コラム/沖縄発

焦土作戦の悪夢、再び

ミサイル配備・コロナ渦と沖縄、やはり自己決定権へ

沖縄国際大学非常勤講師 渡名喜 守太

河野太郎前防衛大臣が秋田県と山口県で進められてきた地上配備型迎撃システム「イージスアショア」の配備計画の停止を表明し、安全保障会議で決定した。理由は、現状ではミサイル発射後に空中で斬り離されるブースターを演習場内に確実に落下させられず、住民の被害を防ぐためには新たな技術開発と、膨大なコストがかかるためである。それ以上に地元の根強い反対が政府を断念に追い込む力になったと思う。秋田県知事も反対を表明し、去年の参議院選挙では秋田の有権者は自民党の候補者を落選させた。そして地元紙である秋田魁新報、山口の長周新聞などが住民の反対を支えた。

これを受けて玉城知事を筆頭に、沖縄から政府に対してダブルスタンダードだとの批判の声が上がった。辺野古新基地建設には、それ以上の巨額の費用と時間がかかるのである。そのような費用は、震災の被災者や豪雨災害、コロナ禍で苦しむ人のために使うべきだと思う。

秋田・山口両県でのイージスアショア配備計画断念を受けて、自民党内部からも辺野古新基地建設強行に対する異論が出てきた。イージスアショア配備計画停止と沖縄への対応の違いに関して辺野古とのダブルスタンダードを批判する論調が目立つが、ミサイル配備問題という点では宮古、石垣の自衛隊問題にももっと着目すべきだと思う。

  ◇   ◇

宮古島や石垣島にも地対艦、地対空ミサイルの配備が予定されている。しかも、地対艦、地対空ミサイルは攻撃用であり、真っ先に敵の攻撃目標にされる。イージスアショア配備計画断念後、安倍晋三前首相は敵基地攻撃能力保有を主張した。このことについて専門家からも現実的観点から批判が上がっている。イージスアショアの配備停止を受けて自民党はミサイル防衛のあり方に関する検討チームの会合を開き、代替案として1300キロメートル以上の射程距離を持つトマホークミサイルの配備論や敵基地攻撃能力の保有などを検討し、「相手領域内でも弾道ミサイルを阻止する能力の保有」という事実上の敵基地攻撃能力の保有を盛り込んだ政府への提言をまとめた。

提言では北朝鮮の脅威にとどまらず、中国やロシアの極超音速兵器の開発にも触れ、専守防衛の逸脱のみならず、仮想敵国の範囲も広がっている。

このことに関してもう少し具体的に考えてみると、日本からの敵基地攻撃能力を持つ兵器と言えば、F35戦闘機、F15戦闘機搭載の長距離巡航ミサイルが考えられるが、これが南西諸島に配備される危険性が指摘されている。もし仮に日本が北朝鮮にとどまらない、中国も含めた敵基地攻撃能力保有に踏み切れば、南西諸島に配備される自衛隊のミサイル部隊が敵基地攻撃に転換される危険性がある。敵基地攻撃能力保有でも南西諸島が拠点とされる危険性が高いのである。凄まじいミサイル戦争が沖縄で展開されると予想され、そうなれば文字どおり一木一草残さぬ焦土と化すだろう。

南西諸島が日米による対中国ミサイルの防波堤とされ、韓国に配備されたTHAADとともに、日米韓による対中国ミサイル包囲網ができ上がる。沖縄戦の原因となった絶対国防圏や捷号作戦を思わせる。

1943年9月に決定された絶対に確保すべき範囲として絶対国防圏が定められたが、この一部が現在の第二列島線であり、サイパン陥落で絶対国防圏が破られた後、大本営は日本本土の防波堤として捷一号作戦、捷二号作戦を発動した。捷一号作戦がフィリピンでの決戦であり、首都マニラ失陥後に台湾・南西諸島で決戦を行う捷二号作戦を実行した。これらが現在の第一列島線に当たる。第一列島線の「防衛」、南西諸島の軍備強化、しかも、敵基地攻撃の拠点とすることは、再び日本の楯、防波堤としての沖縄戦を行うと宣言しているようなものである。

沖縄の軍事化を推進する側は、海兵隊の存在は抑止になるとか、自衛隊は沖縄を守るために必要と主張する。しかし、ミサイル戦争時代に海兵隊の存在がどのような抑止になるのか疑問である。海兵隊には飛んでくるミサイルを撃ち落とす任務を負う組織ではない。海兵隊による抑止を主張する人たちは、もしかすると核兵器による抑止を考えているのではないかと疑ってみる必要がある。

また、自衛隊によって住民が守られるという考えも的外れである。自衛隊の統幕議長を務めた栗栖弘臣氏が著書で、自衛隊の任務は国の独立を守ることであり、個々の国民の生命を守ることではないと述べたことを持ち出すまでもなく、法制度上、戦争などの事態が起きた場合に国民の生命を守る責務は自治体にある。国民保護法によれば、都道府県や市町村はそれぞれ国民保護計画を作成し、それに基づいて住民の保護を行うのである。

