特集● 新自由主義からの訣別を   

混沌の共和党-トランプ派対主流派

バイデン政権に「議事堂乱入」の追風

国際問題ジャーナリスト 金子 敦郎

バイデン米新大統領は就任早々、多忙を極めている。トランプ前大統領が「米国を変える」ために強行した数々の政策の中で、コロナ感染防止、停滞する経済対策、気候変動、移民、国際協定からの脱退など、内外政の重要かつ緊急問題で議会を通さなくてもできるものを大統領令や告示で元に戻す。最初の10 日間で45件にのぼった。

共和党は「和解」と「結束」を呼びかけたバイデン氏の就任演説は言葉だけの一方的行為と強く反発している。しかし同党は今、それどころではない事態に陥っている。トランプ氏とその熱狂的な支持層が支配する「トランプ党」のままで政権奪還を図るのか、過激な議事堂乱入に行き着いたトランプ支配から脱して歴史と伝統の党に戻るのか-分裂の危機をはらむ権力闘争が始まっている。

「弾劾」で責任追及

民主党中間派のバイデン大統領は選挙戦で「平常に戻ろう」と訴えた。敵をつくって攻撃するというトランプ政治に疲れ果てた普通の市民には、これが党を超えて受けたといわれている。就任演説でも「和解と結束」を呼びかけ「すべての国民の大統領」になると約束した。だが、民主党の大勢は「和解」には共和党がまず、「バイデン当選」を正式に認めることが先決、「平常」に戻るには議事堂乱入事件を始めトランプ大統領の権力乱用、違法・脱法行為を厳しく追及して、悪しき前例を残さないことが必要と考えている。

責任追及の第1歩が議事堂乱入事件を扇動したトランプ氏の責任を問う弾劾裁判。民主党多数の下院では、共和党から10人の賛成も得てトランプ氏訴追決議が通った。下院共和党トップのマッカーシー院内総務は、トランプ氏には議事堂乱入を扇動した責任があると発言していた。

下院の訴追決議を受けて上院が弾劾裁判を担当、2月9 日から審議が始まる。有罪となればトランプ氏の政治生命は絶たれる。上院議席は50対50とタイ。議長(ハリス副大統領)は民主党が握っているが、有罪判決には3分の2(67票)が必要なので難しいとの見方が一般的だ。しかし、民主党は有力な弁護士事務所の協力も得て、議事堂乱入に加わった数百人の証言やビデオから、トランプ氏と議事堂乱入を結びつける証拠さがしの調査を着々と進めている。

「脱トランプ」か「継承」か

選挙で敗北した共和党は大きく揺れている。「トランプ支配」から脱して元の共和党に戻したいのが、マコネル共和党上院総務が率いる主流派。マコネル氏は1981年登場のレーガン政権以降、さらなる保守化の道をたどってきた共和党で15年余り上院トップの院内総務に君臨してきた。議会政治のベテランで、表と裏の使い分けに長けている。

トランプ氏とはつかず離れずの微妙な間合いを保ち、バイデン氏に「選挙を盗まれた」とするトランプ大統領の危険な賭けを模様見しながら、大統領選挙人投票がバイデン当選を指示したところで見切りをつけてバイデン氏に祝意を表明し、トランプ氏を激怒させた。  

続いて起きたのが議事堂乱入。マコネル氏はこれで「トランプ支配」からの脱出の腹を固めたと思われる。トランプ政権の高官の抗議の辞職が相次いだ。その1人、チャオ運輸長官はマコネル夫人である。マコネル氏は、トランプ氏と何人かの人物に事件を扇動した責任があると公に発言、弾劾訴追を支持した。

トランプ氏が弾劾裁判で有罪になれば共和党も傷つくが、党の自立を大いに後押しする。マコネル周辺からは同氏が弾劾支持に回わるとの情報が流れた。マコネル氏の観測情報流しとも見られたが、本当だとするとトランプ弾劾が成立する可能性が高まる。

