編集部から

編集後記

――“驕れるもの久しからず、終わりの始まり”だ。
燎原の火のごとくアベ打倒へ

●やはり政治の世界は一寸先は闇、“驕れるもの久しからず”だ。あの戦争法案、わずか一か月前の憲法審査会で三人の学者参考人による憲法違反発言で潮目が変わった。衆院強行採決で遂にアベへの支持・不支持が逆転。衆院の三分の二で高をくくっていただろうアベは、“ひょっとすると奈落の底か”と恐怖に怯えているのではないか。専守防衛をかなぐり捨て、世界のどこでも派兵しアメリカと共に戦争ができる、その判断は時の政権に委ねられる。そんな憲法違反のふざけた法案はおかしい。そんなことをアベに白紙委任したつもりはないぞ、と若者や女性が創意工夫をこらして自主的に立ち上がった。その動きは瞬く間に全国に拡っている。憲法学者の圧倒的多数が安保法案は憲法違反だと声明。「安保法案に反対する学者の会」の呼びかけに分野が異なる学者の賛同も1万名を超えた。いずれもかつてなかった画期的な動きだ。まさに燎原の火のごとくである。その火勢は安保法案反対からアベ打倒に向かうのではないか。
 今やはり問われているのは日本の進むべき道。アベは2周遅れの冷戦思考で、中国包囲網形成に乏しい国費をバラ撒いている。もはやアジアの中の日本として、アジアとの共生の道にしか生きる道はないのは明らかだが、どう構築するか、その展望は。本号巻頭に、このテーマを一貫して追求されてきた重鎮の進藤榮一さんが久しぶりに登場。「不戦共同体を東アジア地域統合の理念として」と論陣。アメリカも利用はするが偏狭な右翼アベには内心警戒しているようだ。
 国会の戦争法案で影になっているが見過ごせないのは、派遣法改正や残業ゼロ法案などの戦後労働法制への全面解体攻撃である。もうこれはアベや今や政商の竹中平蔵、経団連のクーデターではないのか。日本に8時間労働制があり労働法があることを知らなかった自民党議員がいたとか、笑えない現実だ。“一生派遣”がまん延し、非正規雇用が激増すれば、結婚し子供を産み、育てると言う社会の再生産機能が崩壊するぞと言いたい。誰が犯人か、国立競技場問題ではないが、“無責任の体系”を許してはならない。8時間制の解体策動など人類の歴史に対する冒涜・挑戦だ。換言すれば”連合よしっかりせよ“である。本号特集は「戦後70年が問うもの Ⅱ」で多彩な論陣を張っていただいた各筆者に感謝。読者の皆さん、乞う熟読です。

●この戦争法案の衆院での強行採決や集団的自衛権の恣意的変更は、憲法違反のみならず、アベによる戦後の憲法体制解体へのクーデターだ。アベの言う”日本を取り戻す“ ”戦後レジームからの脱却“とは、この間その本質が一層露わになってきている。つまり、世界のどこにでも行って戦争できる理屈と体制をつくり、軍事力とその行使を担保にした外交への夢なのだろう。日本が戦前の5大列強の一翼であったように、軍事力を背景にした世界に冠たる日本の復活を妄想・夢想しているのだろう。これがアベの危険な本質だ。
 衆議院の国会論戦でどうしても気になったことがある。それは野党もマスコミも、“安全保障環境の変化・緊迫化”があたかも前提のように論戦されていることだ。日本は中国、北朝鮮を“仮想敵国”としているがそれがどうしたと言いたい。南沙諸島問題や尖閣を言っているが、南沙などアベですら存立危機事態ではないと言わざるを得ない。尖閣などどっちもどっち。中国は一貫して「棚上げを認めよ」だ。火をつけたのはあの暴走老人―石原、対処を間違ったのは民主党。それだけの話。アメリカの方がハッキリしている。島嶼防衛は一義的に日本の責任。“あんな岩のために米兵の血は流さない”と。そこで安保環境の変化・緊張の高まりとは一体何か、どのように危険なのか、野党もしっかり勉強・分析すべきだ。“変化だ、危機だ”と言ったものが勝のようになっている。まさに「中国・北朝鮮はどれほど怖いか」を冷静に分析することだ。これらを冷静に分析できる専門家がほとんどメディアから排除されているのが現実であり、メディア状況も深刻である。安全保障と防衛問題は違う。安全保障の要諦は、敵をつくらないこと、これに尽きる。その外交力が問われているのだ。アベの外交は敵をつくる外交だ。野党も我われもしっかりとした理論武装が必要である。
 閑話休題―久しぶりに、大阪での飲み話。“オレ、今日若い連中のデモに行ってきた。雰囲気よかったで。ひょっとしたら安倍こけよるんとちがうか”“驕れるもの久しからずー平家物語や言うてたやろう。安倍の顔を見たり声聞いたら心身症になると言ってた友人も、ちょっとは気分ええやろう。しかし安倍は悪運が強いからな”“そやけど安倍の野郎、内心往生しとんのちがうか。また身体悪なるで”“アホ、人の不幸をあてにするな。お前もう暇やろう。友だちに電話して発破かけたら。それと若い連中にカンパでもしたり”・・。“最後はやっぱり選挙やな”。40%の得票で80%の自民党議席。有権者比なら20%。いま必要なのは昔でいうたら統一戦線の構築。イタリアのオリーブの木みたいなのができないだろうか、と最後は真面目な話に。

