編集部から

編集後記

――「課題の一致・批判の自由・行動の統一」、これが統一戦線の原則だ

●雑誌『現代の理論』は短命の第一次が1959年。第二次が64年から89年の四半世紀。新たに2004年に出発した第三次『理論』は、14年にデジタル発信となり本号で8号を迎えることができた。旧来からの読者、毎日のように寄せられる発信希望の新たな読者に支えられています。編集委員会一同、改めて感謝いたします。今後とも叱咤激励をください。

●本号特集は「転換する時代」とした。戦後70年を経て日本は何処にいくのか、暗黒の戦前へ逆走するのか、子供や孫たちの将来はどうなるのか真剣に危惧する人は多い。アベ晋三はその政策を7月の参院選に政治利用するのに必死であり、なりふり構わぬバラマキも横行している。その狙いは戦後保守というよりウルトラ保守(右翼)の見果てぬ夢であった憲法改定―9条改悪への執念である。参院選は改憲勢力が参院でも三分の二を握るのか、阻止するのかの政治決戦である。時代の転換は暗い方へのベクトルが強いのかと危惧するが、昨年の戦争法案阻止の若者や若いママたちの決起、そして国民の多数は今なお反対である事実など希望もある。

●今後の日本政治を占う試金石と言われた北海道5区、京都3区補選。京都は自民の不戦敗だが、注視すべきはおおさか維新の惨敗である。おおさか維新は公明党より危険なアベ別働隊であり、橋下徹が一歩引いた政治力を見るうえでも重要であった。トリプルスコア―で民進党の泉候補が勝った。ただ油断は禁物。おおさか維新の玉が悪く、落下傘で、選挙区半分の地域の呼び名である“乙訓―おとくに”を読めなかった。そらアカンわ、であるが。さて真剣勝負の北海道。市民力を軸に野党統一の無所属・池田候補。町村信孝の弔い合戦で自衛隊票の多い地域。当初はまずダメと言われていたが、野党共闘や本人の人柄・キャリアなどで激しく追い上げ、直前の情勢調査や自民党の調査でも互角との報道が出た。アベは狼狽したようだ。アベ先頭の自民の総力戦。結果は善戦ではあったが敗北。投票率や九州の地震の影響の指摘もあるが負けは負け。次に生かすプラス思考の総括が必要だろう。本誌にもよく登場願うコラムニストの早野透さんは、自民党関係者は「首の皮一枚の辛勝」と言っていると。また「場合によっては衆院選とのダブル選挙を決行し、衆参で大勝利を得て、念願の憲法改正に取り組むことをもくろんでいたかもしれない。しかし、こんどの補選、安倍さんは勝つには勝ったが、『首の皮一枚』の辛勝ではそれはむりである」との見立てだ(朝日デジタルの「新ポリティカにっぽん」)。その早野さん、野党共闘への共産党対応で「共産党はルビコン川を渡ったようですね」と。いよいよ7月の政治決戦―野党の共闘しか勝目はなくアベ打倒への道はない。その昔、『現代の理論』に参集する大先輩が統一戦線の論理は、「課題の一致・批判の自由・行動の統一」と論じた。今まさにそれが問われているのだ。民進党の一部保守派は自戒せよ。

●これも時代の転換点か。喧騒のアメリカ大統領予備選挙。トランプは“安保ただ乗り、日本も核武装”と言い出す始末。右翼アベ一派は連動する危険性あり、厳重注意が必要。さらにサンダース現象。日本も同じだが格差社会―奨学金返済地獄への若者の反乱、そして明確な反戦の意識もあり、クリントンへ影響与えるのは必至とか。オバマの広島訪問―演説は実現するか。大いに意欲はあるようだ。任期あとわずかなオバマ。キューバとの国交を回復。就任直後の“核なき世界”を訴えたプラハ演説に続き、歴史に残る行動になるのか興味深い。まあアベの選挙利用があっても、やはり注目だ。プラハといえば、“人間の顔をした社会主義”を訴え、ソ連の戦車に潰されたチェコ共産党のドプチェックの“プラハの春”からもう50年近い。歴史は動く。
 オバマ外交や核問題を追求してきた金子敦郎さんに「オバマ外交を大統領選の争点に」を寄稿いただく。大統領選をめぐって日米関係論の第一人者・春名幹夫さんにも登場願った。今西光男さんは、「安倍晋三政権とメディアの関係」でメディア支配の中身を深くリアルに明らかにする。水野博達さんが「壊れ始めた介護保険と老後生活」と深刻な問題提起。一方、若手の女性陣が、戦後共産党史分析や60年代社会運動を東大全共闘の山本義隆さんの著作から読み解く。本号「連載・抗う人」で西村秀樹さんは今回先日逝去された上田正昭さんを急きょ取り上げる。西村さんから送られてきた原稿のタイトルには「日本を敗戦に導いた皇国史観に抗い、天皇と部落解放同盟と共に親しく接し、司馬遼太郎の歴史観へ決定的な影響をおよぼした東アジア古代史研究の第一人者~上田正昭」とあった。長すぎて本文では短くしたが、筆者の思いはこのよう。部落解放の松本冶一郎賞を同時受賞した沖浦和光さんも昨年逝去。本誌30号の「抗う人」で取り上げる。沖浦、上田さんの相次ぐ逝去、ここにも時代の流れを感じる。

