特集●コロナ下 露呈する菅の強権政治

新型コロナに苦しむEU議長国ドイツの現況

基本的人権を尊重する西欧社会の没落を早めるのか

在ベルリン 福澤 啓臣

ヨーロッパの主な国々は、春にロックダウンを行ない、甚大な社会経済的及び健康被害を出しながら、コロナ危機をなんとか乗り切った。その後感染状況は小康状態に入り、規制も緩和され、楽観的な空気が漂った。これらの国々の中でも比較的被害が少なかったドイツは、7月以来EUの議長国になり、EUの基本的価値観を揺るがす問題に取り組んでいる。さらにいくつかの気候変動から派生する問題にも直面している。

秋になって 、第二波の厳しい感染状況に陥っている。政府は11月に再度のロックダウンを導入し、コロナウイルスを押さえ込もうとしている。

I . 基本的人権と気候変動

価値観共同体と基本的人権の追求

EUの出発点は経済主体の共同体だったが、現在は価値観の共同体が強調されている。基本的な価値観は人間の尊厳、自由、民主主義、平等、三権分立、法治主義、人権擁護、少数派の権利の尊重などである。EUのメンバーにこれらの価値観の徹底を求めるのは当然である。しかしハンガリーやポーランドなどが司法の権利を制限し、行政の力を強め、三権分立に反する政治を強行している。

ドイツはこれらの価値観をEU外にも求めている。特にEUと国境を接しているロシアの存在は様々な問題を投げかけている。昨年8月にベルリンの中心地にある動物園公園でチェチェンの独立派勢力の重要人物が白昼射殺された。容疑者は逮捕されて、現在その裁判が行われている。捜査によると、容疑者はロシアの秘密警察に関係するロシア人だが、ロシアの公的機関は事件解明に協力していない。

今年の8月にプーティン大統領の最大のライバルと言われている野党リーダーのナワルヌイ氏が東ロシアで選挙運動中に意識不明に陥った。毒を盛られたのではないかと疑われ、家族の希望で急遽シャリテ・ベルリン医科大学病院に運び込まれた。検査の結果、旧ソ連の軍部が開発した神経剤ノビチョックが同氏の血液から検出された。ノビチョックはすでに一昨年に英国で、元諜報部員のスクリパリ氏と娘の毒殺未遂事件で使われていたのだ。ドイツ政府はロシア政府に調査協力を求めたが、反応ははかばかしくない。

ナワルヌイ氏は10月23日に退院できるまでに回復した。ロシアに戻ると言っている。ドイツによるロシア制裁は、一時はバルト海の二本目のガスパイプライン建設の中止も検討されたが、結局ロシアの政治家や高級官僚のEUへの入国禁止及び彼らの資産の凍結になった。

ロシアはウクライナで東部の独立主義者のグループを軍事面からも支援している。シリアでは非人道的なアサド政権を支え、ロシアの戦闘機がシリア政府に抵抗している市民の居住地の病院や学校を重点的に爆撃している。ベラルーシでは8月の大統領選挙に不正があったとし、毎週末首都ミンスクで10万人以上の市民が弾圧にもかかわらず、非暴力のデモを行い、公正な再選挙を求めてすでに10週目になる。だが、独裁者ルカシェンコはプーティン大統領の支持もあり、権力の座を降りようとしない。EUは同選挙の結果を認めていない。

モリア難民キャンプとEU基本理念との矛盾

9月9日にギリシャのレスボス島にあるモリア難民キャンプ場に大規模火災が起き、すべての施設が燃え落ちた。原因は難民自身による放火だった。同キャンプは2500人用に建てられたが、実際には13000人の難民が収容されていた。収容人員の5倍も詰め込まれていた内部の状況は想像を絶するほどの悲惨な状態だった。昨年以来ドイツから国会議員などが訪れ、「このような非人道的な境遇に難民を置いて、看過しているのは、ヨーロッパ人、EU人として恥ずべきことだ。」と訴えていた。

この問題の背景には2015年以前から続いている難民問題がある。米国が口火を切ったアフガニスタン、イラク、シリア戦争によって数千万人の難民が生まれた。その内国外に逃れた難民の数は一千万人にも上るが、多くはトルコやヨルダンなどで窮乏生活を強いられている。彼らは戦争による難民なので、EUでは亡命が認められる。そのため、多くの難民が、マフィア組織に数十万円の渡航費を払ってまで、貧弱なゴムボートに命を託してトルコからエーゲ海を越えようとする。ギリシャに到着すれば、EU内なので、亡命申請ができるのだ。