これに対してトランプ派は「トランプ党」を継承し、トランプ氏の強固な支持基盤に乗って2 年後の中間選挙(上下両院、知事などの改選)で挽回を図ろうとしていた。この擦れ違いの中で、昨年11月選挙の当選者を加えて過激な保守派から、極右、白人至上主義、さらに陰謀論を信奉する熱狂的トランプ支持者が、党内に強力な勢力を形成していることが明らかになった。彼らの中には議事堂乱入の手引きをしたと疑われる議員が何人もいる。

 選挙戦でバイデン×トランプ最大の決戦場となった南部ジョージア州から陰謀論カルト集団「Qアノン」の支援を受けて当選した女性下院議員グリーン氏は新人ながらたちまちメディアを騒がせる存在になった。米国で後をたない銃撃による大量殺人事件はすべて、銃砲所持規制を強化したい民主党の陰謀というのが持論。最近はSNSで「下院議長の民主党ペロシ氏を引き下ろすには頭に1発の銃弾を撃ち込むのが手っ取り早い」と何回も主張、共和党の一部と民主党が辞職を求めているが、トランプ氏に近いというので党首脳は何もできないという状況になっている。

「カムバック」

党幹部が弾劾裁判を容認したことについて、こうしたトランプ派から反発の動きが強まった。大統領を退任したトランプ氏を弾劾裁判の対象にするのは憲法違反との決議案が26日上院に提出されたが、賛成45票、反対55 票で却下された。しかし、共和党からの反対者が5人にとどまったことで、2月9 日から始まる弾劾が成立する見通しは暗くなったとみられる。マコネル氏にも想定外だったようだ。議事堂乱入事件が世論の強い非難を浴びたことで、共和党内にもトランプ責任論が広がった。それからわずか2週間余りの間に、トランプ支持派の発言力が強まったことが分かった。

2日前の24日にはトランプ氏が、マコネル氏ら自立派の動きに警告を突き付けた出来事も起こった。今回選挙で長年の共和党州から民主党州に覆ったアリゾナ州では、共和党指導部に責任を突き付けたトランプ派が党を割って新党を結成しようとする騒ぎになった。新党名はトランプ氏のスローガン「米国を再び偉大な国にする」の頭文字を並べたMAGA党。フロリダ州に引き籠ったと見られたトランプ氏がこのMAGA党支持を打ち出した。「トランプ排除(自立)」の動きは許さないという警告である。

アリゾナ州の動きがどこへ行くのかは、まだ分からない。だが、各州に広がってトランプ氏が第3党、MAGAを率いて登場するとなれば、共和党は大打撃を蒙り、多分共倒れとなり、民主党を利することになる。

大統領経験者が第3党をつくって大統領選挙に出た例は、1912年の革新党候補T.ルーズベルトがいる。ルーズベルトは共和党マッキンレイ大統領の暗殺で1901年副大統領から昇格して同04年現職として当選、08年退任した。後継のタフト大統領と対立し、共和党を割って革新党から出馬、再選を狙ったタフトを上回る票を得たが落選、民主党ウイルソン候補が漁夫の利で当選している。

歴史的に2大政党による選挙・政治を前提にした米国政治の構造の下では第3党候補が大統領に当選する可能性はゼロに等しい。しかし、予測不能のトランプ氏である。MAGA党支持の発言はマコネル院内総務ら「自立派」には、政治へのカムバックを狙うトランプ氏が何をするか分からないという恐怖感を感じさせたに違いない。

マッカーシー下院院内総務は28日フロリダのトランプ氏のもとに飛んだ。多分、マッカーシー氏がトランプ氏に詫びを入れたうえで、2022年選挙で下院の多数派を奪還するために両者が協力することで合意したと発表された。マッカーシー氏は議事堂乱入にトランプ氏は責任があると発言した後、口をつぐんでいた。

