特集 ●歴史の分岐点か2022年

エコロジー社会改革へ踏み出すショルツ政権

ドイツ新政権――男女同数の閣僚を待ち受ける大きな課題

在ベルリン 福澤 啓臣

ショルツ連邦首相は、16年間続いたメルケル政権の後を受けて、国民への新年の挨拶を恒例通り大晦日に行った。首相はまずコロナ禍の厳しい状況が続いている中で国民が一生懸命頑張っていることに感謝した。次に、我々には、 25年以内に石油、石炭、ガスなど化石燃料をやめ、太陽と風のエネルギーに切り替え、気候中立社会への転換という大きな挑戦が待っている。「実現するには、国民の皆さんの協力が必要です。一致団結して、出発しましょう」と呼びかけた。

その前にドイツ連邦議会は12月8日に社会民主党(SPD)のオラフ・ショルツ氏を第9代連邦首相に選出した。「進歩」、「新しい出発」、「気候保護」、「ドイツの近代化」、「改新」などのスローガンを掲げ、エコロジー社会への転換を目指す中道左派の政権が誕生した。ショルツ首相以外の16名の閣僚は、同氏が約束したように8名ずつ男女に割り当てられた。

連邦省庁の連立3党への配分(省庁の前に連邦が付くが、ここでは省く)

社会民主党(SPD):首相(男)、内務省(女)、労働社会省(男)、

  国防省(女)、保健社会相(男)、建設住宅省(女)、経済援助省(女)、

  首相府(男)

同盟90/緑の党(緑の党):外務省(女)、経済気候保護省(男)、

  農業食品省(男)、家族省(女)、環境省(女)

自由民主党(FDP):財務省(男)、運輸デジタル省(男)、法務省(男)、

  教育省(女)

1.主な閣僚と課題の紹介

連邦首相:オラフ・ショルツ

ショルツ氏(63歳)は言葉を巧みに操る政治家ではないが、彼の言葉には説得力がある。高校生の時に17歳でSPDに入党。筋金入りの党員と言える。ハンブルク市長を経て、メルケル政権の最後の4年間は副首相兼財務相として、メルケル政権を支えた。党内では右派に属し、1昨年の党首選では左派の候補者ペアに負けている。

1昨年首相候補に選ばれて以来、SPDは選挙の二、三ヶ月前まで支持率15%前後の低空飛行を続けていた。そのため「本気で首相になれると思っているのか」とマスコミからは揶揄気味の質問をされていたが、「連邦首相になります」といつも生真面目に答えていた。

この信号連立政権では、緑の党とFDPは、基本的な政策スタンスが片やエコロジー社会経済、片や新自由主義経済と正反対の立場なので、政策上衝突するだろうが、ショルツ氏はその間をとって、落としどころを決めることになると予想される。同氏の調整能力が発揮されるだろう。

メルケル氏は、「政治は妥協である」と常に言っていた。議会では与党と野党が真っ向からぶつかり合うが、いざ投票になると、与野党の間で妥協点を見つけて連邦議会と連邦参議院を通過する場合が多い。その点英国や米国の政治とは根本的に異なる。メルケル氏は、就任前のショルツ氏を10月末にイタリアで開かれたG20首脳会談に連れて行き、各国首脳に紹介している。

ショルツ連立政権は、連邦議会において多数になったが、州政府の代表によって構成される連邦参議院ではキリスト教民主同盟・社会同盟(CDU/CSU)が多数である。つまり、一種のねじれがあるのだ。外交関係や軍隊の海外派遣などの法案以外は参議院の同意が必要である。

SPDは伝統的に分配の分野に力を入れていたが、シュレーダー政権が2002年に雇用政策でハルツ4(長期失業者と就労能力のある生活保護受給者の統合)を導入し、労働者階級を裏切ったとの批判を受けた。最低賃金の12ユーロ(時給1596円)への引き上げとハルツ4の見直しとしての「市民金」の導入は本来のSPDに戻るための政策と言える。「市民金」はまだ具体的に決まっていない。

だが、最低賃金引き上げにしてもそう簡単ではない。ドイツの賃金額は、経営者代表と従業員代表(組合)の交渉によって決まるが、その賃金交渉の自治は基本法で保障されている。ショルツ政権の引き上げはこの自治を犯すものとの批判がある上に、経営者団体は、もし12ユーロへの引き上げが法的に決まった場合、憲法裁判所に訴えると表明している。12ユーロの引き上げによって恩恵を被る労働者の数は800万人以上と言われている。国民総生産高は6兆円増加し、税収入は3兆円増えると予想されている。政府は10月1日からの導入を予定している。