●この間、編集委員に加わり編集作業に協力いただいている北川徹君を紹介します。彼は“洛中”生まれの根っからの京都人。京都大の理学部数学科を英語力で合格したとのめずらしい男。就職後は機械の制御システムの開発に従事。本人は事務ソフトは分からんと言ってますが、デジタル発信の『理論』としては大いに期待しているところです。 (矢代)

●北川徹です。『現代の理論』は学生時代からの愛読書でした。本業がありますが微力ですがお役にたてればうれしいです。よろしくお願いします。 (北川)

●昨年10月の中国北京出張に続き、4月上旬に出張で上海に行って来ました。至極当然のことながら、人の多さとインフラ整備の充実に驚きながらも、あらためて一つ気がついたことがありました。それは「中国は伝える文化であり、日本は察する文化である」ということ。町で買い物をした際にも、地下鉄の切符を買う際にも、出したお札を戻されながら何か不満そうに話をされる。「もっと少額のお札はないのか?」ということらしい。また、食堂で食事をしていると知らない女性が熱心に話しかけてきて、不思議に思っていると「このメニューは美味しいのか?それなら私も注文したいのだけど」という話をしているらしいのです。果ては、全ての公共バスがということではないのかもしれませんが、バスに降車ブザーがなく、降りる際には事前に運転手に伝えなければ降りられないということも(笑)
 日本人の私にとっては違和感や不便を感じることもあったのですが、例えば電車やバスなどでの座席の譲り合いはなんともスムーズなのです。それも、座席を譲る相手に一言声をかけて、周りの人もその声を聞いて道をあける。なかなか日本では目にすることのできない心地よい光景に何度も出会うことができました。中国人観光客の激増の影で、「中国人はうるさい」や「何でも要求してくる」などマイナス評価を耳にすることがよくありますが、それぞれの対人交渉文化に良し悪しがあるのだなと強く実感した中国出張となりました。 (今井)

●東北のある高校で授業をしていたとき、小さな地震があった。「お母さんに会いたい」。ある生徒はこういった。揺れがはじまった瞬間、泣き出す高校生の姿もあった。東日本大震災を経験したのは彼女/彼らが小学生の頃。「あれから」、5年が経つ。子どもたちの心の傷はまだまだ癒えない。そして、こんかいの熊本地震。震度7の地震が2度あり、震度5弱~6強が続発。余震はまだまだやまない。「無事に朝を迎えられた」と声を震わせる人が何人いるだろう。子どもたちの不安や恐怖ははかりしれない。「これから」、5年経とうが心の傷は癒えないのかもしれない。日常的には子どもの心のケアに家族があたっているだろう。だが、ケアする人も人間である。疲労は限界にきているはずだ。ケアする人のケアが必要だ。目に見える被害はもとより、目に見えない被害に対しても、政府は長期的に支援してほしい。5年後、成長した子どもたちが、小さな地震で涙を流す姿をみるのは、苦しすぎる。安心して朝を迎えられる日が一日でもはやく来ることを願ってやまない。 (米田)

季刊『現代の理論』2016春号[vol.8]

2016年5月1日発行

編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

〒171-0021 東京都豊島区西池袋5-24-12 西池袋ローヤルコーポ602

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郵便振替口座番号/00120-3-743529 現代の理論編集委員会

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