どこへ行く共和党

トランプ氏はワシントンを去るにあたって支持者の集まりに「いずれ戻ってくる、また会おう」と言い残した。トランプ氏のMAGA党支持発言と、マッカーシー氏との2022年選挙へ向けた協力合意は、トランプ氏がまずは2年後の中間選挙で実績を残し、次の2024年の再挑戦への野心を抱いていると宣言したに等しい。

トランプ氏のこの動きによって、弾劾裁判でトランプに有罪判決が出る可能性がさらに薄らぐとともに、トランプ氏の共和党支配から抜け出そうとするマコネル構想にも、少なくとも当面は大きなブレーキがかかったことは間違いない。

マコネル氏は1942年生まれ、15年余り上院トップに君臨してきた長老である。マッカーシー下院院内総務のように簡単にトランプ氏に頭を下げることはできない。「GOP」(偉大な昔からの党:Grand Old Party)と自負する共和党を、極右、白人至上主義者、陰謀論者まで抱え込んだまま、次の時代へ引き渡すこともできないだろう。彼らの中には自分の忠誠心の対象はトランプ氏で共和党ではない(グリーン氏)と公言する者もいるのだ。

マコネル氏を取り巻く上院幹部にも、議事堂乱入へのトランプ責任をいつの間にか口にしなくなるものが出てきた。マコネル氏がこれほどの孤立感を味あうのは初めてではないだろうか。マコネル氏とともに反トランプを貫こうとするグループは少数派となった。マコネル氏がどこまで抵抗を続けられるだろうか。

トランプ氏は自分の下で仕事をする者には絶対的な忠誠を要求する。それに沿わないと裏切り者として徹底的な報復を加える。大統領選挙では敗北を認めず、「不正選挙」という虚像をでっちあげて2カ月半粘った。この前例のない異常な戦いは、マコネル氏とペンス副大統領がバイデン当選を承認して終わった。2人は憲法と選挙関連法に従ってバイデン当選を承認する手続きを取った。それを拒否することはできなかっただけだ。だが、トランプ氏はこの2人を最大の裏切り者と敵視している。マコネル氏にはさらに党からトランプ氏を排除しようとする「反逆」が加わった。

しかし、大統領のトランプ氏と今のトランプ氏には大きな違いがある。トランプ氏は政治の実績のないまま、大統領になるとたちまち共和党を支配下におさめた。大統領権力を握ったからできたことだ。今のトランプ氏にはその権力はない。バイデン政権の米国民主主義の回復、そして2022年中間選挙に向けて、バイデン民主党とトランプ共和党の激しい攻防の中でマコネル・グループの存在がどんな役割を演じるのか注目したい。

「代案」数々あるが・・・

議事堂乱入事件は「バイデン当選」を実力で阻止する目的でトランプ氏が扇動したのか。FBI(連邦捜査局)捜査の最大の焦点はトランプ氏の「扇動」を立証する証拠がつかめるかにある。民主党のトランプ弾劾の目的は、有罪判決を下して同氏が再び公職に就く資格を奪うことにある。弾劾裁判では刑法上の責任よりも大統領としての政治的責任が重く問われることになる。

民主党はトランプ氏を有罪とするのに必要な共和党上院の支持が得られない場合の代案の検討を続けている。その中に1868年憲法修正14条(奴隷制廃止にともなう市民権の扱いなど)の第 3項の適用がある。

合衆国に対する暴動あるいは反乱に加わった者には連邦および州の公のポストに就くことはできないとする規定だ。南北戦争で南部連合の政府、軍の幹部を対象にしたものだ。ここでも議事堂乱入が暴動あるいは反乱であり、トランプ氏にその責任があることを証明する難問がある。