ギリシャ政府は、「これらの難民をEUが受け容れてしまうと、さらに渡ってくる難民が現在の数万人から、数十万人、ひいては2015年のように100万人にも膨れ上がってしまうだろうから、『見せしめのために』亡命申請の処理をできるだけ引き伸ばし、さらにキャンプの状態をできるだけ劣悪にして、難民に渡航する気が起きないようにしている」と言っている。

その劣悪ぶりを見てみると、一つのトイレに150人、一つのシャワーに200人が割り当てられ、食べ物も生存に必要なギリギリの量しか支給しないという有様だ。何日も食べ物を口にしていないと訴える難民もいる。いくつかのNGOが飢餓状態を少しでも緩和するために食料を持ち込もうとしても、ギリシャの警備員によって阻止されてしまう。さらにこの1万3千人の中には子供たちが4000人もいるのだ。保護者のいない子供の数は407名だ。ギリシャ内には、現在4万人弱の難民がいくつかのキャンプに収容されている。

このような絶望的な状況の中での捨て鉢的な行為が難民たちの放火によるキャンプの破壊だった。火災後彼らは食うや食わずの中で地面に直接寝ていたが、EUなどからの資金でテントが緊急に建てられた。

トルコとEUの難民契約が2016年にメルケル首相とトルコのエルドアン大統領の話し合いによって結ばれた。トルコにいる410万人(内訳はシリアからの難民330万人、次にイラク、アフガニスタン、イランと続く)もの難民の滞在費用(7千2百億円)をEUが負担するので、トルコは彼らの滞在を認め、EUに向かわせないという内容の契約だ。

このような中でドイツ国内ではギリシャの非人道的な状況が昨年来伝わっていた。今年に入り、コロナ禍のせいで難民問題は背景に退いていたが、今回の放火事件が起きた。子供連れの家族だけでも受け入れるべきだという声が高まっている。170もの自治体の首長が収容施設に余裕があるので、受け入れると言って、手を挙げた。

放火事件の後3週間が過ぎた時点で、結局、政府は子供を抱えた家族を1553名と保護者のいない子供たちを150名受け入れることにした。9月20日にはベルリンで1万1千人以上の市民が、「スペースはたっぷりあるんだ。もっと多くの難民を受け入れよう」という政府批判のデモをした。他の都市でも同じ趣旨のデモがあった。

人道に反する犯罪の世界最初の裁判

コブレンツ市で世界でも最初とされる裁判が4月から始まった。起訴されたのはシリアの秘密警察にいた二人のシリア人だ。一人は4000人に対する拷問、その結果58人を死亡させたとして訴えられている。この裁判の特徴は、犯罪がドイツで起きていないし、原告も被告もドイツ人ではないことだ。

このような裁判は、本来なら人道に反する個人の犯罪およびそれらの犯罪の責任者を対象とするハーグの国際刑事裁判所ICC(同じくハーグにある国際司法裁判所ICJは国家間の紛争が対象)によって扱われるが、シリアは同裁判所の管轄権に同意していないので、国連の安保理の同意が必要となる。しかしロシアと中国が拒否権を行使したために、扱うことができない。EU法では人間性に反する犯罪を裁くことができるので、ドイツが先鞭を切ったのである。

この裁判にまで至るには「シーザー写真」が決定的な役割を果たした。シリアの軍隊付き写真家シーザー(匿名)がバグダッドの軍および秘密警察の刑務所で死亡した人々の写真を撮っていたが、これらの死亡者が拷問などの結果によることを知り、2万8千枚の顔写真を2011年にフランスのジャーナリストに密かに渡した。本人と家族がヨーロッパに出国した後、これらの写真が公開された。そして数千人の死者の名前が判明した。

さらにバグダッドの刑務所で拷問を受けたことのあるシリア人がドイツに亡命していた。被害者が偶然に拷問者—こちらもドイツに亡命していた—と出会い、訴えたので、この裁判に至った。裁判の結果はまだ出ていないが、有罪判決が出れば、これが先例となり、人道に反する犯罪者は外国に出ると逮捕され、起訴され、判決を受けることになる。外国に出なくても、欠席裁判が可能だ。フランスやスウェーデンも人間性に反する犯罪の裁判を行うと宣言している。米国は今年の6月に、シリアの非人道的な体制に協力する者への制裁を加える目的で同写真家の名前をとった「シーザー・シリア市民保護法」を成立させた。ただし、いつものごとく米国人自身は制裁対象にはならない。

