論壇

独の再生可能エネルギー進展を支える仕組み

脱原発決議、固定価格買取制度から市民参加で進む

在ベルリン 福澤 啓臣

はじめに

ドイツではエネルギーヴェンデ(直訳すると「エネルギー転換」)と称するエネルギーの大変革が市民の参加の下に進行している。原子力と化石燃料をやめて、再生可能エネルギー(以下再エネと省略)への全面的な転換を目指す今世紀の大挑戦である。電力、交通、熱の分野で20世紀末から取り組んでいるが、特に電力における転換が進んでいる。

2018年のドイツの発電量における再エネの割合は40%にも達した(フラウンフォーファー研所)。ドイツではFIT(Feed in Tariff=固定価格買取制度)が2000年に現在の形(再エネ電力の高価格での優先買取)になり、18年間で40%にまで伸びたのである。政府が目標にしている2030年の65%は実現可能だと予測するシンクタンク(アゴラ・エネルギーヴェンデ)もある。ちなみに日本政府の2030年の目標値は22%から24%である。ドイツの再エネの進展を支えるいくつかの仕組みについて歴史を振り返りながら、論考してみたい。

市場の自由化とチェルノブイリ・ショック

ドイツの電力事業は19世紀半ばの産業革命以来、自治体の事業として普及していった。第2次世界大戦後の経済成長に伴って大量生産、大量消費に見合う原子力発電および大型火力発電に依存した集中システムが発展していった。そして、事業形態としては発電から送電、さらに配電と小売まで一社で取り扱う垂直統合型の8社体制が誕生した。電力事業には、競争が成立しにくいので、このような自然独占体制が適切と見なされ、1998年の自由化まで続いた。

自由化のきっかけは、1996年に出されたEU(欧州連合)からのエネルギー市場自由化の指令であった。EU指令は法的拘束力を持ち、加盟国は一定期間内に指令に沿って国内法を改正しなければならない(EU離脱派は自国内の法律を超えるこれらの指令を非常に嫌っている)。この背景にあったのは、80年代以来世界中に広がった自由化の波である。 自由化により競争が生じると、コストパフォーマンスが良くなり、商品が安くなって、消費者が得をするという考えが経済政策として英国のサッチャー首相や米国のレーガン大統領によって推進され、 世界的に広まった。それとEUの単一市場統合にはモノとカネとサービスに関して一国の障壁の除去と自由化が必須であった。

EU自由化指令が出た後、ドイツでは1998年以来エネルギー事業法の整備が順次行なわれ、電力業界を支配していた8社体制が解体された。まず発電と小売部門が自由化される。次に2011年に送電網が大企業の所有から切り離されて、中立化された。そして連邦ネットワーク庁の管理下に置かれる。地域配電網も別会社になるか、都市公社(後述)によって買い戻されたりした。 自由化後に8社の電力会社は4社(E・ON、RWE、 EnBWおよび Vattenfall)に統合され、現在も存続している。しかし、脱原発および脱炭素は自由化指令に含まれていなかった。

反原発の運動は、すでに70年代から原発建設予定地などで闘われていたが、全国的に広がっていったのは、1986年のチェルノブイリ事故以降である。放射性物質が1500kmも離れたドイツにも降り注いだために、原子力発電の怖さを肌で感じた市民たちが様々な運動を立ち上げたのである。例えば、人口2500人足らずのシェーナウ市のスラデックさんらの市民グループが原子力の電気に反対し、地域の配電網企業から同市の配電網を買い取ったのは1996年だった。だが、当時電力の小売は自由化されていなかったので、直ちにグリーン電力を配電することはできなかった。

さらなる資本主義の発展拡大を目指す自由化と資本主義の成長を支える大規模集中型の原子力エネルギー体制に反対する市民運動が不思議に噛み合って、ドイツの再エネの進展があったともいえる。 もしEU指令による電力の自由化がなかったとしたら、小資本しか出資できない市民による再エネの大きな発展は非常に難しかっただろう。

FIT(固定価格買取制)と受け入れ義務

ドイツでは社民党と緑の党の連立政権によって2000年に最初の脱原発が決議された。同時に再生可能エネルギー法により現在のような形のFIT制度が導入された(日本では2012年に導入)。誕生したばかりの再エネの電力は、価格的に他の電源と競えないので、再エネ発電業者から市場のレベルより高い価格で電力を買い取る助成制度が必要であった。買取価格は(最初は市場卸値の3倍以上)20年間保証されるので、投資者は安心して先行投資ができる。