トランプ氏が大統領に要求される様々な規制をほとんど無視している問題もある。政府高官のポストに就く者は就任前に金融資産をすべて売却し、その他のビジネスにかかわる資産は第3者運営の基金に預託することが法律で決められているが、(条文には大統領と書いてはないと)トランプ氏はこれに応じていない。歴代大統領はみんな納税証明書を提出しているが、これにも応じていない。

憲法では大統領は外国から金品を受け取ってはならないと規定されているが、トランプ氏は不動産業のオーナーとしてホテルやゴルフ場を経営し、外国政府首脳や高官を客として受け入れている。トランプ氏は先進7カ国首脳会議(G7)を自分のホテルで開催しようと言い出したこともあるように、「利益の相反」の戒めにはまったく無縁であり、隙だらけともいえる。

これらは政権発足時から問題視され、民主党や弁護士グループなどが訴訟に持ち込んでいるものもある。「大統領特権」を失った今、これらが噴き出す可能性があり、トランプ氏もそれを恐れて、大統領特権による恩赦を自分にも適用したがったといわれている。だが、それがいつかは分からない。差し当たりの政治活動を阻む決め手にはならない。民主党は「脱トランプ」をこうした「トランプ失格」に頼るわけにはいかないということになる。

「テロの光景」

今もテレビで繰り返される議事堂乱入の映像。バイデン大統領の就任式は極右、白人至上主義、陰謀論者などの過激組織のテロ攻撃に備えて2万5000人も州兵や警官の厳戒態勢の下で行われ、祝賀の市民の姿はなかった。事件から1カ月 を経た今も、治安当局のテロ警戒情報の下、バリケードで取り囲まれる首都ワシントン中心部。

トランプ氏とは何者か象徴的に語る光景である。米国の世論にとって政治の手段として「暴力」は超えてはならない一線であることを議事堂乱入事件は改めて教えている。昨年夏、白人警官が暴力的取り締まりで黒人青年を殺害した事件をきっかけに、「黒人の命は大切」(BLM)を掲げる抗議デモが全米に広がった。世論は圧倒的な支持を寄せた。しかし、デモの一部が暴徒化したり、極右・白人至上主義阻止の介入で流血が起きたりすると支持は大きく減退した。

トランプ氏はこれをよく見ていて、デモを暴力化させているのは極左団体であると虚偽発言を繰り返し、そのうちにBLMデモをすべて極左デモと決めつけるようになった。そのトランプ氏の支持者や団体が大暴力事件を引き起こしたのだ。

トランプ政権の下で白人至上主義組織や極右団体の活動が活発化し、FBIは彼らのテロ活動への警戒を呼び掛けてきた。「バイデン氏に選挙を盗まれた」とするトランプ氏の「虚偽」キャンペーンは、選挙結果を暴力で覆そうとする先進民主主義国ではありえない「クーデター」に行きついた。

バイデン政権は、このトランプ氏の「自爆」を追い風にして、共和党の内紛を横目で見ながら順調に滑り出している。トランプ氏が、大統領選挙人選挙が「バイデン当選」を支持したあたりで矛を納めるか、あるいは議事堂を取り囲む大デモで上下両院合同会議に圧力かけるだけで、議場乱入は抑制していたら、状況は大分違っていたという気がする。

「和解と結束」は「夢」

自分に不都合なメディア報道はすべて「フェイク・ニュース」と切り捨て、虚偽発言を重ねてきたトランプ氏は、世論が目にした事実に敗れた。バイデン政権の成否はまず2年後の中間選挙で上院と下院の多数を維持できるか否かにかかる。バイデン政権はコロナ対策を含めてトランプ氏がゆがめた民主主義を元に戻しながら、トランプ氏を大統領に押し出した人たちを生んだ状況の改革に取り組まなければならない。

だが、それは貧富の格差是正、人種差別解消の推進、移民問題、気候変動・環境保護などあらゆる分野に及んでいて、しかも共和党とは鋭く対立してきたものばかりだ。バイデン新大統領は就任演説で和解と結束を切々と呼びかけた。民主党の論客、P.クルーグマンは演説を聞いて「涙がでた」と評価したが、それは「夢」だとコメントしている(ニューヨーク・タイムズ紙)。