ちなみに、宮古島市と石垣市、与那国町の国民保護計画を見ると、ミサイル攻撃など武力攻撃を受けた際の住民保護について職責放棄したとしか思えない内容である。空港や港湾施設が軍隊によって優先的に使用され、敵の攻撃目標となるなかで、数万人の住民を短時間で住民を島外へ避難させることは無理だろう。必然的に多数の住民が戦場に取り残されることになると考えられる。そのようななかで行政が住民を避難させ、安全を確保するのは無理だろう。

沖縄へのダブルスタンダードは日本政府だけではない。右派の言論人や右傾化した世論にもダブルスタンダードが見られる。イージスアショア配備に対する秋田と山口での反対に対して、日本の右派言論人や世論は沖縄に対するほど批判的ではなかった。去年、丸山穂高氏が北方領土をめぐる発言で元住民から反発を受けた際も、右派言論人や世論は元住民の立場に立ち丸山氏を批判した。辺野古新基地建設に反対する沖縄戦体験者への反応とは正反対である。日本の世論が沖縄の反戦平和を攻撃するのは、沖縄に対するヘイト感情が根底にあるからである。

◇   ◇

コロナ禍に関する日本政府の沖縄に対する対応はまさしく棄民政策であり、再び沖縄を焦土化するための予行演習に思える。

沖縄は5月1日から7月7日まで新型コロナウイルスの新規感染者0を保っていた。7月4日のアメリカ独立記念日を祝うパーティーが開かれ、そこに米軍関係者数百人が参加して集団感染を引き起こした。7月、8月は米軍の人事異動の時期にあたり、大勢の米軍関係者が沖縄に移動して来る。沖縄に来る米軍関係者は日米地位協定によって入国手続きを免除されており、新型コロナウイルス感染の有無を調べる検査も受けていない。このように米軍に由来する感染経路が浮き彫りになった。

7月22日から政府によるGo Toトラベルキャンペーンがスタートした。7月後半の連休に合わせてドタバタのなか、急遽前倒ししてスタートだった。スタート前から首都圏で再拡大していた新型コロナウイルスを地方に感染拡大させると懸念されていた。青森県の宮下宗一郎むつ市長はGo Toトラベルキャンペーンで感染拡大地域から地方へ人が移動して感染を広げたとしたら人災とまで言い切った。案の定、Go Toトラベルキャンペーン開始早々、沖縄では観光客の感染が確認された。その後米軍ルートの感染拡大とともに瞬く間に感染者が急増、市中感染が拡大し離島にまで感染者が広がった。

沖縄本島もそうだが、医療体制の脆弱な離島での感染拡大は重大な問題である。糸数公保健衛生統括監は、市中感染がかなり広がっており、人が集まるところには陽性者がいると思わなければならないという旨の切迫したコメントをしている。沖縄は人口10万人あたりの新規感染者数が東京を抜いて全国一多くなった。これまで感染を抑えてきた沖縄において、このタイミングで感染者が急増したのは、外からウイルスが持ち込まれたと考えるのが自然だろう。だとすれば、これはGo Toトラベルキャンペーンを強引にスタートさせた政府による人災だろう。

それにもかかわらず、当時の菅義偉官房長官は、軽症者、無症状者用の宿泊施設確保は都道府県の役割りであり、沖縄県は宿泊施設の確保が不十分で、政府から何回も宿泊施設を確保するように促しているという趣旨の発言を行った。要するに政府は、沖縄での感染者拡大の責任を沖縄側に転嫁しているのである。

これに対して沖縄県からも、沖縄県は国と調整しながら計画どおりに宿泊施設の確保に取り組んできたと反論がなされた。県は国の要請を受けて8月上旬に利用を予定していた那覇市のホテルを7月下旬に前倒しして利用開始したが、国が急遽Go Toトラベルキャンペーンを大幅に前倒ししてスタートさせたために観光客によるホテルの利用と、感染者の急増に宿泊施設の確保が追い付かなかったのである。これは沖縄側の責任だろうか。もはや言いがかりや嫌がらせというほかないだろう。

観光庁は感染者が出た宿泊施設に関して、積極的に情報収集する意思がなかったことを野党の合同ヒアリングで暴露している。日本政府は米軍の感染拡大発覚後も検査の義務づけなどの有効な対策を打たなかった。7月下旬になってようやく日本に入国する米軍関係者全員にPCR検査が実施されようになったが、8月になっても、北谷町の隔離用借り上げホテルにはPCR検査を受けずに米軍関係者が宿泊しているといわれる(タイムスプラス2020年8月7日記事)。最近では、先島に「視察」に行った自民党の沖縄県議12人の集団感染が起きた。

◇   ◇

このような日本政府の無為無策、不作為をみると、沖縄に対する焦土作戦に思える。福島での原発事故でも、被曝の安全基準値を大幅に引き上げ、避難のために故郷を離れた住民を戻す政策をとっている。これと通じるものがあると思う。要するに国策による死を国民、特に弱者に受容させる方策である。弱肉強食の新自由主義路線とも方向性が一致するだろう。沖縄は再び日本によって犠牲にされないように、生き延びるために国際法で認められた自己決定権の実現に向かうべきだと思う。

となき・もりた

1964年那覇市生まれ。沖縄国際大学非常勤講師。東洋大学大学院博士後期課程中退(歴史学)。古川純編「『市民社会』と共生」に「琉球先住民族論」所収。

コラム

第24号 記事一覧

ページの
トップへ