成立した。

同日以降の抗議活動に参加した常駐メンバー及び抗議活動参加者については、各抗議活動時において被告人による説明を受けたことやブロック積み上げを共同で実行したことなどにより、順次、・・・共謀が成立した。

検察官は、かくも抽象的な指摘をするのみで、共謀が成立すると主張しているのである。現行法の下でさえ、「共謀」は抽象的な概念で、際限なく拡大されるおそれがある。共謀罪が成立し、実行行為なしに犯罪が成立することになれば、取締まりはもはや捜査当局の思うがままであろう。

裁判所の異常警備、公務員証人に対する遮蔽措置

公判はこれから本格化するが、法廷でも次々と信じられない出来事が生じている。

まず、その物々しい警備体制が異常である。山城さんらの公判期日には、裁判所正面にバリケードのような構造物が置かれてガードマンや裁判所職員が立ち並び、そればかりか、裁判所構内やその周辺を多数の警察官が警備をしている。さらには、警察官らは市民にビデオカメラを向けて撮影活動をしていた(撮影については、沖縄弁護士会が裁判所に中止を申し入れたこともあり、現在は行われていないようである)。

そして驚くべきは、検察官側証人である沖縄防衛局職員について、裁判所は、証人と傍聴席との間に遮蔽の措置をする決定をし、弁護人らからの異議申立にもかかわらず、その決定を維持したことである。公務員である沖縄防衛局職員が、公務として立ち会った現場の様子を証言するだけだというのに、傍聴人の目前では証言できないというのである。

裁判所の決定は、辺野古新基地建設反対運動に係わる市民、高江オスプレイパット建設反対運動に係わる市民が、あたかも犯罪者集団であるかのように扱い、威迫を加える暴力的市民から、証言する沖縄防衛局職員を守るとでもいうような訴訟指揮である。辺野古新基地建設反対運動、高江オスプレイパット建設反対運動が、暴力的運動であるとの予断と偏見をもっているといわざるを得ないのであり、裁判の公正、公平に対して疑念を抱かせる事態である。弁護人らは担当裁判官の忌避申立をしたが、簡易却下され、そのまま審理は継続しているが、許しがたい事態である。

最後に─裁判の動向に注視を

山城さんの公判は現在進行中であり、総括するにはまだ早いが、これまでの経過の中でも、日本の刑事司法の闇が改めて見えるとともに、当局が基地建設反対運動のリーダに対して弾圧をしかけてきたこと、そして、裁判所がその歯止めとならないことが明白になっている。

今後の公判も予断を許さないが、精一杯の主張・立証活動を展開していきたい。全国のみなさんは是非裁判の動向に注視いただくことをお願いする。

かねたか・のぞみ

1975年生まれ。一橋大学法学部卒。2003年第二東京弁護士会登録。2004年沖縄弁護士会登録。現在沖縄弁護士会副会長。日本労働弁護団幹事、ブラック企業被害対策弁護団会員、沖縄県立看護大非常勤講師など。

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