編集部から
編集後記
――驕れる者久しからず、盛者必衰は世のならい
●この欄で、アベ晋三批判のフレーズとしてよく使った“驕れるもの久しからず、盛者必衰は世のならい”が、やっと現実のものになりつつある。この間のアベ内閣への支持率の急落は衝撃的であった。7月の時事通信や毎日新聞の世論調査では20%代にまで下落。政界に緊張が走った。また専門家が指摘するのは不支持率が支持を大きく上回っていること、また女性層の不支持が増えると、なかなか回復しないことである。それも政策ではなく、アベの人格・人間性を信用できないとの理由が最多、これは深刻である。一番驚きショックを受けたのはアベかもしれない。“もり・かけ”問題や共謀罪法の強行に見られるアベの露骨な権力主義―傲慢な驕り。平気でウソをつき続けるアベや政府の隠ぺい体質が白日の下にさらけ出された。支持率急落は当然の結果である。これで、安倍の顔を見たり、声を聞くと心身症になると危惧していた”政治的ストレス症“の人たちが少しは救われるのではと思う。8月3日、アベは生き残りをかけての内閣改造を打った。河野太郎や野田聖子を入閣させるなどなりふり構わず延命をはかる。一定の支持率回復後、果たしてどのような推移をたどるか。
民進党は代表選挙に向う。それにしても民進党の内紛は、アベや自民党に塩を送っている行為であることを関係者は真剣に自覚・猛省すべきである。野党共闘が一つの争点のようだが、その原点は以前この欄で触れたが、”課題の一致・批判の自由・行動の統一“だ。同時に何よりも問われているのは有権者たる我われである。あらゆる場で声をあげよう。
●本号巻頭で本誌代表編集委員の住沢さんが、昨今の政治分析を、“虚構を現実化しようとした安倍晋三の悲劇”“ 保守結束のシンボルとしての改憲論”との角度から論じる。岸信介やアベの悲願である9条を中心とした憲法改正。その昔、ある政治学者が、9条によって軍隊を否定された日本のことを“ブルジョア半国家”と呼んだ。ブルジョア完全国家へ、憲法改正―軍隊の保持・明文化は、戦後保守層の見果てぬ夢なのである。アベの暴走の被害はまだ日本限定であろうが、世界の大国―アメリカの暴走の被害は全世界に及ぶ。トランプ大統領が誕生して6か月。その政権はもう無茶苦茶である。一日新聞を読まないと何が起こっているか理解しづらいようなことになる。トランプ政権はそのうち親族だけで運営となりかねない。しかし笑い話で済まされないほど世界の人々への影響は大であり、一日も早い弾劾を祈りたい。金子敦郎さんにアメリカートランプを継続的に分析願っている。さてその現段階は・・・。トランプの「破滅」が始まった、と分析されているが、「中東」や「北朝鮮」でのトランプの暴発を懸念されている。世論調査で、トランプが大統領で「恥ずかしく思う」が50%を超えているのがせめてもの救いであるが。
また松尾秀哉さんが、フランス大統領選をふまえ「吹き荒れるポピュリズムの行くえ」を分析。このポピュリズムは日本も無縁ではない。その日本、叶芳和さんは中国分析をつうじて「・・遅れる日本」、松下和夫さんもパリ協定をめぐって「・・世界から取り残される日本」と期せずして指摘。「夜郎自大」というか、どうもおかしいアベニッポン。政治のみならず社会の諸領域でも“劣化”が進むニッポン。
●「君は日本を知っているか」の連載も第10回。若い世代への問題提起をとはじまった橘川俊忠さんの企画。今回は「隠居は単なる退隠にあらず―昔、人は隠居して自由になった」。タイトルだけみれば、のんびりした“隠居話”のようだが、実は近世・近代日本の支配と被支配の根幹をなす家族制度にかかわり、天皇制や天皇の退位問題にもからむと。ご一読を。(矢代 俊三)
●衆議院議員・阿部知子さんのインタビューは、現在の政治の劣化を鋭く指摘している。原発を軸とする環境破壊と地球的気候変動が、取り組むべき政治の重大課題であるのに、そのことが一顧だにされない。一方医療・福祉の現場では、人が人を支えるという基本が忘れられ、金儲けのための「事業」に税金が投入されてしまっている。この閉塞状況こそが安倍政権の支持率暴落の原因であり、「敵失」を喜んでいる暇はないということだ。
●今号のアーカイブは、いずれも、連合会長・経験者のインタビューを取り上げた。読んでいただければ驚かれるだろうが、極めて短い期間で連合が自民党政権にすり寄ったことがよく分かる。政労使合意をすることになったと問題になった「高度プロフェッショナル制度」は、労働時間を一切管理しない労働者(そんなのはとても「労働者」の範疇には入らない!)をつくりだし、無制限に働く制度を生み出すものであり、また「働き方改革」として連合が認めた「月100時間未満までの残業」は、従来の過労死基準を合法化するものである。
●今号に掲載した全国ユニオンの声明は、勇気をもって弱小組合が連合執行部を指弾したものだが、これがきっかけで、連合内に批判が起こり、どうやら現時点での政労使合意は成り立たないようだ。しかし、厚生労働省の労働政策審議会では連合が労働側委員を独占し、労働法関係の整備に関して、労働者側として唯一意見を述べる立場にいる。ただ、現実には、政府の提案に事実上反対はしなくなっている。この事態をみると、もはや連合に「労働者の代表」を委ねるわけにはいかないとの思いが強くなる。秋の臨時国会は「働き方改革」関連法が焦点になると言われている。安倍政権の言う「働き方改革」はすべてまやかしなので、連合批判のみならず、政府批判も強めていくべきだ。(大野 隆)
季刊『現代の理論』2017夏号[vol.13]
2017年8月6日発行
編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会
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