年間40万戸の集合住宅建設、その内10万戸は公共住宅の建設との公約も実現が簡単ではない。大都市におけるここ数年の家賃の高騰は中間層の中央値から下の収入を得る国民を苦しめている。彼らは、ジェントリフィケーション現象の拡がりもあって、市内で家賃の払える賃貸住宅を見つけることはほぼ不可能となり、近郊に追い出されている。ドイツの持ち家住宅率が42%と低いこともこの問題の根底にある。ちなみにイタリアなどは77%と高い。日本は61%である。

SPDは、先月党大会を開き、今回のショルツ勝利に大きく貢献した幹事長のクリングバイル氏を共同党首に選んだ。後を継いだのが弱冠32歳のケビン・キューネルト氏である。同氏は16歳でSPDに入党。これまで青年部代表だったが、党内左派としてショルツ氏を批判する急先鋒であった。

経済気候保護省とロベルト・ハーベック

ショルツ内閣の最も重要な省庁は、経済省に気候保護が加わった経済気候保護省だ。緑の党の共同党首だったハーベック氏(52歳)が副首相を兼任しながら、引き受けた。

ハーベック氏を待ち構えている課題は、常識的な政治の観点からすれば、革命的と言える。ドイツ経済のエコロジー転換に着手しなければいけないのだ。2016年のパリ協定履行のために、ドイツは2045年までに炭素中立を達成すると宣言している。そのために連立協定に、国土の2%を陸上の風車建設予定地として確保し、将来建設されるビルの屋上に太陽光パネルを設置することが明記されている。

それには、まず2030年までのエネルギー転換の道筋を4年間でつけなければならない。省の抜本的な組織改革、法案の作成はもちろんのこと、さらに経済界、組合、市民を巻き込んでいかなければいけない。

ハーベック氏は、1月11日に最初の記者会見を開き、チャートを使ってこれまでの問題を指摘しながら、いかにエネルギー転換を達成できるかを説明した。まず 4月までに「太陽光パネル・ルーフ設置法」と「陸上風力法」を含む「気候保護緊急プログラム」案を作り、閣議決定まで持っていく。そして年内に必要な法案を議会通過させ、23年から具体的な作業に着手すると発表した。「ドイツ社会、つまり市民、企業が気候保護を自らの課題として受け止め、この野心的な挑戦に応じることに喜びを感じてほしい。我々と手を組みながら進めば、達成できる」と強調した。

ハーベック氏は、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州の農業大臣として評価を得た。哲学者でもあり小説家でもある。聞き手を巻き込む話し手として定評がある。

炭素中立達成の鍵を握るのはエネルギー部門

エネルギー部門はドイツの二酸化炭素排出量の31%を占め、最も割合が大きい。内訳として、電力、熱、交通があるが、その再エネ化率は2020年現在45.3%、15.6%、7.5%となっている。

電力に限ると、脱原発(12%)が今年いっぱいで 実現する。そして前政権の案では、38年までに石炭火力(30%弱)からも撤退する。緑の党はそこから大幅に前倒しし、30年までの撤退を求め、連立協定に明記させた。ただし、「理想的には」という付帯条件が付いている。脱石炭にはいくつかの条件を満たさなければならないからだ。

まずそれまでに電力の再エネ化が現在の45%から80%にまで進んでいること。風力発電の多い北から消費地の南に向けて、超高圧直流送電網が完成していること。自然の気象による発電量の変化に対応できる蓄電能力が備っている(現在は40%)ことなどが前提条件だ。さらに現在石炭産業に就労している4万人の労働者の円満な退職と転職、露天掘りで破壊された地域の再整備などが実現していないといけない。

第一の条件を満たすには、風力発電量をこれまでの2倍以上にする必要がある。風車の数は現在の3万基から6万基以上が必要だ。これまでの建設スピードでは無理である。現在送電網が未完成のため北のグリーン余剰電力が蓄電も、水素への転換もできず、多量に捨てられている。そのための補填金額が一千億円を超えている。

ドイツ風力協会によると、最も不足しているのは、人員である。まず最低でも4万人のマンパワーが必要だ。さらに風車建設の場合、現在申請から完成まで6年以上もかかると言われている行政の許認可手続きの期間短縮も大きな鍵を握っている。市民及び環境団体の反対による遅れに対しては、計画の早い段階から市民及び環境団体の参加を求めると協定には書かれている。風力発電による利益を地域住民にも行き渡るようにすべきだとハーベック氏は何度も述べている。