気候変動対策とFFF(Fridays for Future)の活動再開

コロナ危機のせいで地球温暖化問題は緊急性が後退していた。ロックダウンにより産業活動が低下したこともあり、消費電力量は10%減っている。2020年度上半期の全電力発電量に占める再生可能エネルギーの割合は、48%だ。全発電量は2800億kWh(2019年の上半期は3100億kWh)で、その内1350億kWhが再生可能エネルギーである。全消費電力(2720億kWh)に占める再生可能エネルギーは同時期内では49.8%(2019年の上半期では44.1%)と半分にまで達している。発電量と消費量の違いは、ドイツは電力輸出国なので、消費量が発電量より輸出分だけ少なくなり、消費電力に占める割合は増える。

政府の目標は2025年には発電量の45%なので、クリアしている。問題は交通分野が5.1%と再エネ化が進んでいないことだ。そのため、政府はCO2削減のためにカーボン・プライシングの導入を昨年決議した。2021年に炭素1トンに対して3000円から出発し、2026年には6600円にまで引き上げられる。

政府がこの問題を忘れていないことを示すかのごとく、メルケル首相は8月21日にスウェーデンのグレタ・トゥーンベリ氏(17歳。FFFの創始者)とドイツのFFFのリーダーであるルイザ・ノイバウアー氏(22歳)、さらにベルギーからの女性二人のFFFの活動家(19歳)を首相官邸に招待し、これからの地球温暖化対策について話し合いを持った。結果は発表されていない。

9月25日の金曜日にFFFはドイツだけではなく、全世界で復帰のデモ(昨年9月20日にFFFの最後の世界的なデモがあった)を行った。ベルリンでは2万1千人が参加し、さらに400もの市町村で各地のグループが地球温暖化阻止をアッピールした。世界では2500箇所でデモが行われた。高校生が中心となってドイツ国内のみならず、世界中の仲間と連絡を取り合って、このような大規模なデモを組織したことは将来に希望を抱かせる。

森の枯死と大規模農業の行き詰まり

ドイツの森の大量枯死および農業の収穫量の大幅な減少が今年の夏も深刻化している。原因は、地球温暖化により、ジェット気流が蛇足し、3年前から広い地域、特に北および東の地域で降雨量が大きく減っていることである。そのため地下水の水位が下がり、樹木の生命力が弱まってしまっている。そこにキクイムシが繁殖し、広範囲の森が枯れ木の山になっている。その面積は24万5千ヘクタールで、神奈川県の広さに匹敵する。

ドイツの森は、これまで成長の早いスプルース(マツ科の常緑針葉樹)が長年植林され、単純林になっている。このような人工林は地下水の減少と害虫に弱い。これからは温暖化と害虫に強い混交林が必要だと言われているが、このような森が育つには30年は見込まなくてはならない。

農業も地下水の水位が下がったために、被害を被っている。作物が十分に育たず、収穫量が減ってしまっているのだ。農業も温暖化に強い作物を探し、作付けしないと、ますます土壌は乾燥し、サバンナ化してしまう。農業は大規模化が進み、雑草や害虫駆除のために除草剤を大量に投入しているが、そのため蜂蜜用の蜂を含めた昆虫が駆除されてしまっている。その結果種の絶滅が進んでいる。

例えば、30年前にはアウトバーンを走ると、フロントガラスに昆虫がぶつかり、びっしりと張り付いたものだが、最近はほとんどいない。さらに大規模養豚場の屎尿を畑に撒いているため、地下水の硝酸塩が増加し、飲料水にも悪影響を及ぼしている。そのため農業の抜本的な改革が求められている。有機農業が一つの解決策だが、大規模農業には向かない。農民たちは、安価農産物の大量生産、大量消費のツケが自分たちに回されて、自分たちだけが悪者にされていると激しく反発している。

彼らは、農業政策が環境問題に偏っているとして、ベルリンやミュンヘンなどの都市で、数百台から数千台のトラクターに乗り、大きなデモを何回もしている。9月には農民救済案を練るために政府の「農業の将来委員会」がやっと発足した。10月21日にはEUがやっと重い腰を上げ、これまでの規模のみを基準とする補助金制度を部分的に改め、有機農業も基準にすることを決めた。