それとドイツの場合は、送電事業者には発電された再エネ電力を優先的に引き取るという受け入れ義務が課せられた(日本ではこの受け入れ義務が導入されなかったため、再エネ発電事業者の立場は弱い)。電力の市場価格とFIT価格の差額は賦課金として電気料金に含まれ、消費者が負担する。ただし、ドイツの企業の中でもアルミニウム産業などの電力の大量消費者は国際競争に太刀打ちできるようにと賦課金は免除されている。

賦課金の負担が電気料金の高騰化につながり、消費者に大きな負担だと批判する声もあるが、正しくない。電力スポット取引所(後述)では安い電力から売られていくメリット・オーダー制が実施されている。原料費がかからない再エネ電力は限界費用が安いから、市場においていち早く売られ、価格を引き下げる効果がある。これによる減額は賦課金の額より多い。例えば、2013年には再エネによる価格引き下げ額は3兆7920億円で、賦課金の2兆4480億円を1兆3440億円も上回っている。つまり、消費者にとって1兆3440億円も安くなっていることになる。

再エネ発電の増加に伴って問題になるのは、電力の供給過剰である。供給過剰が続くと、系統が不安定になるので、系統事業者は他の発電方式の電力だけでなく、再エネ電力も遮断せざるを得ない(Redispatch)。しかし、ドイツではそのカットされた電力量に見合った額を補償している。その額が最近増えて2017年には1680億円にも上り、問題になっている。その解決は再エネ電力の取引所における直接販売である。

数年前から風力および太陽光による発電コストが世界的に非常に下がり、FITなしでも十分他の電源と競争できるようになってきている。そのためドイツでは2014年から発電事業者はFIT、あるいは取引所で自ら直接販売するFIP(Feed In Premium=市場プレミアム )のどちらかを選べるようになった。FIPでは取引所での販売価格と固定価格の差額をプレミアムとしてもらえる。さらに2017年以降750 kW以上の発電設備は全て入札制度になり、その電力は取引所での直接販売に移行した。これでFITはなくなり、再エネ電力の市場統合というFITの導入目的は達せられたのである。ただし、FITの有効期間が20年間なので、完全に終了するのは2035年ごろである。

電力の取引:相対取引と先物取引所とスポット取引所

再エネの進展はドイツの電力事情および電力市場を複雑にしている。現在ドイツの電力取引は三つの部門に分かれている。最も量が多いのは、取引所を経ないで、直接取引する相対取引(OTC取引= Over The Counter)である。全体量の4分の3を占めるといわれている。相対取引には数年にわたる安定した価格の長期契約が多い。それに加えて二つの取引所がある。ライプチッヒの先物取引所(2002年設立)では6年先まで取引でき、長期にわたる基礎負荷電力を売買している。太陽光と風力による電力は天候に左右される性質上扱われていない。

さらにフランスのパリに1日前と当日取引を扱うスポット(実物)取引所(2008年設立)がある。ここで取引されている電力は再エネも原子力も化石燃料も区別されないで、全てグレイ電力として売買されている。15分前まで取り扱い可能だ。価格としてはスポット市場がもっとも高い。再エネ電力に特化した小売り業者は主に相対あるいは先物取引によって水力発電による電力を国内だけでなく、スウェーデンやスイスからも購入している。

送電系統

自由化政策の中でもっとも遅れたのは、送電系統の切り離しおよび中立化で、2006年から2012年の間に実施された。垂直統合の4大企業から送電系統事業者として独立した。4社(50herz、amprion、TenneT、TRANSNET BW)が送電網を管理している。その業務内容は遠距離高圧送電(22万ボルトから38万ボルト)、系統内の電力確保および安定化、FIT賦課金の取り扱い、さらに隣国との電力輸出入である。発電業者からの電気の受け入れに関して、無差別主義が大原則で、連邦ネットワーク庁が規制している。この分野に関しては市民の出る幕はほとんどない。