EU委員会が、新年早々原子力とガス発電を条件付きで持続可能なエネルギーとして認可する「EUタクソノミー」の方針変更の要望書をメンバーに送付した。直ちにハーベック氏が怒りを込めて反対の声を上げた。

「EUタクソノミー」は、どのような経済活動が地球環境にとって持続可能なのかを分類する制度だ。現在、保健基金や公共の年金基金などにはタクソノミーから外れた事業には投資しないという縛りがある。例えば、ノルウェー王国年金基金は130兆円(日本の21年の国家予算額は106兆円)もの巨大な資金を運用している。昨年11月にグラスゴーで開かれた第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)でも1京円(世界の現在の総GDPに匹敵)ものグリーン資金をこれからの30年間で投資するという約束がなされた。さらに年頭に世界最大の投資会社ブラックロック(投資総額950兆円) のフィンクCEOが、持続可能性がこれからの資本主義を発展させていくという手紙を顧客と企業に送った。

もしEUのタクソノミーの新方針が通れば、原子力及び天然ガスも持続可能なエネルギーとなり、これらの分野の企業に投資できるようになる。

財務省とクリスティアン・リントナー

次に重要なのは、財務省だ。連立合意の中でもFDP党首の同氏の意向が反映されている。パンデミックのために停止されている憲法上の国家予算の債務ブレーキは、FDPの要求通り23年から復活する。SPDと緑の党が求めていた富裕層への課税強化や財産税復活や相続税改正に関しては、連立協定では触れられていない。企業や富裕層への増税は経済成長を停滞させるというのが理由だ。FDPは新自由主義の教科書通りにトリクルダウン効果を信じているようだ。

リントナー財務相(42歳)は、企業がグリーン化とデジタル化に投資した場合、現在の10年の償却期間を4年に縮めるスーパー減価償却法を導入すると表明している。これにより企業には5兆円以上の減税効果があると言われている。

リントナー氏は非常に弁が立つ。16歳でFDPに入る。2013年以来同党の党首としてワンマンと批判されるほどの辣腕ぶりを発揮している。昨秋の選挙で自民党の得票率が10%の大台を超えたことにより、彼の党内における地位はますます強まっている。ただし、行政の経験はないので、その能力は未知数。財務省は管理が難しい官庁として有名なので、果たして同氏がうまく操れるのかと疑問視しているジャーナリストもいる。

運輸デジタル省とフォルカー・ヴィッシング

運輸省は炭素中立の達成にとってお荷物になっている交通が主要部門だ。交通はCO2全排出量の20%を占めるが、1990年以降排出量をほとんど減らしていない。ちなみに、電力部門は31%を占めるが、90年以来42%も減らし、いわゆるデカップリングを実行している。このように交通は 再エネ化が非常に遅れているので、運輸省は本来緑の党が狙っていたのだ。ドイツでやはり遅れている社会のデジタル化もこの省の管轄である。

さらに緑の党は自動車を優先する現在の交通体系の抜本的な見直しを要求していたが、連立協定では言及されていない。その上にアウトバーンにおける速度制限も、基本的人権である個人の自由に反すると主張する自民党が反対したので、断念したのだ。運輸省はFDPの前幹事長であったヴィッシング氏(51歳)が担当する。

ヴィッシング氏は弁護士が職業。ラインラント・プファルツ州の経済交通大臣を務めた。

内務省とナンシー・フェーザー

女性の連邦内務大臣(ナンシー・フェーザー、51歳)はドイツでは初めて。大臣就任の挨拶で、「ドイツにとって最大の脅威は極右である。全力を挙げて極右から社会を守る」と表明した。コロナ規制反対運動が過激化する中、ますます内務省の役割は重要である。

職業は弁護士。18歳でSPDに入党。ヘッセン州のSPD党首。

農業食品省とジェム・オズデミル

農業は緑の党にとって非常に重要な部門だ。農薬を大量散布する大規模農業は生物多様性と環境の破壊を生み出している上に、気候変動も加わって土壌は疲れ果てている。有機農業への転換は緒についたばかりだ。温暖化によってドイツの誇る森も枯れ死が広がっている。さらに豚や鳥の大量飼育は動物虐待であると批判が高まっている。肉食を減らそうという動きはFFF(未来のための金曜日)などの若者たちだけではなく、一般の国民の間にも広がりつつある。このように問題が山積しているので、農業食品省には抜本的な政策転換が求められている。

