コラム/沖縄発

高まる卓球人気 パリ五輪も期待

「世界最高水準」で競い合うTリーグ

沖縄タイムス記者 内間 健

近年、日本で卓球の注目度が高まっている。

日本は1950~70年代、世界選手権で優勝者を輩出する世界のトップクラスだったが、その後は低迷した。

競技が初めてオリンピックに正式種目として採用されたのが、1988年のソウル大会。その当時まで不振が続き、上位に食い込めなかった日本勢だが、徐々に強化策が実る。2012年のロンドンで女子団体(福原愛、石川佳純、平野早矢香)が初の銀メダルを獲得。16年のリオデジャネイロ大会では、男子シングルスで水谷隼が銅、同団体(水谷隼、丹羽孝希、吉村真晴)が銀、女子団体(福原愛、石川佳純、伊藤美誠)が銅を獲得した。

さらに記憶に新しい21年の東京大会ではさらにその力を見せた。この大会で正式種目となった混合ダブルスで水谷隼・伊藤美誠が組んで、日本に初の金をもたらした。ほかに、女子団体(伊藤美誠、石川佳純、平野美宇)が銀、男子団体(張本智和、丹羽孝希、水谷隼)が銅。女子シングルスでは伊藤が銅を獲得した。時には卓球大国の中国勢を脅かすなど、日本勢が確実にメダルに手が届く競技となった。

おのずと今夏のパリ大会に向け、トップ選手が激しいポイント獲得争いを繰り広げた代表選考レースも注目度が増した。女子で実績のある伊藤の落選とホープの張本美和の代表入りは大きなニュースにもなった。

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幅広い年齢層がプレーできるスポーツの卓球は、日本でも数多くの人が競技に親しむ。その中で「世界最高水準のリーグの実現」を掲げ発足したのが、2018―19年シーズンから始まったTリーグだ。前述した代表クラスの選手はもとより、国内のトップクラス、世界ランキング上位の外国籍選手らが日本各地を拠点とする各チームに所属して、白熱した試合を展開し、しのぎを削っている。

うち、沖縄をホームとしているのが、日本のエース・張本智和が2022―23年シーズンから所属する男子の琉球アスティーダ。同シーズンは2位で進出したプレーオフファイナルで、シーズン1位だった木下マイスター東京と東京・代々木第二体育館で対戦。同点で延長となり、勝負を決するビクトリーマッチで登場した張本が、気迫を前面に出したプレーで勝ちきり、2季ぶり2度目の優勝を果たした。いつも冷静さを失わない張本が、優勝した瞬間、上半身のユニホームを脱いで喜びを爆発させ、チームメートと喜び合う姿が印象深かった。

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2023―24年シーズンは、男女とも6チームとなり、日本各地で主にホームアンドアウエー方式でリーグ戦20試合を戦った。試合は第1マッチがダブルス、第2~第4マッチがシングルスで対戦する団体戦で行われる。第4マッチを終えて2―2の場合は、延長のビクトリーマッチがシングルスで行われ、勝った方が勝者となる。試合結果によって変わる勝ち点の獲得数で順位が決まり、上位3チームがプレーオフに進出。プレーオフを制したチームがシーズンの王者となる。

アスティーダは昨季に続く連覇へ執念を見せた。エースの張本が7月の開幕から好調で、チーム初の開幕戦勝利を含む4連勝とスタートダッシュに成功。さらに元中国代表の2選手が新しく加入し、張本、吉村真晴といった日本人選手とオーダーを組み合わせることにより、戦力をより充実させた。

だが、Tリーグでは取った方が優位といわれる第1マッチのダブルスはシーズン7勝13敗と苦しんだ。その一方でシングルスの第2マッチ以降を取って逆転で勝つ、というタレントをそろえた力技を勝ちパターンにして東京と激しい首位争いを演じた。最終戦で岡山リベッツと戦って敗れ、シーズン2位が確定し、プレーオフに進出した。

男子は同シーズンから6チームで戦ったことから、プレーオフに女子と同じく2位と3位が戦うセミファイナルが導入された。3位となったのは岡山だった。岡山とはシーズンでは2勝2敗の五分だった。

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プレーオフでは勝ち点差により、上位チームが下位チームのオーダーを事前に知ることができた。アスティーダはそのアドバンテージ生かし、「これなら対応できる」と見込んだオーダーで臨んだ。だが3月22日に東京・代々木第二体育館で行われたセミファイナルでは、そのアドバンテージを岡山に逆手に取られて、対戦相手を読み切られていた。徹底した対策を講じられて、シーズンでは強さを発揮したシングルスをすべて落として敗れた。ライバルの東京が待つファイナルには進めず連覇の道は閉ざされた。

昨季はプレーオフMVPに輝いた吉村は「悔しい気持ちが強い。また戻ってきて、ちゃんと自分のパフォーマンスをしたい」と雪辱を誓った。張本は「完敗と言うしかない」と話し「もう一度、優勝を狙う」と前を向いた。

ファイナルでは東京が岡山を下して王座を奪還した。

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Tリーグ構想や理念ではドイツリーグを参考に、世界トップレベルの競技をできる、観戦できるということを掲げる。アスティーダの張一博監督が試合後の会見でたびたび口にする「(勝敗が)『紙一重』の試合」が繰り広げられていることは、各チームが高いレベルで切磋琢磨している証左でもある。沖縄を含む各地で行われるトップクラスの試合は、競技者の裾野が広いという卓球の特性を生かし波及効果が期待できる。

パリ五輪は7月に開幕する。張本らTリーグで躍動した選手たちの力強く美しいプレーを心待ちにしたい。さらに五輪後の8月にはTリーグの2024―25年シーズンが始まる。捲土重来を期すアスティーダはすでに来季に向け、一部選手の入れ替えを始めるなど前哨戦はスタートしている。沖縄をホームとするチームが再び頂点を目指す熱い戦いを楽しみにしたい。

うちま・けん

沖縄県生まれ。大学を卒業後、1993年に沖縄タイムス入社。社会部、与那原支局、北部支社、学芸部などを経て、2022年4月からは運動部デスク・記者として2年間琉球アスティーダを担当した。

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