編集委員会から

編集後記(第38号・2024年春号)

“社会の底が抜ける時代”──内外ともに新しい政治の質が求められている

▶前号編集後記で“社会の底が抜ける”を実感する時代が到来かと指摘し、内外ともに新しい政治の質を求めていると考え今号の特集テーマとしました。

▶37号のこの欄は次のように記している。世界―日本に目をやればウクライナに見られる公然たる侵略戦争がまかり通り、ガザに見られるイスラエルとパレスチナの“戦争”、もうテレビ報道をみるのも嫌になる。どう考えてもイスラエルによる大量虐殺・民族浄化(ジェノサイド)だ。もとよりジェノサイドは他地域でも発生。統計すら困難な第一次、第二次世界大戦の膨大な人の死によって、地球上に資本主義志向であれ社会主義志向であれ、“人の命の大切さと民主主義”を規範とすることが曲がりなりにも価値とされてきた(後発の独裁国は別)。その二極の代表がアメリカでありソ連・ロシアであった。そのロシアが今や侵略の張本人となって居直り、アメリカはそのダブルスタンダードが国内外で指弾されている。そして日本では正月の能登大地震、文字通り社会の底が抜けた。人間の無力・儚さを見せつける天変地異。死者数が6千人とも2万人とも言われる首都直下型大地震や32万人と想定される南海トラフ巨大地震が我が身に到来するのでは、とリアルに感じさせる昨今である。

▶目を転じてわが日本。今の自民党(政治)をどのように表現すればよいのか読者の皆さんも戸惑っておられるのでは。同感である。政治とカネの問題をめぐってその醜悪な姿が曝け出され右往左往している姿は本当に見苦しい。「政治とカネ」は自民党の積年の宿痾であり、経済界や地元の企業、官僚と癒着して組織を維持し政治を支配をしてきたのが自民党だ。しかし先日の衆議院補選に見られた自民の三連敗は、“もはや自民党には騙されない、任すことはできない”との有権者多数の顕在化である。従来の自民支持層からも多く出たことが出口調査などで明らかとなり自民党に深刻な衝撃を与えている。無党派層の票の多くが立憲民主党に流れ、かつ共産党が支援に回ったことも大きかった。「第二自民党」を自認し「立憲潰しの選挙」など品性の無さを恥ずかしくも露呈していた維新が惨敗したことは今回選挙の大きな意義である。維新の本質は新自由主義と極右思想が合体した危険なものであり、自民党より危険な要素が強い。勿論立憲が三勝し久々の“快挙”ではあったが今後の課題もまた大きい。

▶本号の巻頭は山口二郎さんに聞くである。山口さんは政治学者(法政大学教授)で市民連合など実践にも関わる第一人者である。「終末期を迎える自民党! 果たして野党による政治改革30年の新展開は可能か」のテーマで大いに論じて頂いた。山口さんは先の補選について「立憲民主党は野党第一党の効果ということで、自民党批判の受け皿になった。しかし、楽観はできません。・・・・立憲民主党が全国政党として、自民党に対抗する旗頭になることを明らかにした点で、意味がある。だから、立憲民主党が、当面の政治改革やアベノミクスの清算について簡潔なビジョンを示し、他の野党、とくに国民民主党に働きかけることを望みます。・・・・野党協力については、東京と地方で、勝利の方程式は違うわけだから、地域事情に合わせて多様な形を構築すればよい」と。15000字に及ぶ長稿、ゆっくりと熟読下さい。

本誌の橘川俊忠さんは、補選をイデオロギー的側面から分析し現代の日本政治認識で警鐘を鳴らします。「排外主義的民族主義は混乱を糧として成長する――衆議院補選東京15区の茶番劇に潜む魔物の正体」です。(矢代 俊三)

▶衆議院の補欠選挙で自民党が全敗したと、何か世の中が明るくなるかのように言われている一方で、全く議論が見えない内に、法改悪が行なわれようとしている。大きな危機感を抱く。その中心が労働関係の法制度だ。まず、入管法の改悪である。去年成立した「難民申請中でも強制送還する」等の大改悪が、この6月10日に全面施行される一方、現在「育成就労制度」に加えて、「永住資格取消」を含む新たな入管法改悪が、衆議院で審議されている。廃止される技能実習生制度の看板のかけ替えが育成就労制度だ。技能実習生は借金を抱えて来日し、移動の自由がない「奴隷労働」につかされると批判されたために、名前だけ替えたのが育成就労だ。実際1~2年は移動の自由がない奴隷的仕組みになっている。ただ、農漁業でもこうした外国人労働者頼みは深刻で、立憲民主党でも「反対しづらい」と言う議員が地方にはいるそうだ。永住取消しは、排外主義者に媚びて「問題ある外国人は追い出すから」と、既に永住している人の資格まで取り上げる制度だ。労働力不足の日本、そのあり方をめぐり、移民政策をしっかりして、多文化共生社会を実現することが大きな課題になっている。

▶一方、本誌前号で報告した労働基準関係法制研究会は、1月以来既に毎回2時間、6回開催され、論点整理まで終わっている。5月は労使からの聞き取りで、その後労働基準法の具体的改定を準備しようとしている。例えば「1日8時間労働」などの一律規制をやめようというのが一つの大きな方向とされている。労基法の解体である。それがこの10月までにもまとめられるらしい。労働者を支える団結権も破壊されることになる。厚生労働省のホームページでは会議の資料などが公開されているので、関心を持って注視してもらいたいと思う。そして、国民的な議論を巻き起こすことを何としても実現したい。(大野 隆)

季刊『現代の理論』[vol.38]2024年春号
  (デジタル38号―通刊67号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)

2024年5月8日(水)発行

 

編集人/代表編集委員  住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

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