これはバイデン批判ではない。直面する問題の難しさと、民主、共和両党の対立が20年来、ひたすら先鋭化の道をたどってきて、トランプの4 年でまたさらに深まっている現実を知り、そのトランプ氏がホワイトハウスを失っても共和党に強い影響力を残しそうな状況を知っての発言である。共和党のトランプ氏に近い有力上院議員は、バイデン演説が政治的過激主義、白人至上主義、国内テロに打ち勝つと述べていることを取り上げて、国民の半分を敵にしていると反応している。

米国の民主主義を守るという民主党のトランプ大統領との戦いは、民主主義を取り戻すバイデン民主党政権と「トランプ党」との戦いへと、立場が入れかわって継続することになる。世論によって生まれたトランプ大統領との戦いは、世論の支持を取り返すことによってひとまず勝った。新局面に入ったトランプ氏との戦いの勝敗を決めるのも、結局は世論を味方につけられるか否かにかかってくるだろう。

トランプ・トラウマ

トランプ氏は大統領選挙でバイデン候補に敗れたとはいえ、一般得票で4年前を大きく超える7400万票を獲得した。2016年にはトランプ当選を予想できた人はほとんどいなかった。大統領になってからも世論調査の支持率が5割を超えたことはなかった。  

だが、同時にその大統領としての特異な言動にもかかわらず、支持率はじわじわと上がって3 割ラインを超え、概ね4割半ばを上下した。

それでも大統領選挙の世論調査はバイデン氏が終始リードを保っていた。投票日が迫るとトランプ氏が一気に差を詰め、勝敗を決定付けた中西部と南部の6ないし7 州のバイデン、トランプ両候補の競り合いはきわどい戦いだった。

トランプ氏の集票力には魔力が宿っているのではないか。世論調査機関やメディアはまたも反省を迫られ、トランプ・トラウマに取りつかれているようにも見える。

トランプ氏は共和党を率いて2022年中間選挙で議会を奪い返し、2024 年大統領再選を狙っている。2022年中間選挙がどんな展開になるかを予想するのは早過ぎる。だが今後のバイデン政権(民主党)とトランプ氏(共和党)のせめぎ合いの背景として、2回の大統領選挙が残した数字を多角的に分析しておくことは意味があると思う。

以下はそのための資料である。

▽2016年大統領選挙

得票数(千)はクリントン65,845票 、トランプ62,980票、その差は2,865票。得票率はクリントン48.1%、トランプ46.0%。得票数、得票率ともにクリントンが上回ったが、大統領選挙人の獲得数でトランプが上回って当選した。

▽2020年大統領選挙

得票数はバイデン81,283票、トランプ74,223票、その差は7,060票。得票率はバイデン51.3%、トランプ46.8.%。得票数、得票率ともにバイデンが、上回り選挙人獲得数でも上回って当選した。

▽21世紀に入ってからの6回の大統領選における両党候補の得票率
2000年●ゴア   48.4◯ブッシュ47.9-0.5(ポイント)
 04年●ケリー  48.3◯ブッシュ50.72.4
 O8年◯オバマ  52.9●マケイン45.77.2
 12年◯オバマ  51.1●ロムニー47.23.9
 16年●クリントン48.1◯トランプ46.0―2.1
 20年◯バイデン 51.3●トランプ46.84.5

民主党は支持伸ばし-共和党は停滞

2016年と2020年ともに、トランプは得票数、得票率で民主党候補のクリントン、バイデン両候補に後れを取っていて、その差は2020年にさらに広がっている。得票数の差は2,865千票から7,060千票へと420万票、得票率は2.1% から4.5ポイントへと2 倍超の増加。