地域配電網と自治体による業務権のリース

この系統部分の分離・独立はドイツの特徴といえるが、日本では送電網と一体化している。高圧送電網から流れてくる電気を最終消費者まで届ける配電網(3万ボルトから11万ボルトの中電圧及び 230ボルトから1000ボルトの低電圧を扱い、ほとんどが地下ケーブルで送られている)は、地域の都市公社が所有しているか、企業(大手電力会社の子会社が多い)が所有している。ここでも無差別主義が原則になっている。配電網とメーターの管理が業務である。その業務権のリース業者は自治体の議会で二十年ごとに決められる。だが、そこを流れる電気は小売事業者の商品である。エネルギー都市公社が配電網業者と小売業者を兼務している場合もある。電気とガスを扱っている事業者が多い。2008年に855社、2018年現在913社ある。消費者にとって重要なのは小売業者である。ただし、配電網事業社の社員が年に一回消費者の家にメーターを読み取りに来る。その数字が小売業者に連絡されると、そこから請求書が送られてくる。誰が配電網事業者なのかは関心外である。

地域配電網事業者にはピンからキリまである。最大の事業者はドルトムントやデュッセルドルフなどの旧ルール工業地帯の750万口の顧客に配電しているWEST Netz(西ネット)有限会社だ。いくつかの都市公社が合併して2013年に開業した。従業員5100名、売上高7000億円という巨大企業である。同社は都市ガスと地域暖房の熱も配給している。小さな事業者の例は後で述べる。

小売事業者と再エネ小売

電力小売事業は1998年の自由化以来発電事業者と並んで最も発展した業界で、2018年現在1300社ある。その中には4大手電力会社はもちろん、エネルギー都市公社もたくさん含まれている。再エネ電力に特化した事業者もたくさん存在している。中には、スイスやスウェーデンの水力発電による電気100%を売り物にしている企業もある。4大企業も業種品目として再エネ電力を販売している。インターネットの小売業者比較サイトでは数百の商品がリストアップされていて、マウスのクリック一つで商品を選べる。価格は三人家族だと年間消費4000kwhで13万円ぐらいから選べる。最近は再エネ電力だから割高ということはない。それとあまり意識されていないが、特に注文しなくても通常の電力には40%の再エネ電力がすでに含まれている。

前述のシェーナウ電力会社は、南ドイツの黒い森に位置するシェーナウ市(人口2500人)の市民グループの活動から生まれた。チェルノブイリ原発の事故後、まずチェルノブイリの子ども(健康被害の大きかったベラルーシの子供が多い)の保養支援を始める。さらに原子力発電による電力の供給を阻止しようと地域の配電を担っているラインフェルデン電力会社(1974年に配電網を市から3600万円で買収)と交渉したが、埒が明かなかった。

出来るだけ再エネ電力(地域内の水力発電所を使う)を配電するように市議会に働きかけた結果、同企業から配電網を買い上げないと目的が達せられないことが分かる。3億円という巨額を要求されたが、「電力の反逆者」として全国的に有名になり、寄付が集まって、1996年に 配電網を買い取ることができた。そして、市議会から配電権を委託された。その後彼らは上記の会社を設立し、自由化によって可能になった再エネ専門の電力小売業を1999年に始め、現在20万口の顧客に再エネ電力を全国で販売している(売上高50億円)。そして反原子力と脱炭素及び再エネ推進運動の先頭に立っている。

再エネ電力専門の小売会社として最も大きいのはハンブルクにあるリヒトブリック(Lichtblick=光明)社で、60万口の顧客を抱えている。次に来るのはシェーナウ電力会社、さらにグリーンピース・エナジーで8万口と続く。ミュンヘン都市公社は23万口抱えているが、大企業同様エコ電力も電源を特化しない普通の電力も売っている。このように見てくると、ドイツの電力事情が複雑なのが分かる。

エネルギー都市公社

エネルギー都市公社(シュタットベルケ)は都市だけではなく、村にもあり、両方をまとめてエネルギー自治体公社とも呼ばれる。一つの都市に一公社が原則だが、いくつかの自治体が協同して大きな都市公社になっている場合もある。公社はドイツに900社ほどあるが、その事業内容は発電、配電網の管理、配電、小売さらにガスと地域暖房と多岐にわたっている。その組織形態は行政内の一部門あるいは行政から分離されて公益法人、有限会社、株式会社と様々である。

都市公社の歴史は19世紀半ばまで遡れる。住民のためのインフラ事業は多くの住民に手の届く料金でサービス(清掃、病院、交通、エネルギー、水道など)を届ける都市社会主義の考えから出発した。ところが、第二次世界大戦後80年代と90年代に自由化の波が押し寄せる。多くの自治体が赤字に陥っていたこともあって、民間企業に委託するか、譲渡した。ところが2000年を境にして自由化反対の風が吹き始め、住民が住民投票で是非を問いかけ、買い戻す自治体が増えている。