高レベル放射性廃棄物の最終処分場選び

9月28日に高レベル放射性廃棄物の最終処分場立地を選定する連邦放射性廃棄物機関が3年間の作業を経て、候補地を発表した。粘土層、岩塩層、花崗岩層に分類される90箇所の候補地は純粋に地質学的な観点から選ばれた。候補地の分布はドイツの半分もの面積に及んでいる。首都ベルリン地域も候補の一つだ。これからさらに2031年までに最終候補地を絞る。その後直ちに処分場建設を開始し、2050年から搬入し始める。計画通りに実現すると思っているドイツ人はいないだろうが、とにかく一歩踏み出したことになる。ちなみにドイツは2022年には全ての原発のスイッチを切る。

II.コロナウイルスに苦しむドイツとヨーロッパ

コロナ禍におけるネオナチ

ドイツは市民社会運動の盛んな国として知られている。ところが、コロナウイルスが広がるに従って、政府は基本的人権を大幅に制限するロックダウンを行なったが、市民社会は全く抗議しなかった。不思議なことに、ロックダウンが解除されると、人権制限に対して真っ先に 反対行動を起こしたのは、AfD(「ドイツのための選択肢」)などの右寄りの政党や極右である。

具体的には、ナチスを含めた旧ドイツ帝国の存続を認める「帝国市民」運動の支持者、反イスラムで白人至上主義を唱え、憲法違反すれすれの活動をしている極右の「アイデンティタリアン運動」グループに加えて、コロナ謀略説を信じる人たちであった。謀略説には、「コロナウイルスなどは本来存在せず、マイクロソフトのビル・ゲイツなどが世界制覇を目指して、流した謀略だ。メルケル首相もそこに加担している」などがある。

彼らは8月29日に4回目のデモをベルリンで行った。事前に2万人の参加者数が警察に届けられていた。それに対してベルリン市政府が、同デモ隊は感染予防の規則を守らないだろうからという理由でデモを禁止した。デモの主催者は直ちにベルリン地方裁判所に訴えた。すると裁判官は、憲法が保障する基本的人権である表現の自由に対して、デモの禁止は適切ではないとして、禁止令を差し止めた。

ベルリン警察は4000人の警官を配備して、警備にあたった。デモには3万8千人が参加したと後で発表された。中心デモは平和的に行われたが、数百人の極右のデモ隊が国会議事堂(帝国議事堂)に押しかけ、ナチスも使っていたドイツ帝国軍旗を掲げて議事堂内に押し入ろうとした。その際議事堂は3人の警官しか警備に当たっていず、押し破られそうになったが、急遽20名ほどの警官が駆けつけ、なんとかデモ隊を押し返した。

帝国議事堂は1933年にナチスの放火により一度破壊された苦い過去があるだけに、ドイツ中が憤慨した。メルケル首相やシュタインマイヤー大統領も民主主義のシンボルである議事堂がネオナチに蹂躙されそうになった上に、ナチス時代にも使われていたドイツ帝国軍旗が議事堂に掲げられそうになったことに衝撃を受けた。

キリスト教与党はコロナ危機の勝ち組?

10月9日のZDF(第二公共放送局)のアンケートによると、政党の支持率は与党のキリスト教両政党(CDU/CSU)が37%、緑の党が20%、連立与党の社民党が16%、AfDが10%、左翼党が7%、自民党が5%となっている。ちなみに一年前は、それぞれ28%、26%、15%、13%、8%、7%であった。両キリスト教政党の支持率が大幅に伸びたのがわかる。

同アンケートによると、政府のコロナ対策を「国民の64%が適切である。23%がもっと厳しくすべき。12%がやり過ぎだ」と答えている。つまり、87%が正しいとしている。いかに政府への信頼が厚いかがわかるというものだ。国会選挙は一年後に行われるが、それまでにコロナ危機がどこまで収まっているかによって、政党の支持率が左右されるだろう。ただ、メルケル氏引退後の政権は緑の党抜きには考えられない。

自粛要請と罰金制と法治主義

夏には1日当たりの新規感染者の数が、4月の最高値の6000人から500人以下まで下がり、国民も一息ついた。ところが、秋になると増え始め、10月には2000人から4000人、さらに6000人以上と最高値を塗り替えるまでになった。そして10月20日には1万人の大台を超え、減る兆しが見えない。

夏休みの外国旅行からの帰国者、それまで控えていた結婚式などのパーティ、若者たちのパーティにおけるコロナ・ルールの無視あるいは軽視、加えて寒くなるにつれて屋内での生活が増えたことが主な原因とされている。感染者の多くが20代から30代である。そのせいか、症状も軽い。現在のところ、集中治療中のコロナ患者は1500名―春の最高値は2850名―を超えている。