2020年の両候補の得票数は前回2016年と比べて大幅増になった。これは両候補の対決が先鋭化して関心が高まり、投票率が2016年の59.2 %から近代に入って最高の66.7%へと上昇したこと、コロナ禍によって安全な郵便投票をした数が増え、人口の自然増も加わったことによる。バイデン氏は7000万の大台を飛び越して、一気に8100万票に、トランプ氏も74 00万を獲得した。この大幅増分でもバイデン氏が400万票ほどトランプ氏を上回った。

このように2回の大統領選選挙の数字を見ると、民主党はこの4年間で支持を伸ばし、共和党は停滞しているといっていい。

固定化した両党票-接戦が続く

この2回の選挙結果を21世紀に入ってからの6回の選挙の流れの中で見る。バイデン氏の得票率51.3、得票率差 4.5ポイントの勝利は、オバマ1期目2008年の圧勝に次ぐ大勝だった。これに対してトランプ氏の得票率は2020年に少し伸ばしたとはいうものの、いずれも46%台。オバマ氏に惨敗したとされるマケイン氏並みである。トランプ氏は強固な支持基盤を構築して選挙に強いとされるイメージとは逆に、トランンプ氏が実は選挙に強くはない、むしろ弱いということになる。しかし、簡単にそう言うことはできない。

6回の選挙を通して見ると、共和党は総投票数のうち46 %の基礎票を持っていて、これに対して民主党の基礎票は48 %とみられる。その差は大きなものではなく、固定化されている。世論調査機関ギャラップが2004年から毎月ごとに継続的に実施している政党支持調査によると、両党離れが年々進んで2007年(2期目ブッシュ政権最後の年)以降、無党派支持がしばしば40%を超えるようになった。最近は無党派が40%弱、残る60 %あまりのうち30%+αが民主党支持、30%-αが共和党支持。無党派層にもこの両党支持傾向が反映されていて、民主党寄りが共和党寄りよりやや多めとされている。大統領選の得票にはこの傾向がそのまま反映されているようだ。

冷戦終結後の20年余り民主、共党の両党の対立は深まるばかりで、両党ともいわゆる穏健派はほとんどいなくなった。そうなると勝敗を決めるのは無党派票の行方となる。その無党派票もギャラップ調査によれば、大まかには民主党寄りと共和両党寄りに分かれている。

大統領選を数字でモデル化すれば、基礎票が民主党48%、共和党46%として、両党候補が奪い合う浮動票は6 %しか残っていないことになる。トランプ氏は強烈な型破りの個性で、この残り少ない浮動票をさらう能力の持ち主といえるだろう。それでも2回の選挙で獲得した票はいずれも46%台で、基礎票すれすれだった。大統領選挙人が当選者を決めるという独特の選挙制でなければ2016年の当選はなかったし、2020年の緊迫した大接戦も起こらなかった。しかし、この制度の問題点は広く指摘されているものの、将来は別として今は改革(憲法改正)の見通しはない。

両党の支持層がわずかの差で固定化しているうえ、残る浮動票もわずかなので、次の大統領選挙も接戦になることは間違いない。データからは、選挙結果を決めるものが何になるのかは予測できない。

(2月2日記:本稿はワシントン・ポスト紙電子版、ニューヨーク・タイムズ紙国際版、およびジャパン・タイムズ紙掲載のAP、ロイター、ブルームバーグの各通信社電、共同通信報道に多くを負っている)。

かねこ・あつお

東京大学文学部卒。共同通信サイゴン支局長、ワシントン支局長、国際局長、常務理事歴任。大阪国際大学教授・学長を務める。専攻は米国外交、国際関係論、メディア論。著書に『国際報道最前線』(リベルタ出版)、『世界を不幸にする原爆カード』(明石書店)、『核と反核の70年―恐怖と幻影のゲームの終焉』(リベルタ出版、2015.8)など。現在、カンボジア教育支援基金会長。

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