父親はトルコからの移民。息子のジェム(56歳)は18歳でドイツ国籍取得。緑の党には16歳で入党。党内でも最古参に入る。2008年から2018年まで共同党首だった。ちなみにオズデミル氏は子どもの頃から菜食している。

外務省とアナレーナ・ベアボック

緑の党の共同党首ベアボック氏(41歳)が外相に就任した。同氏は、これまで中国とロシアに対して人権問題の面から厳しい批判を重ねてきているので、両国に対してメルケル氏よりもより批判的な政策が取られるだろう。メルケル氏は経済と人権問題のバランスを上手に取ってきたが、新内閣になって悪化を懸念する声が経済界から聞こえる。ベアボック氏は、さらにロシアとの共同プロジェクトであるノルドストリーム2(バルト海に敷設された2本目のガスパイプライン)の稼働に反対している。

現在ウクライナの東部国境に10万人ものロシア軍が演習と称して集結している。そのため新外相は17日にキエフに飛んだ後、翌日にはモスクワで老練なラブロフ外相と会談している。バイデン大統領も交渉しているので、ベアボック氏の努力が蟷螂の斧のように見えてしまう。

野党の党首としては一定の評価を得てきたが、外相としての力量は全くの未知数。ベアボック氏はロンドンのエリート大学で国際法の修士課程を修了している。少女期には国体クラスのトランポリン選手であった。

野党としてのキリスト教民主同盟・社会同盟党(CDU/CSU)

メルケル氏の16年間が幕を閉じ、野に下ったCDUは首相候補者だったラシェット氏が党首を辞任したので、1月22日のオンライン党大会でフリードリッヒ・メルツ氏(66歳)を後任に選んだ。メルツ氏は三度目の挑戦でやっと目標に達したことになる。12年前にメルケル氏との党内闘争に敗れた後、一時政界を去り、経済界で活躍した。2016年から20年までの4年間はブラックロックのドイツ部門の会計監査会長をしていた。経済界は経済に明るい新党首を歓迎している。

メルツ氏が引き受けたCDUは様々な問題を抱えている。まず支持層の高齢化がある。昨年の総選挙では同党投票者の66%が60歳以上であった。21歳以下の新投票者の間ではほとんど人気がなく、7%という始末だ。次の問題は女性の間でも人気がないことだ。党幹部にもほとんど女性がいない。これまでメルケル氏が女性首相として活躍していたので、CDUのこの問題を隠していたとも言える。果たして66歳のメルツ氏が若者や女性たちの関心をどこまで掘り起こせるかだ。今年の3月から5月にかけて三つの州選挙がある。3州ともCDU政権であるが、果たして新党首の下で維持できるか。

メルツ氏は17歳でCDUに入る。このように見てみると、ショルツ首相、リントナー財務相、オズデミル農林大臣、キューネルト社民党幹事長など高校時代から政治に目覚め、活躍している政治家が多い。

2.コロナ危機から抜け出せられないドイツ

コロナによる累積死者数が昨年の11月25日に10万人の大台を超えた後、毎日300人前後の死者が出て、1月20日現在11万7千人にもなっている。死者の内10万人以上が60歳以上と発表されている。60歳以下は死者数こそ少ないが、重篤化する患者が多い。ウイルスはデルタ株からオミクロン株に移り、1月21日に1日の新規感染者数が14万人を超えた。

これらの数に占める未接種者の割合は発表されていない。信頼できる統計データがないからだ。ドイツには保健所が約400あるが、デジタル化されていないので、データが簡単に揃わないのだ。推定だが、この新規感染者及びコロナ入院患者の8割以上が未接種者(人口の24.6%)だとされている。11月から12月にかけて病院の集中治療室がいっぱいになり、他の重症患者や急患を受け入れられない状況が続いていた。

このように未接種者がドイツの集中治療体制を独占しているのは許されないという空気が11月以降国民の間に広がるようになった。ワクチンを接種するかどうかは個人の権利に属するが、未接種者は他の人にウイルスを感染させるだけでなく、医療施設を独占しているので、他の人の権利を侵害している。だから、権利の濫用だと批判されている。その結果、全国民の摂取義務の賛成者が11月以来ぐっと増えている。それまではほとんどの政治家が反対していた。個人の基本権利を声高に主張するFDPのリーダーたちさえも賛成に回りつつある。憲法裁判所が11月30日に、FDPや市民が違憲だと訴えた夜間禁止を含むロックダウンに対して、合憲と判断を下したことも影響している。