規制は緩和されているが、小売店、公共交通機関などではマスクの着用が義務だ。飲食店では、客の数は制限されている上に、入店時に感染経路追跡のために名前と連絡先を書かせる。映画や劇場にも同様の規制がある。家族のお祝いは、25人まで許される。教会も制限された人数なら礼拝ができる。サッカーは会場の収容人数の20%まで観客が入れる。電車などでマスク着用をしていない場合、6000円の罰金。飲食店などが違反すると、6万円から複数回の場合は600万円までの罰金が科せられる。悪質な違反の場合には営業許可が取り消される。ちなみに売春業にも営業再開の許可が下りた。しかし、これらの規制は、後述するようにロックダウンにより大幅に厳しくなる。

10月19日から公共施設職員のストが始まった。看護師や保育士なども参加している。組合は4.8%を要求しているが、自治体側は財源の枯渇を理由に3.5%の回答をしている。医療関係者はロックダウンの際には、ウイルスの最前線で頑張り、毎晩拍手をされたが、待遇改善には繋がっていないと言って、今回のストの正当性を主張している。国民は理解を示している。

多くの自治体では、感染状況が市民に分かりやすいように、緑、黄色、赤のコロナ信号システムを導入し、発表している。新規感染者の数が10万人に対して過去7日間で20人以下なら緑、それを超えると黄色、さらに30人を超えると赤になる。50人を超えると、コロナ感染危険地域になりより厳しい規制が導入される。現在400の行政区域(自治体と重なる場合もある)のうち半数以上とベルリンなどの大都市が超えている。

このような厳しい感染状況を受けて、メルケル首相は9月30日に議会で、冷静な彼女としては珍しく、感情を込めて、「これまで私たちがコロナに対して達成した成果が水泡に帰してしまうかもしれない岐路に立っています。今は我慢のしどころです。ウイルスに勝利するには、寒くなる季節に向かって一層の努力が必要です。一人一人が責任を持って行動してください」と国民に訴えた。さらにポドキャストを通じて、頻繁に国民に事態の深刻さを訴え、最終的には国民の手に握られていると訴えている。

しかし、春の第一波の時には国民は政府の規制措置に「挙国一致体制」のように積極的に従っていたが、夏に規制緩和を経験してからは、そのような緊張感はなくなり、簡単には従わなくなっている。

ベルリンなどの大都市では感染者の数が10万人に対して50人以上に達し、いわゆるリスク地域になっているので、バーなどの営業時間を夜の11時までと制限した。ところが、早速数軒の店主が不適切であると訴えたら、行政裁判所は訴えを認め、11時の制限時間を差し止めてしまった。他の州では危険地域からの旅行者の宿泊を禁止したが、ホテル側の訴えによる裁判があり、政府の規制を不適切としている。このように個人の権利に制限を加えようとするコロナ対策は、司法により歯止めがかかっている。これは健全な法治国家の証拠であるともいえるが、行政にとっては痛し痒しだ。

個人及び零細企業の経営者は、第一波の休業期間はなんとか乗り切ったが、さらに店の営業時間や顧客数の制限による減収には耐える経済力はない。コロナ危機にはアマゾン社などのデジタル技術を柱とする勝ち組はあるが、毎日お客と接触しながら営業するアナログ産業には人との接触禁止及び制限は致命的である。人を相手にする音楽、パフォーマンス、芝居など文化的な産業にも同じことが言える。もう限界だという声が聞こえ始めた。

保育所や学校は夏休み以降再開し、学校では対面授業が行われているが、すでに全国で10万人以上の生徒たちが隔離されている。ここ20年来の新自由主義経済の下で学校予算を渋ってきたので、デジタル化の遅れに加えて校舎の老朽化問題がコロナ禍によって先鋭化している。窓も開けられず、空気の入れ替えもままならない教室が少なくない。

ヨーロッパ中が危険地帯になり、都市封鎖で対応

10月に入ってから、ヨーロッパの国々では感染者数が爆発的に増加している。それを過去7日間の10万人当たりの感染者数で見てみよう。10月14日と12日後の26日の数を併記する。フランス182人→262人、スペイン128人→232人、英国157人→227人、ベルギー234人→800人、オランダ254人→361人、チェコ373人→784人、イタリア58人→185人、ドイツ34人→86人である。ちなみに日本は4人前後で、この期間ほとんど増えていない。