都市公社にもピンからキリまである。最大の都市公社はミュンヘン都市公社で、2018年現在従業員数は9067名、売上高は8800億円。配電網は1万2千kmにも達している。原発(22年に操業停止)にも資本参加している。しかし、2008年以来再エネに力を注ぎ、水力、太陽光、風力、バイオマスによる発電を行い、小売もしている。2025年までに全電力を再エネ化する目標を掲げ、その投資額は1.131兆円にものぼる。現在23万口の顧客にグリーン電力を供給している。

もう一つの例は、小さな自治体のヴォルフハーゲン市(人口1万4千人)の都市公社である(注1)。2000年に大企業E・ONから地域の配電網を買い戻し、地域内で発電されたグリーン電力を供給している。ただし、二つの問題がある。一つは同公社のグリーン電力を買わないで、外からの電力を購入している住民の存在である。配電網中立の原則に従ってその人たちに通常のエネルギーミックスの電力を届けなければいけないことだ。もう一つの問題は、現行の再エネ法によると、FITの恩恵を受けている電力は電力市場での販売義務がある。逆にFITの適用を受けないで、つまり市場を通さないでグリーン電力を特定の顧客に直接販売することは可能である。

ドイツの電力取引所では前述したように全ての電力をまとめてグレイ電力として売買している。厳密にいえば、発電段階では再エネ電力と原子力、あるいは化石燃料電力は区別できるが、一度送電網に送り込まれた電力は全て一緒に流れるので、区別できない。つまり、「ある量のグリーン電力を流しました。同じ量の電力を取り出しました」という見なし再エネ電力なのだが、現在のシステムでは仕方がない。

近い将来に小規模の人口を抱える都市公社がまず地域の配電網を買い戻した上で、太陽光、風力、バイオマスなどの発電を組み合わせ、地域内の住民の需要を満たす量を発電する。太陽光と風力は天候に左右されるので、そのアンバランスをバイオマスあるいは蓄電センターや個人の蓄電池で調整する。これによって地産地消の地域循環サイクルが完成する。さらに供給過剰になった電力を外に売るためとリスク軽減のためにも、外の系統とも接続する。ただし、大量の電力のやり取りは必要ないので、大規模送電網は必要ない。ヴォルフハーゲン都市公社はこのように計画しているが、実現すれば全く純粋なグリーン電力地域循環(地産地消)が完結する。そして、電力に限れば、30年後か40年後にはドイツ全体がすっぽりと緑色で覆われる日が来るだろう。

市民参加に適したエネルギー協同組合

チェルノブイリ事故の後に反原発運動は盛り上がったが、直ちに電力システムの変革の方向には向かわなかった。市民が反原子力の考えを再エネという形で実行できるようになるには、1998年の電力自由化を待たなければならなかった。それと2000年の本格的なFIT導入が加わり、ドイツの再エネは急激な進展を見せる。

その際市民の参加の受け皿になったのはエネルギー協同組合である。組合には労働組合(ゲベェルクシャフト)と協同組合(ゲノッセンシャフト)があるが、後者が市民による再エネ参加に適切であった。有志が集まり、目的を決める。財政計画を立て、定款を決めた上で、三人の創立メンバーが揃えば、州の協同組合会議所に法人として登録できる。それから再エネのプロジェクトを立ち上げるのは簡単だ。資金も例えば一口100ユーロなどに設定し、集める。個人で何口でも払い込めるが、議決の時の票はあくまで一人一票である。都市公社が会員になることも可能だ。ある程度の資金が集まれば、銀行から融資が仰げる。

固定価格買取制度があるので、プロジェクトが実現すれば、収入が保証される。利益も確保でき、出資者には例えば、5~7%の配当金が払える。だが、多くの市民はリターンよりも脱原発、気候変動に対する脱炭素のために喜んで出資している。2007年段階で101あったエネルギー協同組合は現在900を超えている。その内三分の二が太陽光発電協同組合である。17%が風力。参加総人数は18万6000人を数える。投資された額は推定だが、1500億円ほどに上る。