●沖縄の苦闘は続く。本号でも3本を発信。松元剛さんは「本土にある他人事の論理を超えれるか」と問う。またコラム「沖縄発」の上間さんの内容は重い。そして沖縄の自立・独立論の一つの根拠とされる琉米和親条約等の意味について常連の後田多さん。松元さんは、あのアベ応援団の低級議員やこれまた低級の百田から「つぶせ」の対象の沖縄紙の琉球新報の編集幹部。「琉球新報、沖縄タイムスを潰せ」、これ逆説的に大変な名誉。辺野古がうまく行かないのはこの両紙のせいだ。低級のアベや悪代官のスガなど本当にそう思っているのだろう。実は小生は「琉球新報」の定期購読者。一日遅れでの到着を待っている。これが新聞だよなが実感。どう考えても本土の全国紙よりも良質。沖縄情勢のみならず日本政治もアメリカ情報も。その分析力や問題提起も鋭い。共同通信の配信を読むのも好都合だ。『現代の理論』の読者の皆さんへ、購読紙に飽き足らない方は是非琉球新報の購読を勧めます。月4855円(電子版は3075円)。やはり紙をお勧め。費用はかかりますがまず2~3か月でも購読されてはと思います。精神衛生にはいいですよ、これ請け負います(もう一つの地元紙・沖縄タイムスも頑張っています)。

●桃山学院大学元学長で本誌編集委員でもありました沖浦和光先生が7月8日に逝去されました。前夜夕食をとられ就寝。朝亡くなっておられたとか。ここ数年人工透析をされていましたが最近までお元気に活躍されていました。謹んでご冥福をお祈りいたします。まさに巨星落ちるの想いです。その生涯は波乱万丈。その業績は多方面にわたります。また大阪人特有の気さくさから全国に多くの沖浦ファンがおられ、沖浦会が形成されていました。実は89年に第二次現代の理論が休刊し。第3次が2004年に出発しましたが、その発端となったのは、沖浦さんの“君ら全共闘世代もエエ歳や、現代の理論でも復刊せよ”の発破でした。本号で哀悼の意をこめて、沖浦さんが編集・企画された第3次『現代の理論』第7号(特集「日本文化その成り立ち」2006年春)の赤坂憲雄さんとの対談。また第30号の「抗う人」-民に寄り添い差別に抗う~沖浦和光(筆者・西村秀樹)を「現代の理論論文アーカイブ欄」に急きょ掲載しました。ご覧ください。 (矢代俊三)

●この夏、ポツダム宣言を読もう。今号の橘川さんの論考を読むまで、かくいう私も「知っているが、中身は知らない」一人だった。あまり読まれていない背景には、受験「戦争」のために機会を失している側面があるという。今の高校教育では現代史まで教えれていないのだ。戦争経験が、敗戦の意味が、受験の代償になっているのだとしたら、なんのための教育だろう。本末転倒だ。本当の戦争を、敗戦の意味を、私たちは知らねばならない。ポツダム宣言4条は次のようにうたう。「日本が、無分別な打算により自国を滅亡の淵に追い詰めた軍国主義者の指導を引き続き受けるか、それとも理性の道を歩むかを選ぶべき時が到来したのだ」。あれから70年、どうしてこれほどまでに新鮮に響くのだろう。あるいはいま、私たちがこのような岐路に立たされているからだろうか。今年もまた夏が刻まれる。ポツダム宣言を読もう。 (米田祐介)

●先日、日欧の学生が出席する大学院ゼミで興味深い議論を経験しました。「自分自身にとっての愛国心とは」との問いかけに対して、日本人学生が「国を愛しているけれど、近隣諸国との関係から、口にするのは躊躇される」と告白。それに対してドイツ人学生から、「それならば、愛国心より近隣諸国との相互理解を優先するべきでは」との問いかけがあり、「対話と相互理解によって、国民国家単位の愛国心はもはや過去の遺物となりつつある」とフランス人学生。敵国として二度の世界大戦を経験した独仏両国の学生は、対話と相互理解によって国民国家の枠組みを乗り越え、愛国心を前世紀の遺物に変えようとしています。対照的に、対話すべき近隣諸国を仮想敵として設定し、愛国心の再生産を是とする日本の姿は、時代錯誤も甚だしいように思われてなりません。そろそろ日本も、殻に閉じこもるような愛国心への依存ではなく、愛国心という殻を破り、対話と相互理解による安全保障の道を切り開くべきなのではないか。本誌の課題でもあります。

●共同通信は論壇時評として「総論★各論」を毎月配信していますが、本誌春号(4号)の「沖縄発―“そんなに戦争がしたいのですか”」(親川裕子論文)が紹介されました。5月末~6月はじめ多数の地方紙に掲載されました。ウエッブ雑誌も論壇時評の対象になってきています。これも時代の流れですね。ガンバリます。(今井 勇)

季刊『現代の理論』2015夏号[vol.5]

2015年7月25日発行

編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

〒171-0021 東京都豊島区西池袋5-24-12 西池袋ローヤルコーポ602

URL http://gendainoriron.jp/
e-mail gendainoriron@yahoo.co.jo

郵便振替口座番号/00120-3-743529 現代の理論編集委員会

編集部から

第5号 記事一覧

ページの
トップへ