感染者数が50名を超えると、危険地域に分類されるが、ドイツを囲む国々は真っ赤な危険地域ばかりである。ドイツ国内も、赤の危険行政区域は連日増加し、地図で見ると、赤い地域の方が多いぐらいである。

感染経路を追跡し、さらなる感染を防ぐ役目を任されている保健所はマンパワー的にすでに能力を超えている。いくつかの都市では国防軍の兵士が追跡作業の手助けをしている。だが、赤信号の灯った地域では、すでに迅速な感染経路の追跡が不可能な数になっている。ということは、感染者数を強硬手段によって追跡可能な数にまで減らさなければいけない。そのため感染状況が上記のように悪化したヨーロッパの国々では、ロックダウンという「劇薬」―劇薬は効用もあるが、毒性も強いーを導入し始めた。

ドイツもロックダウンを導入

危機感を一層募らせたメルケル首相も10月28日に16名の州首相とビデオ会議を開き、11月2日(月)から一か月間のロックダウンの導入を決定した。 「経済的、社会的に非常に厳しい制限だが、楽しいクリスマスを迎えるために、この数週間を苦しみながらも乗り切った方がいいと判断した」と発表した。

飲食店やホテルや映画館は閉鎖。コンサートや集会も禁止。保育所と学校はこれまで通り開かれる。スーパーや小売店も営業できる。企業の経済活動は継続される。 スポーツは個人による以外は禁止。サッカーなどのプロスポーツは無観客試合になる。会合は10人まで許される。公共輸送機関などでのマスク義務は、厳しく取り締まる。警察官の数が足りないので、国境などの警備に携わる連邦警察官が支援している。支援策として、今回の営業停止で被害を受ける企業や個人は、昨年の11月の収入証明書を提出すれば、国が75%まで支給する。そのために政府は1兆2億円の緊急予算を計上した。

様々な業界団体代表は、この11月のロックダウンが果たして効果的で、適切な対策なのか疑問なので、憲法違反として裁判に訴えると発表している。確かに、このような都市封鎖がコロナウイルスに対して果たして有効な対策なのかという疑問には、ウイルス学者も疫学者も明白に答えていない。他に有効な手段が見つからないので、仕方なく都市封鎖をするという手詰まり感を感じる。

都市封鎖によって経済面だけではなく、人々は心理的にも立ち直れないダメージを受けるだろう。一度倒産した店を再び開店するのは簡単ではない。つまり、 長期の不況に陥る可能性が高い。ワクチンも薬も一般の手に渡るのは早くても来春であると言われている。それまでは、夏のような規制緩和と11月のような規制強化を繰り返しながら、コロナとの苦しい闘いは避けられないようである。

コロナウイルスが西洋の没落を早める?

コロナによる経済的、社会的被害がヨーロッパ社会の基盤を脅かすまでに至っているという印象を受ける。政府による財政赤字を増やしながらの経済的な救済対策―株価は一年前のレベルに戻っているがーでは防ぎきれない段階に達しつつある。回復には数十年かかるかも知れない。回復された社会も元の社会とは全く違った社会になってしまうだろう。

コロナウイルスが基本的人権を尊重する西洋文明社会の没落を早めているという印象を持ってしまう。その上気候変動による社会の変化、車社会の変革が及ぼす産業構造の変化についていくのにもヨーロッパは苦労している。それに比べて、東アジアはコロナの被害も軽いので、回復も早いだろう。21世紀はアジアの世紀と言われていたが、まさにその実現がコロナによって加速されるという印象を拭いきれない。基本的人権を全く尊重しようとしない中国型の強権的な体制が勝ち残っていくのかと思うと、暗い気持ちになってしまう。

                 (ベルリンにて 10月30日)

ふくざわ・ひろおみ

1943年生まれ。1967年に渡独し、1974年にベルリン自由大学卒。1976年より同大学の日本学科で教職に就く。主に日本語を教える。教鞭をとる傍、ベルリン国際映画祭を手伝う。さらに国際連詩を日独両国で催す。2003年に同大学にて学位取得。2008年に定年退職。2011年の東日本大震災後、ベルリンでNPO「絆・ベルリン」(http://www.kizuna-in-berlin.de)を立ち上げ、東北で復興支援活動をする。ベルリンのSayonara Nukes Berlin のメンバー。日独両国で反原発と再生エネ普及に取り組んでいる。ベルリン在住。

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