市民による再エネへの投資の比率は、2012年末までに合計で46.0%に上っている。その内訳は一般個人所有25.2%、エネルギーファンドや協同組合での9.2%と合わせて34.4%、それに一般投資への11.6%が加わる(注2)。ということは、半分近いわけだが、特に最初の段階での市民の出資は再エネ転換への大きな弾みになった。ここ数年は投資意欲が鈍っている。2016年から750kW以上のプラントは入札制になり、前述したように取引所での直接販売に移行したからである。大企業も時代の趨勢を見極め、積極的に投資している。そして、これからの一層の伸びが期待されている洋上風力は投資額が大きいので、市民が直接参加する機会は限定されている。

高いドイツの電気料金

ドイツの電気料金は高いと言われている。EU内ではデンマークに次いで高い。 2018年現在1kWhで 29.43セント(37.17円)である。内訳を見てみよう。

まず発電コスト:19.3%、送配電託送料とメーターの料金:25.6%、配電委託料:5.7%、消費税:16%、フィット賦課金:23.6%、電気税:7.0%、その他:2.8%。このように実際のコストは50%弱で、賦課金や税金などが54.2%も占めている。だからドイツの電気そのものがそれほど高いといえない。アンケートを見ると、国民は環境のためにいいならと考え、割高な電気料金を受け入れている。

電気料金の国際比較を見ると、筆頭のデンマークとドイツの40円近い料金に比べて、日本は約24円で真ん中ぐらいに位置している。安いのは、 水力発電が多いカナダや自由化が進んでいない韓国などで10円程度である。

再エネの現状とエネルギーヴェンデの問題

ドイツの電力に占める再生可能エネルギーの割合は冒頭に紹介したように2018年には40.4%に達した。2002年は8.6%だったので、16年間で5倍に伸びたことになる。

その電源構成は、再エネ40.4%、原子力13.3%、ガス7.4%、褐炭24.1%、石炭13.9%、その他0.9%である。さらに再エネの内訳は、風力20.4%、太陽光8.4%、バイオマス8.3%、水力3.2%である。風力発電による電力が圧倒的に多い。

このように脱原子力と再エネ電力に関して先頭集団を率いて走っていたドイツだが、エネルギーヴェンデ全体、つまり熱と交通も見てみると、最近足並みが乱れて、 先頭集団から脱落しつつある。特に交通で遅れをとっている。ディーゼル・エンジンに頼りすぎた自動車産業に寄りかかって、出遅れてしまった感じだ。CO2(二酸化炭素)も問題だが、NOX(窒素酸化物)による空気汚染がひどく、いくつかの都市ではディーゼル車の走行禁止の判決が出て、すでに実施された。産業と行政が馴れ合った自動車ムラの存在が阻害要因だった。

さらに、ドイツの産業革命と戦後の経済成長を支えた褐炭と石炭によるCO2排出が、雇用と地域発展の問題と絡んで、足を引っ張っている。そして、現状のままでは2020年の気候目標(90年の温室効果ガス排出量の40%減)は達成できない。電力部門では成功を収めつつあるドイツだが、エネルギー全体の再生可能エネルギーへの転換という今世紀の挑戦はまだまだ先の長い闘いになっている。

注1)村上敦、池田憲昭、滝川薫『ドイツの市民エネルギー企業』136頁、2014年、学芸出版社

注2)同上:17頁 

ふくざわ・ひろおみ

1943年生まれ。1967年に渡独し、1974年にベルリン自由大学卒。1976年より同大学の日本学科で教職に就く。主に日本語を教える。教鞭をとる傍、ベルリン国際映画祭を手伝う。さらに国際連詩を日独両国で催す。2003年に同大学にて学位取得。2008年に定年退職。2011年の東日本大震災後、ベルリンでNPO「絆・ベルリン」(http://www.kizuna-in-berlin.de)を立ち上げ、東北で復興支援活動をする。ベルリンのSayonara Nukes Berlin のメンバー。日独両国で反原発と再生エネ普及に取り組んでいる。ベルリン在住。

出版・ドイツ語:

 『Aspekte der Marx-Rezeption in Japan (日本におけるマルクス主義概念受容の検討)』

 『Samurai und Geld (サムライとお金)』

 『Momentaufnahmen moderner japanischer Literatur (現代日本文学のポートレート)』(共著)

日本語:

 『現代日本企業』(共著:東大社研、有斐閣)

 『チェルノブイリ30年と福島5年は比べられるか』 (桜美林大学出版)

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