集中治療室と機器は十分あると言われているが、マンパワーが不足していて、対処できない。看護師などの待遇が悪いので辞めていく人が多い上に、その後が埋まらないのだ。そしてスタッフは2年近くの治療と看護で疲れ切っている。政府はスタッフの抜本的な待遇改善を約束しているが、まだ実現していない。

全国民のワクチン義務化の動きに対して、規制反対デモが先月以来増えている。数百人から、時には一万人を超えるデモが様々な都市や町で続いている。数百人のデモ隊はSNSで連絡し合い、ほとんどが無届で、散歩デモと称してある程度間隔をとって歩くのだ。

これらのデモの取り締まりを困難にしているのは、「アイデンティタリアン運動(白人至上主義者の移民反対運動)」などの極右、さらに右翼政党AfDの党員やシンパ、加えてワクチン反対の一般市民が一緒にデモをしていることだ。これらの市民には、例えばホメオパシー信奉者やオータナティブ教育で有名なシュタイナー学校の支援者なども入っている。彼らはより自然な生活環境を求めて、プラスティックなどの日常品を拒否しているが、ワクチンも受け入れない。政府は、右翼が組織するデモに一般市民は距離を置くように訴えているが、あまり効果がない。

規制反対デモの参加者はマスコミにも敵意を示している。インタビューに答えないで、「嘘つきジャーナリスト」などの罵倒を浴びせる。

さらにSNSを使っての殺人予告や脅かしが非常に増えている。これらの殺人予告への対応だが、大臣クラスになると、連邦警察が24時間の身辺警護をするが、問題は小さな地方自治体の首長たちで、彼らには24時間体制の警護は望むべくもない。彼らは家族関係、あるいは子供たちの学校関係も知られているので、心配が尽きない。ここ数年自治体の首長に立候補する人たちが減っているが、このような脅迫が大きな原因の一つである。

このように2年近くも続いている危機的状況の中で、緊急に手腕が問われる保健大臣に任命されたのが、SPDのカール・ラウターバッハ氏(58歳)である。多くの国民、あるいは野党のリーダーからも現在のコロナ・パンデミックに最も適任だと目されていた人事だ。

ラウターバッハ氏は労働者階級出身のため進学コースに進めず、苦労したが、最終的に秀才ぶりを発揮し、大学進学を果たした。医学と疫学と衛生学を専攻。ハーバード大学に留学し、医学博士号取得。ハーバード大学の客員教授とケルン大学の教授もしている。ただし、現在は連邦議員なので、休職している。

3.コロナ・パンデミックに加えてインフレが国民を直撃

今年に入り、感染者数がドイツでも爆発的に増えているが、重症化率が低いので、オメガ株が盛んだった11月末に比べて入院者数は半減している。そして、集中治療室患者の数も減っている。ただ問題は、感染者はPCR検査で陽性となると隔離される。その数が多くなると、社会生活に必要な医療・看護・警察・消防などの活動及び食料品店の営業などに支障をきたすので、隔離期間をこれまでの2週間から1週間に短縮する方向だ。

果たしてこの感染力の強いオミクロン株による集団免疫生の獲得によってコロナが収束化に向かうのか、あるいは国民皆ワクチン接種義務によって収束させるのか、この数ヶ月で答えが出るだろう。英国、フランスなどは前者で、オーストリアは後者の選択をした。ドイツは現在その岐路に立っている。

昨年夏から物価が上昇し続けている。昨年のインフレ率は3.1%だった。12月は5.3%だった。石油やガスなどの輸入原料の価格が高騰している上に、年頭にCO2税も1トン3325円から4000円に上がったので、ガソリンや暖房費が値上がりしている。そして収入の少ない国民層を直撃している。政府は救済すると言っているが、まだ具体化していない。

新政権の各省庁が改革案を作成し、議会に法案として提出するにはもう少し時間がかかるようで、まだ発表されていない。ベルリンにて 2022年1月22日

 

ふくざわ・ひろおみ

1943年生まれ。1967年に渡独し、1974年にベルリン自由大学卒。1976年より同大学の日本学科で教職に就く。主に日本語を教える。教鞭をとる傍ら、ベルリン国際映画祭を手伝う。さらに国際連詩を日独両国で催す。2003年に同大学にて博士号取得。2008年に定年退職。2011年の東日本大震災後、ベルリンでNPO「絆・ベルリン」(http://www.kizuna-in-berlin.de)を立ち上げ、東北で復興支援活動をする。ベルリンのSayonara Nukes Berlin のメンバー。日独両国で反原発と再生エネ普及に取り組んでいる。ベルリン在住。

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